34億年前の微化石から、火星の生命体にまで広がる壮大な物語。
ミクロの化石から生命誕生の謎に迫る。Case Studies

工業・産業

生命はいつどのように誕生し、どのように進化していったのか、この謎を解く鍵が、実は微化石と呼ばれる顕微鏡がないと見えないほど小さなミクロの化石にあります。その微化石と火星の生命体にまで広がる壮大な物語について、名古屋大学大学院環境学研究科 教授の杉谷 健一郎先生に伺いました。

 

生命の進化の概念を覆す「世紀の大発見」

杉谷先生と、ライカ顕微鏡

地球は46億年前に誕生し、生命の誕生は40億年前と言われています。最初に原核生物と呼ばれる細胞内に核を持たない生命体が誕生し、それから約20億年を経て細胞核を持つ真核生物と呼ばれる生物が生まれたと信じられています。ところが、杉谷先生はこの定説を覆すことになるかもしれない発見をされました。「2001年にオーストラリア北西部で、30億年前の化石を見つけました。これは、大きさが数10ミクロンあり、この時代の化石としては考えられないほど大きなもので、形態的にも複雑なものでした。それ以前にも、南アフリカの34億年前の地層に、私が30億年前の地層で見つけたのと同じような化石が発見されたという報告がありましたが、それは保存状態が悪く画像も不鮮明でした。南アフリカにあるならばオーストラリアにもあると考え2009年に再調査に行ったところ、ピルバラ地域に広く分布しているスティルリープール層という34億年前の地層から、大型の微化石を発見したのです。」

 

 

 

以前にも、30億年以前の地層から微化石が発見されていましたが、それのほとんどは数ミクロンと小さく形態も単純なものであることから原核生物であると考えれていました。ところが、杉谷先生が34億年前の地層から発見された微化石は、30ミクロンから100ミクロンもあり形状も複雑で、真核生物である可能性があるのです。「現存している確実な太古の真核生物化石は、18億年前のものです。それから16億年も遡る34億年前に真核生物が存在したとするならば、今まで信じられていた生命の進化の概念が覆るということになります。」

 

微化石と認定されるための条件

古い地層に微生物のようなものが発見されたからと言って、その全てが化石であるわけではありません。発見したものは慎重に検証し、化石であることを証明する必要があります。化石であることの条件とはなんでしょうか。「第一には、有機物でできていること。水の中でできた堆積岩の中に入ってることも条件です。マグマが固まった石の中に化石に見えるようなものがあったとしても、マグマができるような1000℃のところでは生物は生きられない。また、微生物はタフなのでちょっとした岩石のひび割れの中にも入っていく。なので、化石が入っている場所がその石ができた時にすでに存在し、後から入ったものでないこと、これも絶対条件です。また、微生物の化石とは細胞の化石ですから、細胞膜は時間の経過とともにつぶつぶ状になったり、しわがよったりつぶれたりします。それが化石形成プロセスと呼ばれるものですが、それが見られることも大切です。そして、一個だけではだめで数があってしかもある程度の個体差がないといけません。生物と言うのは増殖してこそ生物なので、細胞分裂のプロセスが見えるような標本があるとさらに確実です。化石であると認定されるには、これだけの条件が整う必要があります。逆に整えば化石ではないと否定できなくなります。」杉谷先生は、2001年に30億年前の微化石を発見してから、論文として発表されるまで7年という歳月をかけて検証されました。

 

原核生物でも真核生物でもない、未知の生物?

この発見は、様々なメディアで大きく取り上げられ話題になりましたが、杉谷先生はこの微化石が真核生物であるかについては慎重です。「真核生物であるとするには更なる検証が必要ですね。しかしながら、少なくとも普通の原核生物ではないとは断言できます。私は、原核でも真核でもない、未知の生物である可能性があるのではないかと思っています。現在の生物には繋がっていない、その時代だけに存在したような特殊な生物ではないかとも考えられますね。」34億年前に存在し、一般的に信じられている進化の過程の中にはいない生命体であるとすれば、いったいどんな生き物なのでしょう。いずれにしても、この発見により太古代の生命研究に新たな光が射したと言えます。

34億年前の地層から発見された微化石の顕微鏡画像。右上が横から見た像で、左下が斜め上から見た像。

中央が盛り上がったレンズ状の微化石。フランジと呼ばれる鍔のようなものがついてるのが見える。

大きさの異なる2つの微化石が連結したもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太古代微化石から、火星に生物がいた可能性を探る

杉谷先生のご専門は、宇宙生物学 (Astrobiology) と呼ばれる、地球とその他の星における生命の発生とその進化を研究する学問です。「取り組んでいるテーマとしては、地球の初期の生物と火星の生命の関連性を探ることです。」と杉谷先生はおっしゃいますが、地球上の古生物がどう火星と結びつくのでしょうか。「火星は、現在は乾燥した星ですが、昔は水があって温暖だったと言われています。地球も火星も今の状態になる以前は、火の玉のような超高熱な塊でした。火星は地球よりも太陽から遠いので、地球よりも早く冷 えて生命が発生したり進化したりする環境になったと言われています。最初に火星で生命が生まれたに違いなく、火星に大きな隕石がぶつかって微生物が岩の破片と共に地球まで飛んできて、それが地球上で進化したと信じている人もいます。34億年前の地層からあのような大きな化石が見つかるというのは、地球で生まれたのではなく、火星で生まれて飛んできたという可能性はあると思います。34億年前よりも古い地層が地球上に存在して、その中から微化石が見つかって進化の過程が見えれば地球で生まれたと言えますが、現状それがなにもなくて、いきなりレンズ状の大きな化石が見つかったとなると火星との関係を考えてもおかしくないでしょう。」

 

34億年前のミクロの化石は、地球の生命の進化から、他の惑星に生物がいた可能性まで続く壮大なストーリーを私たちに語りかけてくれます。

名古屋大学大学院環境学研究科 教授杉谷 健一郎先生

1991年 名古屋大学大学院博士課程修了。理学博士。名古屋大学教養部助手、名古屋大学情報文化学部助教授を経て、2007年より現職。

ライカ マテリアルサイエンス用顕微鏡

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