クライオTEMクライオ電子顕微鏡法の開発者がノーベル化学賞を受賞!

  1. 受賞内容
  2. トレーニング
  3. ソリューション
2017年10月、クライオ電子顕微鏡法を開発したスイス・ローザンヌ大学のジャック・デュボシェ教授、米コロンビア大学のヨアヒム・フランク教授、英MRC分子生物学研究所のリチャード・ヘンダーソン プログラムリーダーの3氏が、ノーベル化学賞を受賞されました。

  1. ジャック・デュボシェ教授

    スイス・ローザンヌ大学の生物物理学者。クライオ電子顕微鏡法を開発した。

  2. ヨアヒム・フランク教授

    米コロンビア大学の生物物理学者。

  3. リチャード・ヘンダーソン
    プログラムリーダー

    英MRC分子生物学研究所の物理学者、分子生物学者。

クライオ電子顕微鏡法により、タンパク質の構造を電子顕微鏡を用いて原子レベルで把握できるようになったことが「生化学を新しい時代に導いた」とされ、高い評価を受けたとのことです。

クライオ(cryo-)

低温の-、冷凍の- という意味。クライオ電子顕微鏡法とは、急速に凍らせた試料を電子顕微鏡で観察する手法のことを指します。ライカマイクロシステムズは、幅広い製品ラインアップで、凍結技法を使った試料作製・観察に向けたさまざまなソリューションを提供しています。

タンパク質の構造解析は、X線結晶構造解析(XRD)とよばれる解析方法が主流です。この手法では結晶化したタンパク質にX線を照射し、回折反射強度を測定します。しかし、タンパク質の結晶化自体が難しいだけでなく、タンパク質が安定な状態に固定されてしまうという弱点があります。

極低温電子顕微鏡
液体ヘリウム冷却ステージ搭載
エネルギーフィルター付き
300kV FEG
そこで、電子顕微鏡をタンパク質の解析に使用できないだろうか、と考えたのが、この度ノーベル化学賞を受賞された3氏のうちの1人である、英MRC分子生物学研究所のリチャード・ヘンダーソン・プログラムリーダーでした。

しかし、光の波長よりも短い電子ビームを当てる必要がある電子顕微鏡の観察手法では、強い電子ビームによってタンパク質の細かい分子構造が破壊されてしまうなどの課題がありました。さらに、真空で試料を観察する必要があるため、水分が蒸発し、試料が乾燥して変形してしまうことも大きな課題となりました。

そこで、ヘンダーソン氏はグルコース溶液で試料を保護し、通常よりも弱い電子ビームで観察してはどうかと考えます。当初は解析に適した画像を得ることは難しいとされていましたが、1990年には原子レベルでの解析ができるほどに改良されました。

その後、スイス・ローザンヌ大学のジャック・デュボシェ名誉教授が、液体エタンなどを使って試料を急速に凍らせることで、非晶質氷中にタンパク質を包埋する手法(氷包埋法)を開発しました。この試料を極低温下で観察することで、真空中での水分の蒸発・氷の再結晶化を防ぎ、電子ビームを当ててもタンパク質を壊さずに解析することが可能となります。

さらに、米コロンビア大学のヨアヒム・フランク教授により、コンピュータープログラムを使って顕微鏡画像を解析、重ね合わせを行なうなどして高解像度の立体画像を作る単粒子解析法が開発され、近年の電子顕微鏡によるタンパク質構造解析の主流となりました。


燃料電池触媒インクのCryo-TEM像
Shinichi Takahashi, et al.
Electrochimica Acta 224 (2017) 178-185

タンパク質分子GroELの氷包埋像
Yuri Nishino, et al.
Journal of Electron Microscopy 56 (1997) 93-101
クライオ電子顕微鏡法は、細胞やタンパク質などの生体試料を、一切の化学固定を行わず、水や水溶性成分を含んだまま観察できる画期的な手法です。

現在は、生体試料のみでなく、エマルジョンやインクなどの材料系流体試料の観察にも積極的に取り入れられています。

クライオ試料作製 & クライオ電顕ワークショップ

ライカマイクロシステムズでは、生物系、材料系を問わず、含水試料の凍結技法と、クライオ電子顕微鏡を用いた観察手法に興味をお持ちの方向けのセミナーやワークショップ、トレーニングを定期開催しています。

過去のワークショップでは、兵庫県立大学大学院生命理学研究科 宮澤 淳夫先生のご協力のもと、急速凍結装置(ライカ EM GP)を用いた氷包埋試料の作製と、クライオ電子顕微鏡(クライオTEM)観察のトレーニングを、3日間に渡り開催しました。

開催要項は、都度、詳細が決まり次第メールにてご案内しております。毎回さまざまなテーマを取り上げておりますので、ぜひチェックしてみてください。ご案内メールの受信をご希望される方は、フォームよりご登録をお願い致します。

凍結技法(氷包埋法)の難しさ

その有用性が非常に注目されているクライオ電子顕微鏡法ですが、非晶質の氷の薄い膜内に試料を包埋する(氷包埋)手技や、実際に凍結試料をクライオ電子顕微鏡で観察するための手技については、それぞれの研究室ごとに伝統的に継承されてきた秘伝・ノウハウがあり、それを身に着けなければ、なかなか思ったような観察が出来ないという難しさがあります。

急速凍結装置 ライカ EM GPライカマイクロシステムズは、ワークショップを通してクライオ試料作製・観察技法を多くの方に知っていただくと共に、試料作製から観察までの複雑なワークフローをシームレス化し、スムーズなクライオワークフローをサポートするためのさまざまな製品の開発に取り組んでいます。

生体高分子や材料系流体試料の氷包埋には、急速凍結装置 ライカ EM GP という製品が使用されます。試料環境を制御し、凍結条件をプログラムできるので、非常に高い再現性が得られるのが特徴です。

また、光・電子相関顕微鏡法(CLEM;Correlative light and electron microscopy)に向けたソリューションや、生物組織などより大きな試料の凍結には高圧凍結装置EM ICEをラインアップしております。

含水試料の電子顕微鏡試料作製に必要となる装置や手法は、試料の種類や解析目的によってさまざまです。金属などのハードマテリアルを含む試料を観察したい、ポリマー材料などのソフトマテリアル試料を観察したいなど、ご要望に合わせて、お客様のニーズに合った製品をご提案致します。

高い技術と精度が求められるクライオ電顕試料作製プロセスですが、ノーベル化学賞に裏付けられたクライオ電顕観察の有用性は、今後ますます注目されていくでしょう。ライカのクライオソリューションを活かして、世界が驚く新たな発見を!

製品選びから操作方法のご案内まで、ライカの専門スタッフが徹底サポート致します。不明な点やご質問がございましたら、いつでもお問い合わせください。

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