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ライフサイエンス 2024.10.23

STELLARIS 8で発生のメカニズムに迫る

植物から動物まで、生物が形作られる過程はその多くが既に明らかにされていますが、その過程における様々な現象は、なぜ・どのようにして起こるのか、まだはっきりとしていない部分がたくさんあります。今回は、このライフサイエンスを研究されている明治大学 農学部生命科学科の専任准教授 田中 博和 様(右)と同 専任准教授 乾 雅史 様(左)にお話を伺いました。

 

植物と動物の発生における未知なるメカニズムを解明する

田中先生のご研究内容を教えていただけますか。

田中先生:私たちは、植物の発生を制御する分子メカニズムを研究しています。特に細胞膜で偏りを持って局在しているタンパク質に注目して、その制御機構を分子遺伝学的に研究しています。具体的には、植物ホルモンであるオーキシンを輸送するPINタンパク質の局在や動きを制御する因子を研究しています。また、植物の表皮細胞を保護するクチクラの形成メカニズムについても調査しており、特にクチクラを細胞外に排出するABCG11トランスポーターの局在制御因子を解析しています。例えば、制御因子の変異体において、GFPを融合させたPINタンパク質やABCG11タンパク質の局在を共焦点顕微鏡で調べています。

 

乾先生のご研究内容を教えていただけますか。

乾先生:私たちの研究室では、動物の発生をメインテーマに、体を動かすための筋肉や骨、腱の形作りについて研究しています。筋肉や骨のそれぞれの細胞の分化過程はおおよそ理解されていますが、それらが正しい場所と形で形成される仕組みはまだ解明されていません。私たちは、遺伝子改変マウスやレポーターマウスを用いて、筋肉と腱がどのタイミングでどのように繋がるか、どの遺伝子が関与しているかを明らかにするための研究をしています。この形作りの研究で、顕微鏡を使ってイメージングをしています。また最近では、組織ができた後の機能の維持についても研究を広げています。筋肉や骨などの体の組織は、年齢とともに衰えて病気につながっていきますが、そのメカニズムを理解するために、遺伝子改変マウスの解析を行っています。

 

異なる研究分野で活用できる1台を

新しい顕微鏡の検討条件と、STELLARIS 8を導入された理由をお聞かせください。

田中先生:学部の共通機器として、既に共焦点顕微鏡は古いものも含めると2台ありましたので、それらにない機能を持っていて、複数の研究室にとって価値がある機器を導入したいということが大前提としてありました。中でもSTELLARIS 8は、蛍光寿命を使って自家蛍光を除いたり、恒常的に起きているFRETを検出したりすることができる点が魅力的でした。また、ライトシート顕微鏡(以下DLS)としても使用できるので、ほかの顕微鏡とは少し次元の違うことができるという点も、決めての一つとなりました。

乾先生:共通機器として考えた時に、蛍光寿命とライトシートイメージングが両方できるというのは、ほかにはないと思いました。やっぱり選定する時、ライトシート専用あるいは共焦点専用の機器も候補にはなるとは思いますけど、いろんな研究室で広く使ってもらうという意味では、様々なことが1台でできるSTELLARIS 8で良かったなと。

 

研究室横断でライカの顕微鏡を使用

共通機器として、現在どれくらいの研究室でSTELLARIS 8が使用されているのでしょうか?

乾先生:DLSは、私の研究室の他に、もう1つ別の研究室が使用していますが、共焦点顕微鏡としては、かなり多く10近くの研究室が使っています。ですので、機器の稼働率は高く、通常1週間ぐらいは埋まっていて、ほとんど平日の昼間は動いている状態です。通常の共焦点顕微鏡としての使用をメインに、DLSと蛍光寿命イメージングで活用している形ですね。

 

すごい稼働率ですね。ちなみに、先生の研究室のウェブページでは、学生さんがたくさんいらっしゃいますが、普段は学生さんがメインで機器を使われているのでしょうか?また、学生さんですと、どちらかというと共焦点顕微鏡はちょっと難しいというイメージを持たれる方が多いかもしれないのですが、先生方の研究室ではいかがでしょうか?

乾先生:そうですね。8割以上、学生が使っていると思います。使いこなしている度合いは人によってまちまちだとは思いますけど、比較的トラブルなく学生もSTELLARIS 8を使って実験をしています。個人的にはアプリケーションなどのユーザーインターフェースが比較的使いやすいと思っており、学生でもそんなに迷わないで使っている印象があります。

田中先生:Zスタック撮影ぐらいであれば、何度か一緒にやればできるようになっていると思います。

乾先生:うちの研究室限定で言えば、学生のほうがきれいな写真が撮れます(笑)。私は最初に習っただけなので。

 

簡単・きれい、さらに3次元で見られる

STELLARIS 8を使うことで、どのような課題が改善されましたか?

