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ライフサイエンス 2015.07.06

マルチフォトン顕微鏡観察事例/フラビン蛋白蛍光イメージングで脳機能を可視化する

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高次脳機能解析の最前線

研究によって少しづつ解明されてきた、脳の機能。しかしながら、未だにその多くが謎に包まれています。今回は、ブラビン蛋白蛍光を使ったイメージングを利用して、その謎の解明に挑戦する研究者の先生をご紹介します。新潟大学脳研究所の澁木克栄先生、塚野浩明先生に、「フラビン蛋白蛍光イメージングによる高次脳機能解析の最前線」についてお話しを伺いました。 脳は、その部分によって役割が異なります。目からの情報を処理する領域である視覚野、耳からの情報を処理する領域である聴覚野、皮膚や動物の髭などからの情報を処理する体性感覚野などがあり、澁木先生の研究室ではこの3つの領域にフォーカスし、マウスを使ってそれぞれの機能、およびそれぞれの関連性についての研究をしています。

 

フラビン蛋白蛍光イメージングとは

脳の内部で起こっていることを可視化するには、様々な方法が工夫されてきました。特殊な色素で脳を染色し、細胞内のカルシウム濃度変化、pH変化などを観察する方法や、ミトコンドリアで酸素を使ってエネルギーを産出させ、脳内の血中のヘモグロビンの遊離による血液の色調の変化をデータ化することにより脳の活動を可視化するものなどがあります。しかし、染色法では染めムラ、退色や副作用など、また血流の色変化を見る方法では変化幅は小さく、血流の影響を受けやすいなどの欠点があります。澁木先生の開発されたフラビン蛋白蛍光イメージングは、脳の自家蛍光を利用して脳の活動を可視化する方法です。脳が活動すると、脳細胞の中にあるミトコンドリアの酸素代謝が進み、フラビン蛋白という物質が酸化型に変化します。酸化型になったフラビン蛋白は、青い照射光のもとでは緑色に自家蛍光を発します。この緑色の蛍光を記録すれば、脳の活動を可視化できるということになります。澁木先生の研究室では、実験にはマウスを使っています。マウスの頭蓋骨は透明度が高く、頭皮を切開すると大脳皮質を見ることができます。聴覚野の活動の観察には、マウスに音を聞かせ、その刺激に反応した聴覚野蛍光を顕微鏡で観察・記録します。

 

フラビン蛋白蛍光イメージングで、正確な聴覚野地図を描くことに成功

塚野先生は、聴覚野を中心に研究されています。「脳には様々な領域があり、それぞれ別の役割を担っている。それはわかっていたのですが、フラビン蛋白蛍光イメージングを用いて聴覚野を解析すると、今まで正しいと思われていた聴覚野の地図がかなり不正確であることがわかりました。脳内の地図とは、どこからどこまでがどんな機能を担っているか、その線引きです。その地図を精度よく描き直し、その結果、未発見の聴覚領域を発見することができました。」聴覚野の研究では一般的に、標準純音聴力検査で用いられるような、ピーという人工的な音が使われています。しかし、実際の自然界にはそういう音は存在せず、動物の鳴き声などは非常に複雑で色々な音域の音が組み合わされています。それがどのように情報処理されているのかは今までわかっていませんでした。「今回、私たちが発見した新しい領域は鳴き声のような複雑な音の処理に重要な役割をしていることがわかりました。」と塚野先生はおっしゃいます。従来は、計測法により検出できる数が食い違っていた聴覚領域ですが、塚野先生は未知であった領域を発見しつづけ、既に現在7つの領域が発見されています。

 

シングルニューロンの活動を解析する2光子イメージング

CCDカメラと実体顕微鏡を使用するフラビン蛋白蛍光イメージングでは、脳全体の機能を見ることはできますが、個々のニューロンの活動を観察することはできません。このシングルニューロンの活動の観察は、高解像度で高倍率の顕微鏡が必要となります。さらに、生きたマウスの脳の細胞を観察するためには、脳の深部まで見ることができ、またサンプルにダメージが少ないことが条件になります。澁木先生の研究室では、ライカ マルチフォトン顕微鏡を使われています。脳機能の全体像がつかみやすいCCDカメラと実体顕微鏡によるフラビン蛋白蛍光イメージングと、個々のニューロン活動を高解像度、かつ低侵襲で観察できる2光子イメージング、この両方のメリットを組み合わせて、全体像から個々のニューロンの活動までの総合的な脳機能イメージングを完成させています。

フラビン蛋白蛍光イメージング
マウス右脳聴覚野 二光子カルシウムイメージング(動画)。二光子イメージングで、一つ一つの神経細胞がどのように活動しているか理解する

聴覚野、視覚野、体性感覚野、これら3つのインタラクションを解明する

現在もっとも力を入れて取り組んでいらっしゃる研究につい て、澁木先生に伺いました。「聴覚野、視覚野、体性感覚野の研究をしていますが、それらが単独で機能することはありえません。例えば、私たちがそこにある コップを手に取るという行為一つとっても、まず目で見てここにコップがある、手で触ってあることを確認する、それでコップというものの空間的位置を把握できる。その場合、視覚だけでも、体性感覚だけでもすまない。総合しないと空間上のものの位置は正確に把握できない。そのインタラクションを担う部分を、感覚連合野と呼びますが、それが私たちの重要なテーマです。マウスの場合、髭で触る、目で見る、その二つがどうインタラクションしているのかを解明していく。また、聴覚と視覚のインタラクションも重要です。誰かの声を聞くとその人の顔を思い出す、顔を見ると声を思い出す、目で見て音を連想する、音を聞いて図形を連想するというような機能がマウスの脳にもあることが、行動分析でわかりました。」今までは、マウスに麻酔をして観察していましたが、無麻酔の状態での脳活動を調べて、「意識」というものを科学的に解明していくということが重要なテーマであると、澁木先生はおっしゃいます。

 

未知の現象を探し求める、「現象ハンター」であり続けたい

「現象を調べるというのは生理学の基本です。遺伝子や構造が分子レベルで解明されてきた今、現象を見ても仕方がないのではという考え方もあるようですが、複雑な機能をいきなり分子で解明しようとするのは無理で、やはり現象を研究するという基本が大切だと思います。特に脳機能にはまだまだ解明されていない未知の現象が無尽蔵に隠れています。それを発見し、そこからなにかを導き 出す、それが現象ハンターです。私たちは小さな男の子みたいなんです。」と語る澁木先生と塚野先生。

 

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新潟大学 脳研究所 システム脳生理学分野
教授 澁木 克栄先生(右)助教 塚野 浩明先生(左)

塚野 浩明先生
2008年3月、新潟大学医学部医学科卒業。2011年9月、新潟大学大学院医歯学総合研究科・博士課程修了。同年10月より現職。

澁木 克栄先生
1978年、東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科、自治医科大学・助手、同講師、英国Cambridge・AFRC研究所留学、理化学研究所国際フロンティア研究システム思考ネットワーク研究チームフロンティア研究員を経て、1993年より現職。2014年より日本生理学会・理事(再任)。

新潟大学 澁木 克栄先生

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