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地下の環境や地下で起こっている現象を研究する「地層科学研究」Case Studies

工業・産業

日本原子力研究開発機構 バックエンド研究開発部門では、原子力発電により発生した高レベル放射性廃棄物を安全に処理・処分するための研究や技術開発を行っています。今回お訪ねした東濃地科学センターでは、この処分の安全性に関係して、地下の環境や地下で起こっている現象を研究する、「地層科学研究」を行っています。研究員として、この研究に取り組んでおられる丹羽正和先生にお話しを伺いました。

 

安全な地層処分のための研究

「原子力発電はCO2を排出せずに大量の電力を安定して供給でき、使い終わった燃料を再利用できることから、エネルギー資源小国・日本における発電方法として重要視されています。反面、放射線の慎重な管理が必要です。核燃料のリサイクルの過程において、高レベル放射性廃棄物が発生します。これを地下に埋めることを地層処分と言いますが、実際に地下の岩盤がどういう状態なのか、安全性を確かめる必要があり、私はその研究をしています。放射性元素は時間の経過に伴って壊変し、安定な元素になっていきますが、たとえばウラン235はその数が半分になるまでの時間、つまり「半減期」が7億年と極めて長い時間となります。高レベル放射性廃棄物の中にも、半減期の長い元素が存在し、高レベル放射性廃棄物の放射能は天然のウラン鉱石と同じ放射能レベルになるまで数万年程度かかります。日本では地層処分する場合、地下300mより深い地層に埋めて処分することが、法律で定められています。」

この地層処分を安全に実施するためには、処分する場所の地下がどのような状態なのかを様々な角度から調査、研究する必要があります。地層処分に適した地質には、どのような条件が必要でしょうか。

「地層処分は、人工的な防護壁である人工バリアと、地下深くの地層が元々持っている能力による天然バリアとの多重バリアシステムにより、安全確保を図るものです。人工バリアは、廃棄物をガラス原料とともに高温で溶かし合わせた「ガラス固化体」を金属製の容器と粘土材料(緩衝材)によって覆ってしまうもので、少なくとも1,000年間は放射性核種が外部に漏れないように設計されます。ただ、10万年という単位になった場合、金属製の容器の腐食が進むことなどにより、放射性核種が岩盤中を流れる地下水に溶けだして運ばれる可能性があります。天然バリアとなる地下深部の岩盤は、生物圏から放射性核種を隔離できるだけでなく、そこでの地下水の流れが地表付近よりも遅いという特徴があります。また岩盤には、放射性核種を吸着する能力がある鉱物なども存在します。さらに地層処分の場所としては、経済的に価値が高い地下資源のない場所であること、火山や地震などの天然現象の著しい影響を受けない場所であること、なども条件としてあげられます。」

「ここ瑞浪超深地層研究所では、実際に地下に研究用の坑道を掘削して、岩盤の強さ、地下水の流れ、水質などを研究しています。坑道では一般の方が参加できる見学会も定期的に行っています。」

 

地層を科学する

地層を研究する地質学は、石油などを産出する資源国では特に重要視されています。近年は他に環境問題にも大きく貢献しています。そして日本では、とりわけ自然災害への対応が重要なテーマの一つです。
地層処分の安全性の確保や、自然災害のリスクの予測のためには、まず地層そのものを正確に知ることが必要です。そのひとつとして、地層の年代を明らかにする方法について伺いました。
「地層の中には化石や火山灰が含まれていることがあります。火山灰の組織・組成を実体顕微鏡で見ると、阿蘇山から来たとか桜島から来たとかがわかる。各火山の噴火時期と対比することで、その地層のできた時期がわかります。化石も同様です。もう一つは、放射年代測定と言って、放射性元素は元素ごとに決まった速度で壊変するというメカニズムがあるので、壊変する前の親核種と壊変の結果生ずる娘核種の濃度を分析装置で測ることで年代を推定することができます。たとえば、炭素-14年代法では、放射性元素である炭素-14は時間とともに壊変し、5,730年で元の個数の半分になります。生物が生きている時は、光合成や呼吸を行うため大気中とほぼ同じ割合の炭素同位体を含みます。死後は、大気とのやりとりがなくなって、体内に残った炭素-14のみ時間とともに減少していくので、それを測定することで年代を推定できます。炭素-14年代法で適用できるのは約5万年より新しい年代となります。年代測定ができる範囲は、対象とする元素の半減期によって変わってきますので、鉱物の種類や、何の年代を知りたいか、例えば、地下水の起源が知りたいのならこれ、というように目的に応じて手法は変わってきます。

[写真1] 偏光顕微鏡 DM2700 P

鉱物の年代を測定する場合、熱などによる変質の程度や、結晶成長の様子などを人間の目でミクロに観察することも、年代が持つ意味を正しく解釈するために非常に重要です。そのようなときに偏光顕微鏡が大いに役に立ちます。
顕微鏡観察の際には、岩石や鉱物を厚さ数十ミクロン程度の薄片にして内部組織を見ます。通常の花崗岩は鉱物どうしが密着していますが、地震を引き起こした断層から採取した花崗岩では、しばしば鉱物が破壊されてバラバラになっています。破壊された後、さらにまわりの水などとの化学反応、つまり変質によって別の鉱物になることも多く、そのような変質鉱物から断層活動の様子を推定できることもあります。
さまざまな手法を複合的に活用し、得られる情報を詳細に解析することにより、鉱物がどのような環境で成長してきたのか、断層がどのように発達してきたのかといった成因について知ることができます。
ライカの顕微鏡は目視で観察したときも、クリアで明るいので、微妙な構造の違いもわかりやすいです。

【写真2】 偏光顕微鏡で見た岩石薄片の写真(直交ポーラー)。断層活動で破壊されていない花崗岩(左)は鉱物どうしが密着しているが、断層活動を受けると、鉱物はバラバラになるとともに細粒化する(右)。バラバラになった鉱物の間を不透明で非常に細粒な変質鉱物が埋めている。

 

東濃地科学センターでは近年、年代測定のための装置の立ち上げや手法の開発を重点的に行ってきています。さまざまな手法を試しながら試行錯誤を続けていますが、まだ課題はいろいろあります。

研究に携わる人材不足も大きな問題です。自然災害への対応についても、東日本大震災後、観測体制の整備は進んでいますが、観測データの解析などを担う人材は未だに不足しています。また、われわれの研究には地域との情報共有・理解が必須です。今後も大学、地域社会などと連携して、人材を育てることが望まれています。」

高レベル放射性廃棄物の処分の安全性に関わる最先端の研究を、ライカマイクロシステムズは偏光顕微鏡、実体顕微鏡など幅広い製品ラインナップと最新技術でサポートしています。

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 バックエンド研究開発部門 東濃地科学センター  地質科学研究部 ネオテクトニクス研究グループ 副主任研究員丹羽 正和先生

2005年 名古屋大学大学院博士課程修了。理学博士

 

東濃地科学センター
http://www.jaea.go.jp/04/tono/

偏光顕微鏡ライカ DM2700 P

ライカ 偏光顕微鏡 DM2700 Pは、簡単操作と鮮明な偏光像を実現した偏光顕微鏡です。明るくクリアな見えで、研究用途からルーティン検査まで使える高性能偏光顕微鏡です。オルソスコープ、コノスコープ観察に対応して、複屈折を持つ物質の性質や、岩石・繊維・高分子・新素材などの解析等、さまざまな用途に利用可能です。