田中先生:私は植物のクチクラ形成に関わる因子の研究をしており、主に地上部の表皮細胞を見ていますが、葉緑体の自家蛍光がかなり強く、GFPのチャンネルに入ってくるということが結構あります。それをSTELLARIS 8TauGating機能(*1)を使えば、かなり簡単に分けられます。最初に設定さえしてしまえば、ほぼ自動でできるので役に立っていますね。

他には、3次元構築が結構きれいです。Zスタックを撮っておいてXZ面を見ると、以前に使っていた顕微鏡よりもきれいな像が簡単に撮れるなという印象ですね。あと、少し広い範囲をタイリングで撮影できる機能(*2)も役に立っています。当初は期待していなかったのですが、やってみると意外と便利で。最近は学生もこの機能を使っていて、便利だなと思っています。

 (*1)サンプルの観察を妨害する自家蛍光や反射などのバックグラウンドを除去して画質を改善する機能
 (*2)LAS X Navigator

シロイヌナズナの胚におけるmTurquoise2と葉緑体⾃家蛍光のシグナルの分離。
【左上】pSHR::H2B-mTq2のシグナル(蛍光寿命1.5-8nsの範囲で検出し⾃家蛍光を除去した画像)
【右上】mTq2検出⽤のチャンネルで検出されたシグナル(蛍光寿命の違いをカラーコードで表⽰)【 左下】葉緑体⾃家蛍光【右下】重ね合わせ

 

乾先生:私はDLSを活用していますね。切片では情報量が限られてしまうものを3次元的な形で見ているのですが、主に二つあります。一つは筋肉と腱が結合する現象です。筋肉と腱は元々全然違う場所に起源があり、それぞれが移動して結合します。体中に何百もの筋肉があり、それぞれ別の場所から来る筋肉と腱が独立して動きながら結合しますが、これを切片で正確に捉えるのはなかなか難しいです。これを3次元で見ると、一つの筋肉と一つの腱の結合が一度に起こるわけではないことや、変異体を作った時の形の変化をより理解できます。

もう一つは、骨が伸びる現象です。発生中に軟骨細胞が分裂して骨が伸びる方向に積み重なることで、骨が長くなるとされています。切片ではこの現象を平面でしか見られませんが、3次元で見ることで積み重なり具合が分かります。完全にきれいに見えるわけではありませんが、DLSを使うと3次元での観察が可能になり、切片では得られない情報を得ることができます。


マウス胚の骨格筋と腱の結合を可視化するために、E14.5胚前肢をCUBICで透明化し、MyHC抗体(マゼンタ)、ScxGFPレポーターに対するEGFP抗体(緑)で染色し、LightSheet撮影した。手首側からのクリッピングにより、動画の5-6秒目にかけて緑の腱組織とマゼンタの筋組織の境界を観察することができる。中央部の母指伸筋・総指伸筋・小指伸筋、左右の手根伸筋など3次元的に配置された複数の筋肉と腱の境界を一度に可視化することができた。

 

ライカの共焦点顕微鏡で撮影した画像はきれい

ご共有いただいたSTELLARIS 8で撮影した画像について、詳しくお聞かせください。

田中先生:これはシロイヌナズナの根の先端で、中心部の細胞の列がきれいに見える断面を共焦点顕微鏡で撮影しました。細胞が分裂している領域と伸長している領域を20倍レンズで広めに観察しています。これらの領域の広さを野生型と変異体で比較することがありますが、この画像はその一例で野生型のものです。

シロイヌナズナの根端部におけるオーキシン応答レポーターDR5::GFPの発現パターン
【左】GFPシグナルの輝度をカラーコード表⽰した画像【中央】ヨウ化プロピジウムによるアポプラストの染⾊【右】重ね合わせ

 

一つ一つの細胞がきれいに、明確に見えていますね。乾先生の画像についてもご説明いただけますでしょうか?

