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ライフサイエンス 2021.11.27

ライブセルイメージング ガイド

目次

ライブセルイメージング ガイド

 

細胞ホメオスタシスの維持

細胞培地 / 細胞培養容器 / 滅菌法

 

生細胞観察に関する留意事項

pHの調節 / 顕微鏡の選択 / 光毒性 / フォーカスドリフト

 

ライブセルイメージングの技法

位相差観察法(PH) / 微分干渉観察法(DIC) / 統合変調コントラスト法(IMC) / 蛍光顕微鏡法 / 全反射照明蛍光法(TIRF) / イオンイメージング / 蛍光寿命イメージング法(FLIM) / フォトマニピュレーション法 / FRET法 ほか / FRAP法 ほか / 光活性化 ほか / オプトジェネティクス / アブレーション / アンケージング / Widefield蛍光イメージング

 

ライカTHUNDERイメージャー

THUNDERモデル生物 / THUNDER組織標本 / THUNDER 3D生細胞および3D培養細胞

 

ライカDMi8 S倒立顕微鏡プラットフォーム

LAS X Navigator(GPS様機能) / LAS X Synapse(高速制御) / マルチスペクトル実験 / Infinity Port / Infinity TIRF / Infinity Scanner / アダプティブフォーカスコントロール

 

参考文献

 

ライブセルイメージング ガイド

「ライブセルイメージング」とは、生きて活動している細胞の像をリアルタイムで取り込むために用いられる技術です。できるだけ生体内に近い状態で細胞を視覚化します。生細胞の画像を取得することにより、細胞の運動、成長、ダイナミックなプロセスに関する研究課題を深く理解し、取り組むことが可能になります。ライブセルイメージングの利用は、電子工学、データ処理、光学系、蛍光タグ技術における技術の進歩により、ここ数年間で大幅に増加しています。

培養皮質ニューロンの従来の蛍光画像(左)とTHUNDER画像(右)。β-Ⅲ-チューブリン(緑)、核(青)。Zスタック=59枚。THUNDER 3D培養細胞で取得。データ提供:FAN GmbH(ドイツ、マグデブルク)

長時間のイメージングから有意なデータを得るには、細胞の生存率と恒常性を維持することが極めて重要です。ライブセルイメージングを成功させるためには、温度やpHなどの環境要因を精密に制御する必要があります。

また、フォーカスドリフト、フォーカスアウトによるボケ、光毒性は、イメージングの結果に悪影響を及ぼします。したがって、ドリフトを補正しながらできるだけ低光量と最短の露光時間での観察ができ、フォーカスアウトによるボケを除去することが可能なイメージングシステムを選ぶことが重要です。

 

細胞ホメオスタシスの維持

ライブセルイメージング中の細胞生存率を維持するために必要な各要素について説明します。

 

細胞培地

哺乳類の細胞を培養する場合、細胞培地を37℃の一定温度に保つ必要があります。さらに、細胞培地の組成やpHの維持が重要です。

細胞培地の主な組成は、グルコース、ピルビン酸ナトリウム、アミノ酸、ビタミン、無機塩などです。特定の培地が要求されない場合は、タンパク質、脂質、成長因子の源として、しばしばウシ胎児血清(FBS)が使用されます。

細胞培地のpHは、細胞の代謝に伴い低下します。この酸性化に対抗するために、重炭酸塩(HCO3-)と溶存二酸化炭素(CO2)のバッファーを使用します。溶存二酸化炭素(CO2)は、細胞培養用インキュベーターから5%が大気中CO2として生じます。CO2が利用できない場合は、10~20mMのHEPES(2-[4-(2-ヒドロキシル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸)を含むバッファー、双性イオン有機化学バッファーも使用できます。pH値をモニタリングするために、培地にフェノールレッドを使用します。この色素は、pHが6.8から8.2になるにつれて、黄から赤に変化します。ただし、蛍光イメージングの場合、フェノールレッドを含まない培地に細胞を置く必要があります。蛍光バックグラウンドが強くなり、コントラストが弱くなる可能性があるためです。

 

細胞培養容器

高倍率でライブセルイメージングを行う場合、水浸対物レンズと、特定の厚みおよび屈折率のガラス底の細胞培養容器を使用する必要があります。条件を満たさない細胞培養容器で細胞をイメージングすると、不適切な屈折率となり、分解能、収差、コントラストが乱れ、画質が落ちる可能性があります。また、細胞培養容器の材料によっては、特定の励起波長で自家蛍光を発することもあります。

