Leicaエクスペリエンスラボ

人類の未来を拓く宇宙研究
重力が生命体遺伝子に与える影響を解き明かす。Case Studies

ライフサイエンス

2015年7月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士、油井亀美也さんが国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在のためソユーズ宇宙船に搭乗して出発したニュースは大きく報道され、日本中が期待と興奮に包まれたのは記憶に新しいところです。油井さんは、10人目の日本人宇宙飛行士です。また、JAXAは、2020年度に初打ち上げを予定している新型国産ロケット「H3」の開発計画を発表するなど、日本の宇宙開発は目覚ましい発展を遂げています。一方で、宇宙環境での医学・生物学の基礎研究も目覚ましい成果を挙げています。線虫を使って宇宙環境が筋肉に与える影響について研究されている、JAXAの主任開発員である東端 晃先生にお話しを伺いました。

 

宇宙を旅する線虫

JaxaHigashibata_profile東端先生は、主に線虫を使って宇宙空間での生命体の筋肉、骨のみならず遺伝子の変化を明らかにする研究をされています。「線虫を使って実験をしていたところ、筋肉を構成する分子のひとつであるミオシンの発現が下がることがわかりました。それから筋肉をメインのターゲットとして見るようになりました。宇宙実験は、物理的なスペースの問題があるので、1mmほどの線虫は限られたスペースでn数がとれ、またライフサイクルが短いので宇宙実験には都合がよいのです。また、線虫は遺伝子情報をヒトと比べるとかなり似たところがあり、線虫の筋肉も宇宙へ行くと痩せる、高等な生物と同様な現象が拾えるのも、実験サンプルとして優れていると思います。」

 

線虫の幼虫を培養バッグに入れ、宇宙へ打ち上げます。幼虫は、4日後には成虫となり卵を産みます。この成虫の一部を凍結して保存することで、第一世代(幼虫から成虫になるまで宇宙で育った個体)がサンプリングできます。残りの線虫はさらに育てて、最後に凍結保存します。ここで、卵から発生を経て成虫になるまでの全過程を宇宙で過ごした第二、第三世代がサンプリングできます。これらを地球に戻し遺伝子とタンパク質の解析をします。

 

微小重力が生命体に与える影響

宇宙空間と地球環境の最も⼤きな違いは、重⼒です。宇宙⾶⾏⼠が、宇宙に滞在すると筋⾁や骨が衰えることは、広く知られています。微⼩重⼒は⽣命体にどのような影響を与え、どのようなメカニズムで衰えが発⽣するのでしょうか。「実は、まだよくわかっていません。重⼒を物理的なパラメーターと捉えると、重力が変化することに対して⽣物の器官のどこかがそれを感じ取って、化学的な変化、すなわち細胞内の情報伝達に変換していると考えられます。その結果、痩せるという症状として現れてくる。物理的なものが化学的なものにスイッチする境界線があるはずだと、多くの研究者が注目しています。しかし、まだ重⼒を体内で感じる場所がわかっていないのです。そのポイントがわかれば、そこをブロックすることで宇宙に⾏っても筋肉が衰えなくなる可能性につながるのではないかと考えられるわけです。微小重力で観察される現象として、筋⾁が痩せることとあわせて、エネルギー代謝に関連する分⼦の発現減少が起こり、⼀⽅で宇宙空間では運動量が落ちるということも捉えられてきています。この3つの観点のトライアングルがあるのですが、運動しないから筋⾁が痩せるのか、あるいは筋肉が痩せるから運動しなくなるのか、また運動しないからエネルギーがいらなくなるのか、無重⼒がエネルギーを不要にしているから動けなくなって筋⾁が痩せるのか、いずれも鶏と卵のようにどちらが先かわからない状態で、解明されていません。」

画像提供: 宇宙航空研究開発機構

画像提供: 宇宙航空研究開発機構

左画像) 地上で模擬微小重力(B)と、通常状態(A)で栽培したシロイヌナズナの比較写真

また、植物でも同様に微⼩重⼒空間では、地球上では起きえない現象が起きます。左の画像は、通常の地上の状態と、擬似的に微⼩重⼒にした空間にいれた状態の⽐較です。重⼒がある環境では、規則正しく根は下に、茎は上になります。しかし、微⼩重⼒下では無秩序にバラバラになっています。「⽣体内で重⼒方向を感じた後、植物ホルモンの局在が姿勢の方向を決めていると⾔われていますが、正確にはわかっていません。」

 

 

 

火星に農作物を作る畑ができる可能性も。地球研究の未来。

まだまだ未知に溢れる宇宙ですが、 これからはどんな研究がより注目されていくのでしょうか。「これからは、⻑期滞在に関する研究が伸びていくでしょう。人類がより遠くの惑星へ⾏くことが期待されていますから。将来的に⽕星に年単位で滞在するとなると、⾷料などを地球から持っていくのは不可能です。現地で⾃給⾃⾜できるシステムを作らないといけない。地球から持って⾏った植物を⽕星の地 上にそのまま植えれば育つとかいうと無理なので、まず⼟壌を改良し、そこに微⽣物を投⼊して⼟壌を作り上げることが必要です。これからは、そういう環境科学的なこともどんどん進んでいくでしょう。」

今後も驚くべきスピードでの進化が予想される、宇宙研究の現場。ライカマイクロシステムズは、研究者のハイレベルな要求に⾰新的な技術で応え続けます。

国⽴研究開発法⼈ 宇宙航空研究開発機構 主任開発員東端 晃(ひがしばた あきら)先生

1998年3月:東京工業大学大学院博士後期課程修了。1998年4月:宇宙開発事業団 入社。現職。