はじめに
スフェロイドを使ってタイムラプス観察を行う場合、ある種の課題が生じることがあります。実験は数日間にも及ぶため、サンプルを長期間生存させる必要があり、そのため生理的条件に近い状態を確保する必要があります。この論文で紹介する長期のタイムラプス研究では、Micaを使用して、U343細胞とMDCK細胞からのスフェロイド形成を観察しています。スフェロイドの成長には、乱れることのない細胞周期と増殖を保証する最適な条件が必要となります。
タイムラプスイメーイメージング
タイムラプスイメージング[1,2]では、fps(frames per second)と呼ばれる一定の速度で、一定期間にわたって画像取得を実施します。画像取得のレートが、事後の閲覧に使用するアプリケーションのビューイングレートよりも低ければ、速く動いているように見えます。逆に、画像取得のレートが事後のビューイングレートより高い場合、ゆっくり動いている様に見えます。したがってタイムラプスイメージングでは、長期にわたるミクロンスケールの現象を、数秒、数分、数時間で観察することが可能になります。タイムラプスイメージングは、細胞培養、組織サンプル、モデル生物など、時間の経過とともに成長・発達する生きた標本の観察に使用され、生物学的プロセスについてより多くの洞察を得ることができます[3,4]。例えば、多細胞生物においては、胚発生期の発育、組織修復、免疫系の機能、腫瘍浸潤などが挙げられます。正確に細胞や生物の経時的な変化を追跡するには、同じ試料を同じコンディションで一定の期間、観察する方法[5]を用います。
スフェロイド
スフェロイドは、オルガノイドのような3次元細胞培養の一種で、生体組織や臓器の生理機能を模倣しています[6]。単層の2次元培養細胞は、通常、基質上で平らに成長します。スフェロイドやその他の3次元細胞培養では、それが大きな細胞へと成長することができるのです。
この3D細胞培養は、3次元的な細胞間相互作用のある立体を持ち、生物本来の組織により近い状況となります。このように3次元培養細胞は、より実際に近い微小環境で細胞をより深く理解するために利用されます。昨今では、神経科学、再生医療、癌などにしばしば応用されています。
課題
スフェロイドを用いたタイムラプスイメージングを行う場合、ある課題が生じることがあります。実験が数日から数週間にも及ぶことがあるため、サンプルを長期間生存させなければなりません。これには生理的条件に近い状態を確保することが必要となります。また、蛍光マーカーの発現によって細胞のホメオスタシスが損なわれないよう、発現レベルを維持する必要があります。そして、細胞の恒常性を維持するために必要な栄養素の供給がなければなりません。その他、培地の蒸発による濃度変化や、変化するサンプルの特性(例えば、横方向や軸方向の成長)に対応し、顕微鏡の焦点を維持することが必要となります。
しかし、研究室には3D培養細胞などを用いたタイムラプス顕微鏡観察に必要な装置がない場合もあります。この場合、複数のユーザーが利用する共有施設を利用しなければなりませんが、必要な機器を利用するのに長い順番を待つ必要がある場合もあります。このような事態は、ブレークスルーにつながる発見を得るタイミングの遅れにつながりかねません。
Micaの紹介
世界初のイメージング・マイクロハブMicaは、研究者が必要とするあらゆるものを1つに統合し、完全にコントロールできるようにしました、柔軟性の高い環境で、顕微鏡ワークフローを強化し、有意義な科学的結果を迅速に得ることができます。Micaを使用することで、ユーザーは以下のようなメリットを得ることができます。
- 誰でもアクセス可能:環境条件・撮影条件・焦点面の設定が容易
- ワークフローを大幅に簡素化
- 制約なし:実験に合わせた最適な環境条件と複数のイメージングモダリティ(明視野観察、蛍光観察、共焦点観察)、水浸レンズへの水供給とフォーカス面設定のインテリジェントな自動化
方法
この長期的なタイムラプスイメージングでは、Micaを使用し、スフェロイドの形成について調査しています。U343細胞またはMX1-GFPを遺伝子導入したMDCK細胞のいずれかを使用しています。スフェロイドの増殖には、細胞周期と増殖が妨げられないような最適な生理的条件が必要です[6,7]。これまでの結果から、増殖自体はしばしば特定のタンパク質の発現や、細胞状態や分化の特定の特徴を示すマーカーの発現と相関があります。[6,7]
【図1】経時的な細胞からのスフェロイド形成
【動画1】左半分: MX1-GFPを安定的に遺伝子導入したMDCK細胞(統合変調コントラスト(IMC)[灰色]と蛍光[緑色]) 右半分:野生型U343細胞(統合変調コントラスト(IMC)[灰色])丸底マルチウェルプレートの60ウェルを30分間隔で72時間かけて撮影したタイムラプス像
Micaは、3次元細胞培養やスフェロイドを、生理的条件に近い状態で、培地の蒸発を最小限に抑えるインキュベーターとして、この重要な用途に使用されています。Micaは、スフェロイドの成長を測定し、タンパク質の発現レベルを分析することができます。3Dスフェロイドの形成とその成長の長期タイムラプス実験で得られた画像とデータを【図2】と【図3】に示します。
【図2】60ウェルの経時的解:赤は、60時間の時点での学習済みピクセルクラシファイアによる認識領域
【図3】(上段)3Dスフェロイド形成後のタイムラプスからの抜粋画像。MX1-GFPを遺伝子導入、MDCK細胞を1000個播種。画像は細胞を播種してから0・11・20・40・61時間後に撮影。赤曲線は、形成されたMDCK細胞スフェロイドのサイズ。(下段)選択された1000個のU343細胞を播種した後、3Dスフェロイドを形成する一連のタイムラプス画像。この画像は、細胞を播種してから0・11・20・40・61時間後に撮影。緑曲線は、U343細胞スフェロイドの大きさ。
参考文献
- J.L. Collins, B. van Knippenberg, K. Ding, A.V. Kofman, Time-Lapse Microscopy, Ch. 3 in Cell Culture, Ed. R. Ali Mehanna (IntechOpen, London, 2018) ISBN: 978-1-78984-867-0, DOI: 10.5772/intechopen.81199.
- Time-Lapse Microscopy: Technique and Significance, Looking at Cell Migration: What is Time-Lapse Microscopy (TLM)? Microscope Master.
- Live-Cell Imaging Techniques Visualizing the Molecular Dynamics of Life, Science Lab (2022) Leica Microsystems.
- T. Veitinger, Introduction to Live-Cell Imaging, Science Lab (2012) Leica Microsystems.
- R.R. Shields-Cutler, G.A. Al-Ghalith, M. Yassour, D. Knights, SplinectomeR Enables Group Comparisons in Longitudinal Microbiome Studies, Front. Microbiol. (2018) vol. 9, DOI: 10.3389/fmicb.2018.00785.
- N. Kalebic, P. Kanrai, J. Kulhei, Observing 3D Cell Cultures During Development, Science Lab (2021) Leica Microsystems.
- S.S. Nazari, Generating 3D spheroids with encapsulating basement membranes for invasion studies, Curr. Protoc. Cell Biol. (2020) vol. 87, iss. 1, e105, DOI: 10.1002/cpcb.105.
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