低倍率の場合は、樹脂製の底の細胞培養容器を使用できます。樹脂製の場合は細胞の成長が良いこと、ガラス製の場合はポリ-L-リジンやポリ-L-オルニチンなどの基質を用いてコーティングする必要があることなどを考慮し、細胞培養容器を選定します。

多くの製造メーカーが、画像取得時のパラメータを考慮に入れた、細胞の健全な成長に適した細胞培養容器を提供しています。たとえば、容器底の基質に細胞がくっつきやすい接着性の培養容器や、特定の屈折率をもつ合成樹脂で製造した容器などです。

 

滅菌法

細胞培養時は、常に細菌汚染の懸念があります。そのため、顕微鏡に使用するか否かを問わず、細胞培養容器内の滅菌が必要です。もっとも一般的な滅菌法は、抗生物質の添加です。細菌細胞壁の合成を妨げるペニシリンと、タンパク質の生合成に干渉して細胞死を引き起こすストレプトマイシンとを組み合わせて使用します。ある種の胚性幹細胞の培養では、抗生物質を使わない手法が求められる場合があります。

C2C12細胞の従来の蛍光画像(左)とTHUNDER画像(右)。核構造(ラミンB、赤紫)、DNA(Hoechst、青)、DNAの損傷(H2AX、黄)。THUNDER 3D生細胞で取得。63x/1.4油浸対物レンズ使用。17.47mm厚のzスタック取得後の拡張焦点深度(EDF)合成画像。画像提供:Dr. Lucas Smith(カリフォルニア大学デービス校生物学部、神経生物学・生理学・習性論部門、(USA))。

生細胞観察に関する留意事項

活きた細胞をイメージングする場合は、細胞の健全性を維持すると同時に、適切な観察条件を整える必要があります。

 

pHの調節

細胞タイプによっては、前述のようにHEPESまたはその他の緩衝溶液(MOPS、TESなど)を用いてpH調節を行うことができます。しかし、それ以外の場合には、培地にはpH重炭酸塩が必要です。これには2つの方法があります。

  1. 安定してガス状にある二酸化炭素(一般的にはカルボーゲン、酸素95%、二酸化炭素5%の混合ガス)を培地に供給し、細胞を灌流し続ける方法です。この方法は、脳スライス実験のように、代謝が非常に速く最短時間での調製が必要となる場合に用いられます。
  2. 培養チャンバーに入った細胞を、5%~7%のCO2濃度、定められた温度(多くの場合は37℃)および95%の湿度に維持された環境で培養する方法です。通常は、温度制御用の大きなチャンバーが顕微鏡ステージ、対物レンズ、蛍光フィルター、透過照明コンデンサー、試料を完全に囲み、さらに第2の小さなチャンバーで試料を囲むことで、湿度とガス含有量を適正にします。他のソリューションとしては、小さなチャンバー(「ウォータージャケットステージインキュベーター」とも呼ばれる)を使用し、温度、湿度、ガスの3つのパラメータを制御することもできます。

 

顕微鏡の選択

ライブセルイメージングには、倒立顕微鏡が一般的に使用されます。標準的な正立顕微鏡と比較して、以下のような利点があります。

  • 対物レンズの作動距離:作動距離とは、試料に焦点を合わせた場合の、対物レンズのフロントレンズと試料表面との間の距離です。正立顕微鏡を用いて培養容器内の細胞を画像取得する場合、対物レンズは、容器の材料、空気の層、細胞培地を通して焦点を合わせる必要があります。こうした物理的な距離は、多くの対物レンズ、とりわけ作動距離が1mm未満の高倍率対物レンズでは、作動距離を越えてしまいます。これに対し、倒立顕微鏡では、対物レンズのフロントレンズと試料間の距離が大幅に縮小され、培養容器のベースプレートを通じて焦点を合わせることができます。
  • 細胞培地への試料のアクセス:倒立顕微鏡ステージでは、培養容器の上のスペースが自由にアクセス可能なので、画像取得中に培地から試料を取り出すことや、細胞に物質を加えることができます。
  • より多くの細胞に対する最適な焦点合わせ:一般に、懸濁液の中の細胞は培養容器の底に沈澱するので、同じ焦点面で多くの細胞を観察することができます。正立顕微鏡でも、細胞を観察するために水没タイプの対物レンズを使用することはできますが、画像取得中に対物レンズのフロントレンズが細胞培地に浸漬した状態となるので、異物混入のリスクが増大します。倒立顕微鏡では、水浸対物レンズを使用でき、対物レンズのフロントレンズと培養容器の間に水を用いて、水性の培地の屈折率に厳密に適合させることができます。

 