乾先生:マウスは受精してから12−13日目に筋肉と腱がつながりますが、これらの画像は、そのつながった後の時期をサンプリングして、境界部の様子を見るために共焦点顕微鏡で撮影したものです。

左の画像は、肩甲骨の上に付いている筋肉が肩甲骨の末端に結合している様子を撮影したもので、赤い部分が筋肉の筋繊維、緑の部分が腱の細胞、青い部分はDAPI染色のみですが位置的に軟骨の細胞です。筋肉の間に腱が入って軟骨につながっているということが分かります。

右の画像は、同様のマウスの胚を共焦点顕微鏡で撮影してLIGHTNING(*3)を使っています。青の部分はDAPI染色のみで軟骨自体は染まっていませんが、3色になることでちゃんとつながって見えて、ある程度構造が理解できる形になっています。あとは、LIGHTNINGのおかげで、サルコメアという筋肉の収縮単位が一つ一つきれいに分離して見えます。これはタンパク質のミオシンを染めていますが、ミオシンがあるところとないところがきれいに分かります。

 (*3)超解像イメージング機能

 

筋肉の入り組んでいる部分にも腱があるということが、すごくよくわかりますね。

マウス胚の骨格筋と腱の結合*を可視化するために、E16.5胚前肢をCUBICで透明化し、MyHC抗体(赤)、MkxVenusノックインレポーターに対するEGFP抗体(緑)およびDAPI(青)で染色し、共焦点で撮影した(左)。高倍率のもの(右)は共焦点超解像LIGHTNINGモードで撮影を行った結果、筋線維間への腱細胞の侵入や筋線維のサルコメア構造が観察できた。
(*肩甲骨の外側に位置する棘上筋・棘下筋が腱を介して肩甲骨の末端に結合している様子)

 

以下の画像は、大人になった後の筋肉の断面図を撮影した画像です。11個の部屋みたい見えているものが、筋繊維の断面です。この緑と赤は遅筋寄りの筋肉と速筋寄りの筋肉のミオシンを染め分けています。2色にしているのは、たとえば遺伝子改変や運動といった色々な理由で遅筋寄りになったり速筋寄りになったりする変化を調べるためです。あとはラミニンで筋線維の外周が白く染色されていることで、たとえば筋トレで一つ一つの線維が太くなるなどの数値化をすることもできます。

マウス前脛骨筋の筋線維タイプの分布を調べるために横断切片を作成、抗MyHCType IIB抗体(赤)及び抗MyHCType IIA抗体(緑)で免疫染色し、共焦点で撮影した

 

発生のメカニズムをさらに深堀する

最後に、今後のご研究の方向性についてお聞かせください。

乾先生:私は、やはり筋肉や骨の形作りの解明です。たとえば大事な遺伝子などがある場合、それを改変した時に形がどう変わってしまうのか、あるいは形を意図的に変えるみたいなことができたらいいなと思っています。考えているのは、動物種によって筋肉と骨の形がなぜ違うのだろうというか、どのように変化しているのだろうとか、そういうことが分かるようになればと。たとえばマウスの筋肉や骨を、ちょっと違う種の形に変えることができるとか。その形をSTELLARIS 8で見いだせたら面白いなと思っています。

田中先生:私は、さまざまな輸送体の局在制御に関係するメカニズムを詳しく調べていきたいです。STELLARIS 8を使うと、今まで制御因子の細胞内での局在などよく見えなかったものでも、あまり退色せず追っていけたりするので、そういう制御因子の局在とか挙動などもしっかりきれいに見ることで、さらに植物の発生のメカニズムに迫っていきたいなと思います。

 

とても興味深いお話、ありがとうございました。

専任准教授
田中 博和 様

明治大学 農学部生命科学科
植物発生制御学研究室

植物発生制御学研究室HP

 

専任准教授
乾 雅史 様

明治大学 農学部生命科学科
動物再生システム学研究室

動物再生システム学研究室HP

※上記はインタビュー時のお役職・ご所属です

 

明治大学農学部HP

 

共焦点顕微鏡
STELLARIS

これまでの限界を超え、これまで見えていなかったものを明らかにする共焦点顕微鏡プラットフォームSTELLARIS。Power HyD検出器と白色光レーザーの相乗効果による高い「能力」、独自のイメージングツールTauSenseにより新次元の情報を探索する「可能性」、スマートなインターフェースImageCompassがもたらす「生産性」を兼ね備えています。STELLARIS DLSは、共焦点システムとライトシート顕微鏡を独自の組み合わせで一体化し、研究をより多面的なものにします。 ライカ独自のTwinFlectミラーを採用した垂直設計により、共焦点画像とライトシート画像を切り替えて取得することができ、実験のニーズに顕微鏡法を容易に適応させることができます。

ライトシート顕微鏡
Viventis Deep

複数のライブサンプルを同時に観察し、1回の実験で多くのデータを取得できるライトシート顕微鏡Viventis Deep。高いスループットとマルチポジション機能により、長期間のライブイメージングが可能で、サンプルの生存性を維持しながら高品質の画像を提供します。さらに柔軟なソフトウェアとPython APIにより、実験条件のカスタマイズやオンラインオブジェクトトラッキングが可能になります。

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