Leicaエクスペリエンスラボ

伝統と革新。研ぎすまされた感覚と、新しい風によって生み出される、命の道具Case Studies

工業・産業

東京・谷中にほど近い下町の一角、そこに日本の脳神経外科手術で使用されるハサミの国内シェア9割を有する、株式会社高山医療機械製作所があります。
長さ1.5~2mmの刃が交差する微小ハサミの刃先を削る技術は長年の鍛錬の賜物。精緻な技が要求される医療用ハサミを製造する高山さんの技の魅力と、光学顕微鏡がどのように使われているのか、を伺いました。

 

谷中の住宅街で作り続ける、医療器具

看板もないし、同じ敷地に住宅と一体化している。ここが製作所なのか迷ってしまいました。
「みなさん、そうおっしゃいます、耳を澄ますと、加工・研磨の機械音が聞こえる、これが頼り。
歴史は古く、創業は1905年にさかのぼります。以来ずっと医療器具の製作に携わってきました。
主に製作しているのが脳神経外科手術用のはさみです。脳神経外科手術は特に高度な技術技能を要求され、手術器具も目覚ましく発展していますが、医療用はさみはデザインは進化しているものの、昔も今も根本的には何も変わっていませんし、すべての脳神経外科医が必ず使う術具です。
現在は日本のみならず、世界中でも広く使われています。」

ナギナタ状の美しいはさみ

「脳神経外科手術を行う上で必須の器具が、マイクロ剪刃といわれる刃渡り10mmの小さな刃先をもつはさみです。脳神経外科手術は顕微鏡下で微細な組織の切断や剥離が続きます。作業スペースが狭く、もろく弱い組織、微細な血管が張り巡らされていますので、狙った部分をスパッと切る、鋭い切れ味が要求されます。「匠の手」と賞賛される著名医師の指導の下で開発し、その医師の名を冠し「上山式」と名付けられた脳神経外科手術用器具一式で、ナギナタ状をしており、日本の名刀の名にちなんでムラマサと呼ばれています。もともと日本は日本刀に代表されるように鉄を生産し刃物を作る技術がありました。医療器具は江戸時代の終わりに西洋医学が日本に伝えられたころに、刀鍛冶や甲冑氏、鉄砲鍛冶が見よう見真似でつくりはじめたのが始まりです。日本刀は刀を単に武器として捉えるだけでなく、文化財に指定されていたりしておりますが、医療用刀類はメスに代表されますが凹み磨きという独自の研ぎ方があります。これは当時の外科医が要求された切れ味で刃先を極限まで薄くし且つ峰に強度を持たせた研磨技術です。その研ぎ方を使いこの薙刀状の刃が再現されています。この研ぎ方は現在では弊社の中でしか継承されてません。」
考え抜かれた構造とパーツ、繊細なデザインは美しくもあり、無機質な手術器具のイメージは感じられません。「はさみ」という極めてベーシックな道具、しかし命を預かる臨床現場のための、術者の意のままに操作できる心地よさを形に表現した芸術品ともいえる作品です。

 

 

 

医療機器に求められるもの

「医療機器は大量生産もあれば多品種・少量生産もあります。しかもすべて同じクオリティ、Just in Timeで生産する必要があり、難しいです。現在の上山式はさみは五世代目。日々脳神経外科医の話を理解し、ニーズを超えた機能を持たせるために、解剖と手術手技の知識習得は欠かせません。外科医というプロを相手の真剣勝負。常に満足してもらう進化が必要です。厳しくもあり、面白い点でもあります。」

 

顕微鏡は“信用”と“責任”を担う大切なパートナー

「あらゆる作業、また出荷前の品質検査に顕微鏡は欠かせません。現在、すべての顕微鏡はライカ製を使っています。作業するうえで視野が広く明るく一目で観察できること、焦点深度が深く確実に対象物にアプローチできるのがよいですね。
顕微鏡観察には高い品質を厳しくチェックする精度と、短時間での操作が求められます。視野が狭ければ何度も試料を動かさないといけないですし、時間も無駄です。みたいところがクリアに見えなければ、品質の悪化につながります。ライカS8 APOはこれをすべて満たしてくれています。品質検査用のライカA60 Fはアームが自在に動く使い勝手と高いコストパフォーマンスが気に入って、リピート購入しました。」

ライカS8 APO

ライカS8 APO

ライカA60 F

ライカ A60 F

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジタルとアナログの両輪

この道何十年の職人さんが、器具の一本一本を仕上げいるような印象を持っていましたが、工場内で作業していたのは、いずれも20~30代の若い方々ばかり。しかも女性も多くて驚きました。
「そうです、若い人が多いですね。もちろん最後は人手で仕上げて完成させるから熟練の技巧は必要。たとえば、研磨仕上がり時の音がなくなる感覚は、長年訓練して身に付くものです。
だけれどそれ以前の工程に、どこまで機械を入れられるか、手作業と機械加工の見極めが肝心で、我々は早くから試行錯誤の中、図面化をはかり、工作機械による加工法を確立しています。現在では3次元CADを使い工作機械では同時5軸制御を常用しております。アナログの感だけではない、デジタル感覚も必要、だから若い人が必要なのです。
医療器具の製造は、まず材料探しから始まり工作機械探しに至ります。
加工機も日本製のみならず、海外製のよいものがあれば、自ら出向き選定、調達しております。日本での導入実績は気にしません。医療器具は世界最先端の切削技術を使えなければ現在では競争に勝てません。もし壊れたらおおよそのものは、社内で修理できます。」

100年以上の歴史・伝統を守り、モノづくりの技術のすばらしさを伝承し、かつ新しいものを作り続ける。並大抵のことではないが、現状に満足しない情熱と真摯さ、人としてのあたたかさを感じ取りながら、あとにしました。

株式会社高山医療機械製作所 代表取締役社長 高山 隆志さん

「今は日常の生産に追われて、新しい開発のために時間をあまり割くことができていません。日本の外科医を支え続けるために求められることを日々考え、具体化していきたいです。」

 

実体顕微鏡ライカ S8 APO

圧倒的な見え、快適な操作性を追求したハイパフォーマンスモデル。ライカ S8APOはグリノータイプでは世界で初めて、100%最高級アポクロマート補正レンズ光学系を採用。総合倍率は10×~80×、作動距離は75mmを実現しました。ズーム比8:1で、三眼鏡筒標準付属によりドキュメンテーションも自由自在です。