光毒性

蛍光イメージングでは、光毒性により、細胞恒常性が損なわれる可能性があります。細胞中のフラビンやポルフィリンなどの有機分子は、光を吸収し、酸素と反応すると分解します。この反応により、スーパーオキシドラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素を含む活性酸素種(ROS)が生成され、細胞が損傷することを光毒性といいます。光毒性は、レーザー照射または高強度のアーク放電ランプによって合成蛍光色素が励起されるときにも発生します。励起状態では、こうした反応は、活性酸素種の生成につながります

培養細胞用倒立顕微鏡 ライカDMi1。

光毒性を減らすには以下の様な対策があります。

  • 低エネルギーの光(長波長光)によって励起される蛍光色素を使用する。
  • 光量をできるだけ低くする。
  • 励起時間をできるだけ短くする。
  • フレームレートをできるだけ低くする(特に長時間の実験の場合)。

励起の増大に対して、ビニングやゲインなどのカメラ機能を使用したり、特殊な高感度カメラ(EM-CCD(電子増倍型の電荷結合素子)カメラやsCMOS(Scientific CMOS)カメラなど)を使用してシグナル強度とSN比を高めることも有効です。細胞の健全性にとっての最適な条件と、画像取得にとっての最適な条件の間で、妥協点を見出す必要があります。

また共焦点顕微鏡では、低照度での励起を複数回行うほうが、同じ合計エネルギー量で1回励起するよりも害が少ないことにも留意します。

ゼブラフィッシュ初期胚(受精後72時間)。標識:血管(緑色)。 データ提供:Dr. Almary Guerra、Dr. Didier Stainie(マックス・プランク心肺研究所(ドイツ、バート・ナウハイム))

 

フォーカスドリフト

長時間にわたる実験の場合、フォーカスドリフトに対処する必要があります。フォーカスドリフトは、培養容器の温度変化によりカバーガラスの屈曲が起こるなどして発生することがあります。また、フォーカスドライブの機械的な不安定性、培地または試薬の追加、生細胞の運動などによっても発生します。

フォーカスドリフトを予防するために、顕微鏡、培養容器、防振台に適切なものを選択し、高精度の空調システムを使用してイメージングルームの温度安定性を確保します。フォーカスドリフトが発生した場合、ハードウェアベースのオートフォーカスシステムによって補正できます。また、生細胞の運動によって生じる問題は、ソフトウェア(画像)ベースのオートフォーカスシステムで対処できます。

 

ライブセルイメージングの技法

一般的に、画像内の物体の細部を識別するには、少なくとも2%のコントラストが必要です。しかし、基本的に生細胞は無色であり、コントラストのある色素や標識が使用できない場合もあります。このような場合でも、反射率、複屈折、光の散乱、回折などの光の現象を利用した顕微鏡法により、まったく色素を使わずに最適なコントラストを得ることができます。

 

位相差観察法(PH)

位相差観察法は、1930年代にフリッツ・ゼルニケが開発し、1942年に初めて使用されました。この発明により、ゼルニケは1953年にノーベル物理学賞を受賞しました。位相差観察法は、光と生物学的構造との相互作用によって生じる、通常は不可視な位相変化を、それに対応する振幅の変化に変換することで、画像コントラストを生み出します。この技法は、ガラス上の細胞のような、薄い試料に最適です(核のある中心部では約5~10μm、周辺部では1μm未満)。

 

位相差観察法

光源からコンデンサーリングスリットを通過したリング状の光は、コンデンサーによって試料上で焦点が合います。リング状の光の一部は、密な構造の試料によって回折し、位相シフトが起こります。この位相シフトした回折光は、位相板を迂回するため位相板の影響を受けません。これに対し、コンデンサーリングスリットからの直接のリング状の光は、位相板に当たり弱められます。試料によって屈折した光と、位相板を通過した光の間に打ち消し合う干渉が起こり、光学的に密な構造が暗く見えます。

この技法は、生きている未染色の細胞のコントラストを高めるのに優れています。ただし、位相差観察法では、周囲に円形の光が映り込むことがあります。これは、対物レンズ位相板にあるリングを介して、意図せず生じた回折光により生み出されます。また、位相差観察法は、厚い試料には向きません。厚い試料では、重なった構造により、円形の光が強く生じるからです。

位相差観察法を用いて取得したニューロンの画像。

微分干渉観察法(DIC)

DIC法は、偏光を利用して屈折率の差を検知し、細胞内の微細構造の像を生成する観察法です。この技法は、多くの顕微鏡に後付けできます。DIC法では、染色されていない生体試料の高解像度画像が得られます。レリーフのような画像が得られ、対象物に影が付けられているように見えます。比較的厚い試料も観察できます。ただし、ガラス底の培養プレートにのみ対応しています。樹脂製の培養プレートでは偏光が維持されず、コントラストが失われるからです。

