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鋼中の非金属介在物は、その形態・大きさ・分布・析出状態が、鋼の機械的性質(靭性、耐疲労性、非時効性)に大きな影響を及ぼすことがあります。微細な非金属介在物や析出部を調べることは、鋼の性質を知る上でとても重要です。しかし鋼中の非金属介在物試験は、経験と労力を必要とする作業でした。
ライカでは、顕微鏡法とレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)を組み合わせた新しいソリューションをご提案します。鋼の介在物の拡大観察と組成分析を同時に行えるため、時間短縮・コスト軽減・生産性向上に貢献します。
はじめに
鋼は今日、世界で最も重要な金属合金の1つです。合金鋼の生産は、世界的な産業インフラに不可欠です。
金属中に存在する非金属介在物は、以下のような問題の原因となります。
- 引張強度の低下や転動疲労など、機械的性質への悪影響
- 腐食や割れなど、金属素材の化学的性質への悪影響
- 圧延時に発生する線状の欠陥
そのため、金属中に存在する非金属介在物の粒径および組成を把握することは、金属製品の品質評価、および非金属介在物を減少させる精錬方法の評価のために、非常に重要です。非金属介在物の粒径および組成を、迅速かつ高精度に測定する手法の確立が求められています。
鋼の介在物は通常、光学顕微鏡による画像解析システムによって外観検査され、サイズ、色とコントラスト、形状、分布によって分類されます(「図1」参照)。非金属介在物の化学成分組成の検査には各種の化学分析法が用いられますが、結果が出るまで通常2〜3日かかってしまうという欠点があります。

鋼の非金属介在物試験の手法
通常、鋼の非金属介在物試験は、合金の製造時と不良解析時に行われます。以前は、顕微鏡像を介在物分布の標準図(チャート)と比較する目視法が使用されていました。しかし、この手法には以下のような問題があります。
- 検査に時間がかかる
- 官能評価のため、測定結果のバラツキが大きい
- 作業に技能と経験を要し、技術伝承が困難である
- 測定作業者の負荷が高い
現在では主に、顕微鏡と画像解析システムを利用した画像処理法が使用されています。この手法では、サンプルを自動的にスキャン→定義された介在物を検出→国内規格・国際規格に従って自動分類、という流れで検査が行われます。
化学組成分析には、SEM-EDX、EPMA、ICPなどの拡張分析が使用されます。
2-in-1ソリューション
限られた時間や予算の中で意思決定を行うためには、鋼の品質を評価するための正確で信頼できるデータが重要です。
ライカの2-in-1ソリューションは、非金属介在物の「粒径測定(Steel Expert)」と「組成分析(DM6M LIBS)」が、1台の光学顕微鏡でシームレスに、サンプルの前処理なく、大気圧下で迅速に評価できる、新しいシステムです。
非金属介在物の目視検査・分析
鋼合金の介在物の評価には、専用のソフトウェアが使用されます。介在物は通常、濃淡値/色、サイズ、形状、幾何学的配置によって分類されます。また、介在物の組成も決定できます。鋼材の品質は、介在物の数・サイズ等によって評価されます。
主な介在物の特性一覧を、「表1」に示します。
また、Steel Expertソフトウェアによる介在物の評価例を「図2」に示します。


化学組成分析
光学顕微鏡で評価可能なサイズの介在物・析出物は、脱硫、脱酸、脱窒といった反応の産物です。対象物の色や形状で、その分類をある程度は推測できます。たとえば、酸化物は黒色または濃い灰色で、Fe、Mn、Al(アルミン酸塩)、Ca、Cr、Si(ケイ酸塩)などから構成されます。
硫化物は薄い灰色で、Fe、Mn、Ca、Mg、その他の元素で構成されます。
窒化物はさまざまな色を持ち、Ti、Al、C、Oなどの元素から構成されます。たとえば、TiN(窒化チタン)の介在物は、Oの量が少ないと黄色がかったピンクですが、Oが増加すると黄色がかったオレンジになります。またOとCの比率が増えると、濃い青色または黒色になります。
組成データは、鉄鋼製造プロセスの結果を確認するだけでなく、最終的な鋼の品質を決定するのに役立ちます。
介在物・析出物の最終的な化学組成データに取得するには、追加の拡張分析が必要です。拡張分析を行う場合は、試料の作製、機器間での試料の移動、再配置などが必要になります。
LIBSソリューション
ライカマイクロシステムズの2-in-1ソリューションは、鋼介在物の視覚的分析および化学組成分析を同時に行います。LIBSソリューションでは、スペクトルのデータベースを使用したマッチング解析により、約10秒という迅速さで結果が得られます。
「図3-A~C」は、DM6 M LIBSシステムによって分析された鋼介在物の画像(左)と化学組成データ(右)を示します。画像と化学組成が、1回の分析で同時に取得されるのが特長です。
「図3-A」は、LIBSのレーザー照射径を超えるサイズの介在物を示しています。LIBS分析では、CaとAlが主要成分である非金属介在物コンポーネントとして識別されました。目視検査からの情報と合わせて、介在物はCa-Al酸化物であると判断できます。
「図3-B」と「図3-C」は、微小な非金属介在物のLIBS分析例です。「図3-B」に見られる紐状の介在物はMnが主成分であること、「図3-C」の小さなオレンジの介在物にはTiが包有されていることがわかります。



まとめ
鋼の品質評価において、非金属介在物試験は非常に重要です。しかし多くの場合、観察や分析には時間がかかり、技能と経験を要する測定技術の伝承も容易ではありません。
ライカの2-in-1ソリューションは、光学顕微鏡ベースの視覚的分析と化学組成分析を、1つの機器でシームレスに行います。試料の準備や前処理の工数が少なく、大気圧下で分析できるため試料を真空にする必要もありません。最短ステップで、最適な分析手法・正確な分析結果にたどりつくことができます。
- LAS X Steel Expert
鋼中の非金属介在物を迅速かつ正確に分析するソフトウェア。自動車産業、輸送業、金属加工業、建設業など、厳格化する工業規格や鉄鋼規格に準拠した鋼品質適合性を検査できます。
スマートで直感的なユーザーインターフェース、および試料のオーバービューと介在物の微細構造を同時表示できるデュアルビューワー式を備えており、高精度のデータを効率的に取得できます。
国際規格や各国規格に準拠した分析はもちろん、業界独自の規格やユーザー定義のオリジナル規格による分析も可能です。

- DM6 M LIBS
目視検査と化学分析が1台で実施できることにより、微細構造の元素同定に要する時間が、従来法に比べて約90%節減できます。レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)により、測定のための特別な試料作製やセッティングは不要です。顕微鏡の接眼レンズやカメラを通じて対象物を見つけたら、ワンクリックでLIBS分析を開始できるので、どなたでも高精度のデータが得られます。