微分干渉観察法(DIC)

光源から偏光フィルターを通過した光が、ウォラストンプリズム、垂直偏光コンポーネントを通過して、偏光の異なる2つのコヒーレント平行光線に分離されます。試料は、この2つの光線に照明され、2つの明視野画像が生成されます。2つの像は光路長が異なるため、位相シフトが生じます。対物レンズを通過後、2つの像は再結合され、光路長の違いに応じて明るくなったり暗くなったりして、他の方法ではほとんど見えない構造が表示されます。

 

統合変調コントラスト法(IMC)/ホフマン変調コントラスト法(HMC)

IMC法は、試料中の位相勾配を振幅(明るさ)の差に変換することで、生体試料のコントラストを高め、未染色試料の擬似3D画像を生成します。

IMC法

スリットを通過した光は斜照明となりコンデンサーレンズを通過し試料へ導かれます。光が試料を通過すると、相転移(原形質膜の傾斜の変化など)で屈折します。続いて、変調器の半透明または透明な部分に光が屈折し、レリーフのような3次元画像を生み出します。

コントラストを強調したIMC画像。
C. Mehnert、体外受精センター(ドイツ、ギーセン)。

 

蛍光顕微鏡法

蛍光顕微鏡では、短波長の光による励起によって長波長の光を発する蛍光色素分子(無機色素、タンパク質など)の特性を利用します。蛍光色素分子は、励起および蛍光ピークがそれぞれ異なり、こうしたピーク波長の差のことを「ストークスシフト」と呼びます。

1911年に最初の蛍光顕微鏡が製造され、1962年の緑色蛍光タンパク質の発見を経て、蛍光顕微鏡はたえず進化し、現代の顕微鏡ラインナップに欠かせないものとなってきました。蛍光顕微鏡は、細胞内の単一分子の分布、定量化、局在化を特定するために使用できます。また、共局在や相互作用の研究を行ったり、イオン濃度を評価したり、エンドサイトーシスやエキソサイトーシスなどの細胞プロセスを観察することもできます。

蛍光色素分子の利用法は多岐にわたります。たとえば、蛍光免疫染色実験で抗体を標識する方法や、蛍光タンパク質の遺伝子を標的遺伝子に組み込んで細胞や生物個体全体で発現させる方法、センサーとして培養細胞に添加し、蛍光特性を調べることで細胞の生化学的変化を調べる方法があります。

蛍光顕微鏡の分野での進歩には、いわゆる「F法」(FLIM法FRET法FRAP法など)をはじめとする定量的方法や、フォトマニピュレーション法オプトジェネティクスなどが含まれます。

上から順に、明視野観察、微分干渉観察、位相差観察、蛍光観察によって画像取得されたニューロン。

 

全反射照明蛍光(TIRF)法

TIRF法は、細胞の細胞膜の内部または近傍でのプロセスを観察するために用いられる技法です。光毒性が低く、高速イメージングが可能です。
TIRF法では、カバーガラスから60~250nm奥の蛍光色素分子が励起されるエバネッセント場による反射照明を利用します。優れたZ分解能が得られることから、細胞膜への分子輸送などのイベントの観察が行えます。エバネッセント場の発生には、屈折率の異なる2つの透明な培地の境界面が必要です。

TIRF(全反射照明蛍光)顕微鏡の原理。

TIRF法の要件をなす境界面は、カバーガラスと水溶液の間、カバーガラスと接着細胞の間で生じます。TIRF法の成否は境界面での反射に左右されるので、高精度のスライドガラス、カバーガラスが不可欠です。

Actin Chromobody-TagGFP2を発現、SIR-チューブリンで染色したHeLa細胞。データ提供:ChromoTekGmbH(ミュンヘン、ドイツ)、Spirochrome SA。

 

イオンイメージング

イオンイメージングは、細胞内外のイオン濃度の変化を観察するために用いられます。細胞の多くの基本的な機能は、イオン、電位、およびpHの繊細で動的なバランスに依存しているため、空間的・時間的観点からのイオン調節は、ライフサイエンス研究にとって大きな関心事です。たとえば、ニューロンの可励起性、筋肉の収縮、細胞の運動、遺伝子の転写、その他のプロセスは、サイトゾルまたは特定の細胞内区画のイオン濃度によって決定されます。

イオンイメージングは、イオン結合に反応するために特別に設計された蛍光色素またはタンパク質を用いて実施されます。たとえばFluo-4は、カルシウムイオンに結合すると蛍光発光が100倍以上に増加します。

従来の蛍光法では、細胞または細胞ネットワーク内の局所的な相対的変化を見つけるのが難しい場合がありました。レシオメトリックイメージング技術では、蛍光色素の発光または励起波長シフトの観察や蛍光色素の組み合わせの発光強度を比較することによって、細胞内外の局所的な変化を見つけます。

レシオメトリックカルシウム指示薬Fura-2を用いたカルシウムイメージング実験のスナップショット。340nm(左)と380nm(中央)での励起後の擬似カラー画像、および蛍光強度比を算出したグラフ。

 

蛍光寿命イメージング法(FLIM)

蛍光寿命イメージング法(FLIM)では、蛍光色素の蛍光寿命特性を分析することで細胞プロセスを知ることができます。Time-Domain FLIMでは、非常に高い周波数(40~80MHz)のパルス照明によって蛍光分子を励起し、パルスごとのナノ秒の短い減衰期間中に、放出された光子を記録・分析します。
蛍光寿命は、分子が光子を放出して基底状態に戻る前の励起状態のままの平均時間と定義できます。蛍光寿命の違いは、細胞内外の環境における生化学的変化について有益な情報をもたらします。FLIMを使用すると、高速の分子間相互作用を追跡したり、代謝状態や微小環境の変化を検知したり、類似する発光スペクトルの複数の蛍光色素分子を分離することができます。

この方法が優れているのは、データがシグナルの強度に左右されず、フォトブリーチングや濃度変動などの影響を受けない点です。FLIMで必要となるのは、光子の到着時間を検出するための、低ノイズで高精度のパルスレーザー光源とシングルフォトンカウンターです。また、検出器によって生成された信号を処理できるタイミング電子機器と組み合わせる必要があります。

以下は、腎臓切片における各種微小環境を調べるためのFLIMの活用例です。細胞膜はWGA-AlexaFluor488で標識されています。レインボウカラーで表示された蛍光寿命コントラストは、膜が異なる微小環境条件(異なるpHやイオン濃度など)にあることを示しています。

腎臓の薄切切片(FluoCells®スライド#3)。カラーバーのスケール(蛍光寿命):ナノ秒。

 

フォトマニピュレーション法

「フォトマニピュレーション」とは、試料上で観察される光を使って生じた現象と相互に作用することを可能にする幅広い技法を指します。コンポーネントを追加することで使用でき、観察だけでは得られない情報が得られるようになります。フォトマニピュレーション法には、以下のような技法があります。

  • FRET法、FLIM FRET法、BRET法
  • FRAP法、iFRAP法、FLIP法
  • 光活性化、光変換、光スイッチング
  • オプトジェネティクス
  • カッティング、アブレーション
  • アンケージング

 

FRET法、FLIM FRET法、BRET法

FRET法とBRET(生物発光共鳴エネルギー移動)法は、蛍光色素分子間でエネルギーを移動させる技法です。FRET法は、タンパク質構造変化、タンパク質間相互作用、タンパク質-DNA相互作用など、細胞内でのダイナミックなプロセスの定量化に使用できます。

適切な光の波長を用いてドナー(供与体)を励起すると、ドナーとアクセプター(受容体)間の距離が接近した場合(通常は1~10nm、多くは約5nm)、ドナーはアクセプターにエネルギーを移動します。その結果、例えばCFP/YFPのペアの場合、ドナーであるCFP分子内でエネルギー遷移にマッチした光エネルギーは吸収されます(青い矢印)。励起されたドナー(CFP)は、蛍光(グレー太矢印、左)によって、またはアクセプター分子であるYFPへの共鳴エネルギーの移動(黒い矢印)によって、緩和されます。ここでエネルギーを受け励起されたYFPは蛍光を発して基底状態に戻ります。

FRETペアでのエネルギー遷移。

励起パルス後に放出された光子の初期数a0は、急激に減衰します。蛍光がa0/e(約37%)まで減衰する経過時間が、蛍光寿命です。FRET(Tquench)により、寿命τは時間短縮にシフトします。寿命減衰からもう1つ読み取ることができるのが、振幅a0です。スキャニングシステムの各位置で寿命を測定することで、寿命の空間マップが得られます(挿入図を参照)。

励起後の経過時間における蛍光光子数のグラフ。

CFPから放出される蛍光の寿命も、アクセプタータンパク質によるエネルギーの吸収によって変化します。したがって、エネルギー移動を検知する別の方法は、FLIMを用いてこの変化を検知することです。この方法は「FLIM-FRET」と呼ばれます。蛍光寿命の短縮は、明るさ、プローブ濃度、あるいは中程度のフォトブリーチングの存在とは関係なく、特定しうる動態パラメータのひとつであり、これによってFLIM-FRETはFRET効率の非常に正確な定量的推計となります。

BRETの場合、ドナーとして作用するのは生物発光分子(ルシフェラーゼ誘導体など)であり、アクセプターとして作用するのはGFPファミリーの分子です。

以下は、生細胞におけるFLIM-FRETの例を示したものです。検出バンドは、スペクトルFLIM検出器を用いて445-495nmに設定、カラーの領域が分析に使用されました。カラーは強度変調された蛍光寿命を示します。

CFPドナーのみ(A)およびCFP-YFP融合体(B)を導入したRBKB78細胞。データ提供:Prof. Gregory Harms(ヴュルツブルク大学、ドイツ)。Dr. Benedikt Krämer(PicoQuant社、ベルリン)、Jan-Hendrik Spille氏、WiebkeBuck氏。

FRET試料では、0.7nsの蛍光寿命短縮への明らかなシフトが見られます。

平均蛍光寿命を用いた、ドナーのみ(黄)およびFRET(緑)試料の蛍光寿命の分布。

 

FRAP法、FLIP法、iFRAP法

タンパク質および小胞輸送をモニターするには、おもにFRAP法、FLIP法、iFRAP法の3つの顕微鏡法が使用されます。

  • FRAP(フォトブリーチング後の蛍光回復):関心領域(ROI)内での強力な励起によって、タンパク質の蛍光タグがブリーチングされます。その後の蛍光の回復により、たとえば対象となる構造の代謝回転に関する洞察が得られます。
  • FLIP(フォトブリーチング蛍光減衰):細胞内の関心領域が繰り返しブリーチングされます。ブリーチングされた分子は拡散し、蛍光減衰により、たとえば細胞小器官が物理的に連結されているかどうかが示されます。
  • iFRAP(逆FRAP):関心領域外の細胞領域がブリーチングされます。続いて、ブリーチングされていない分子が拡散し、これをモニターすることができます。

 

光活性化、光変換、光スイッチング

タンパク質の個体群を経時的にトラッキングするには、光活性化、光変換、光スイッチングを使用します。

  • 光活性化:紫/青の短波長パルスを使って、1秒以内に低い蛍光状態から高い蛍光状態に蛍光分子を「オン」に切り替えます。光活性化が可能なタンパク質は、一定の波長の光によって「オン」にすることができます。
  • 光変換:光変換が可能なタンパク質は、短波長パルスへの曝露後に、発光スペクトルを変化させることができます。
  • 光スイッチング:光スイッチング可能なタンパク質は、、異なる波長の光パルスを使用することで、何度もオン/オフできます。フォトブリーチングを起こさずに、数百回実施できます。

フォトクロミック蛍光分子は、蛍光状態と暗状態の間で切り替わることができ、とくに大量に発現したタンパク質の挙動を調べるときに有益です。多くの場合、使用されるタンパク質は、対象となるタンパク質に遺伝子学的に融合されており、その発現または輸送をモニターすることができます。その後、対象となるタンパク質をさらに調べるために、FRAPや細胞トラッキングなどの方法を適用できます。

 

オプトジェネティクス

オプトジェネティクスは、感光性タンパク質ドメインを用いて、生物学的経路を選択的に活性化させ、細胞メカニズムを誘引します。一般に、オプトジェネティクスでは、膜の電位を変化させるために、ターゲットを絞った感光性イオンチャンネルの活性化を行います。光の照射後に構造変化を示すタンパク質を使用することで、標的タンパク質を活性化または非活性化します。

活性化の効果は、電気生理学を用いて、またはレシオメトリックカルシウム色素などの光学センサーを用いて、測定できます。感光性イオンチャンネルにより、高い空間・時間分解能でニューロンやその他の種類の細胞を刺激できます。受容体ベースのオプトジェネティクス「スイッチ」に加え、他の多くの感光性タンパク質ドメインの使用を通じて、新しいオプトジェネティクスツールが出現しています。

 

カッティング、アブレーション

高出力パルス発振レーザーを用いて、光によって試料の一部を物理的に破壊する技法です。試料に適用される出力に応じて、個々の細胞骨格繊維の切断や、細胞の一部の切断から、細胞クラスターや臓器の完全な切除まで可能です。こうした技法は、細胞骨格要素の役割の探究から、炎症や創傷治癒のメカニズムの研究、あるいはニューロンの再生まで、幅広く活用されています。

神経再生能力を調べるために、パルス発振レーザー(矢印)を用いて軸索を切断。
画像提供:RichardEva氏(ケンブリッジ大学、イギリス)。

こうした技法のもう1つの応用分野となっているのが発生生物学です。胚の特定の部分を切除し、それが発生過程に及ぼす影響などが研究されています。

 

アンケージング

カルシウムイオンなどの化学的にカプセル化された生物活性物質のことを「ケージド化合物」と呼びます。紫外線を用いて、キレート剤に損傷を与え、ケージド化合物を放出させることができます。こうしたターゲットを絞った化合物の光分解のことを「アンケージング」と呼びます。

アンケージングは、しばしば神経生物学研究において、活性な神経伝達物質をシナプスに放出するために使用されます。その他の市販のケージド化合物としては、ATPやcAMPなどのヌクレオチド、カルシウムなどのイオン、ある種の高分子などがあります。さらに、タンパク質、ペプチド、DNA、RNAもケージングできます。

 

Widefield蛍光イメージング

Widefield蛍光イメージングは、試料全体を光源に曝露する技法です。それほど複雑な顕微鏡システムは必要ありませんが、この技法特有の問題点があります。試料全体が照明されるので、画像取得時に焦点面の上下にフォーカスアウトによるボケが含まれます。その結果、不鮮明さ、蛍光実験での高いバックグラウンドシグナル、分解能とコントラストの低下などが生じることがあります。

フォーカスアウトによるボケの問題を克服するための技法の1つに「デコンボリューション」があります。光子を元の位置に再配置するなど、最終画像からフォーカスアウトによるボケを取り除く画像復元の手法です。しかし、この画像復元方法は、高性能なハードウェアとソフトウェアに依存しており、ボケ除去によって信号強度と情報が失われる可能性があります。

 

ライカTHUNDERイメージャー

ライカのTHUNDERイメージャーは、厚みのある立体的な試料の高速、高品質イメージングのための新しい装置です。THUNDERは、最新のComputational Clearing法を用いてWidefield蛍光イメージング特有の不鮮明さとフォーカスアウトによるボケを取り除くことで、高解像度、高コントラストの画像を計算処理で提供するデジタルオプティクス技術です。

THUNDERシステムには、「THUNDERモデル生物」、「THUNDER組織標本」、「THUNDER3D生細胞および3D培養細胞」という3つのモデルがあります。

THUNDERイメージャーを使えば、生物全体や腫瘍スフェロイドなどの厚みのある試料でも、リアルタイムに解明します。THUNDERで使用されているComputational Clearing法は、画像取得時の動作に直接組み込まれています。観察しようとする部位のサイズを考慮しながら、シグナルとバックグラウンドを効率的に識別し、超高速で高品質画像を提供します。

HeLa細胞(標識;アクチン_Alexa Fluor 568ファロイジン、核_YOYO 1 iodide)の従来の蛍光画像(左)とTHUNDER像(右)
孵化後7日のニワトリ蝸牛細胞の従来の蛍光画像(左)とTHUNDER像(右)。
80μm厚、ミオシン7a-感覚有毛細胞、Sox2-支持細胞。画像提供:Amanda Janesick氏(スタンフォード大学、米国)。

 

THUNDERモデル生物

THUNDERモデル生物の中核となるのは、ライカM205 FA電動蛍光実体顕微鏡です。広視野と高品質画像取得を兼ね備えたこのシステムは、ボケのない画像の高速取得とパーフェクトなzスタックにより、モデル生物全体を生理学的条件下で観察できます。

3つの専用の構成を備えたTHUNDERモデル生物は、広視野向け、微弱シグナルを捉える高感度イメージング、および高速細胞内プロセスの研究向けに最適です。

E12-14マウス胚(野生型、ScaleS試薬により透明化)のニューロン伸長の評価(ニューロフィラメント:赤)。従来の蛍光画像(左)とTHUNDER像(右)。
データ提供:Yves Lutz氏(IGBMCイメージングセンター、フランス)
ケンミジンコ;核(緑)、アセチル化チューブリン(赤)、セロトニン(青)。従来の蛍光画像(左)とTHUNDER像(右)。
観察領域332x332x84μm3;3ch、Zスタック305枚。対物レンズHC PL FLUOTAR 40x/1.30 OIL。データ提供:Thomas Frase氏(ロストック大学生物科学研究所、一般&特殊動物学、ドイツ、ロストック)。

 

THUNDER組織標本

蛍光効率がよく、高速イメージングの可能なWidefield顕微鏡のメリットをベースに、Computational Clearing機能を備えたTHUNDER組織標本は、フォーカスアウトによるボケをリアルタイムで取り除くことで、厚みのある試料でも高速に画像取得でき、非常に微細な細胞構造も見ることができます。

一平面の画像取得に適したTHUNDER組織標本は、ライカDM4 Bインテリジェント正立顕微鏡を、zスタックを取得してリアルタイムでマルチカラー3D構造を解明するTHUNDER 3D組織標本の中核となるのは、ライカDM6 B顕微鏡を採用しています。

ショウジョウバエの三齢幼虫、腹部。シナプス後部位;AlexaFluor™ 647標識;ファロイジン;AlexaFluor™ 555、運動ニューロン(一部);AlexaFluor™488。

 

THUNDER 3D生細胞および3D培養細胞

ライブセルイメージング実験では、光毒性を抑えるために、低光量と、最短の露光時間を組み合わせた、最適な生理学的条件が求められます。THUNDER 3D生細胞および3D培養細胞は、励起用に最適化されたハイエンドのLED光源を使用することで、この条件を満たします。高感度のsCMOSカメラは、量子効率が最大82%に達し、低光量・短時間露光でも有効な画像情報を取得できます。カメラのシャッターはLED光源と同期しているので、露光がいっそう抑えられ、試料のフォトブリーチングが最小限に抑えられます。また、生細胞培養に最適な生理学的条件を確保するインキュベーターを用いることで、自然な状態に近い条件下で試料を観察できます。

THUNDER 3D生細胞および3D培養細胞のベースとなるライカDMi8倒立顕微鏡は、8ウェルチャンバースライドや96ウェルプレートなどの多様な試料キャリアのテンプレートで、自動化されたマルチポジショニングとイメージングを可能にします。生細胞の発生過程を正確にトラッキングするときは、温度変動、機械的振動、成長や形態変化によってフォーカスドリフトが引き起こされ、問題が生じる可能性があります。

しかし、こうした問題を以下によって克服します。

  • Adaptive Focus Control(AFC);信頼性の高いドリフト補正。
  • ソフトウェアオートフォーカス;試料位置の変化を逃さない。
  • クローズドループフォーカス;精度20nmの再現性のあるZ位置補正。

画像取得時の動作に組み込まれたComputational Clearing機能により、幹細胞の正確で高速なトラッキングや、スフェロイドおよびオルガノイドの大きな試料のボリューム画像など、先進的な3D培養アッセイができます。THUNDER ImageGalleryに様々な事例をご用意しています。

 

ライカDMi8 S倒立顕微鏡プラットフォーム

ライカDMi8倒立顕微鏡は、ライカDMi8 S倒立顕微鏡プラットフォーム(以下、ライカDMi8 S)とTHUNDER 3D生細胞および3D培養細胞の中核となるものです。ルーチンイメージングとハイエンドイメージング両方に対し、総合的なソリューションを形成しています。

 

より広く:LAS X Navigatorソフトウェアモジュール(GPS様機能)

Leica Application Suite X(LAS X)は、ライカのすべての顕微鏡に対応するソフトウェアプラットフォームです。ライカマイクロシステムズの共焦点、倒立/正立、実体、超解像、ライトシートの各顕微鏡と共にお使いいただけます。

LAS X Navigatorは、LAS Xに追加されたソフトウェアモジュールです。観察対象エリア全体の1ヵ所、または複数の貼り合わせ画像(マルチウェルプレートの場合、ウェルにつき1ヵ所)がオーバービュー画像として作成・表示されるので、関心のある特徴部分が見つけやすくなり、また高解像度画像取得のエリアを指定しやすくなります。

スパイラルスキャンを用いて現在地付近を観察することができ、またマウスをクリックするだけで迅速にズームイン/ズームアウトしたり、任意のステージ位置に移動したりできます。こうして得られるモザイク画像は、任意の数の視野から組み立てることができ、取得終了時に画像を連結できます。同じ試料に関する既存のオーバービュー画像も、ナビゲーションのために使用できます。

たとえば、薬物スクリーニングアッセイでは、最初に低倍率で96ウェルプレート全体のオーバービューをすばやく作成し、次に対象となる細胞のあるウェルを特定してから、選んだ候補について高解像度で画像取得を行い、さらに詳しく分析することができます。このアプローチは、時間の節約になるだけでなく、手動で作業するときに起こりがちな光毒性から細胞を守ることにもなります。

また、スライド、ディッシュ、マルチウェルプレート向けのテンプレートを使って自動的に高解像度の画像取得をセットアップできます。LAS X Navigatorを用いると、どんな倍率、カメラ、検出器、コントラスト法でも、1つのワークスペースで対応できます。結果は通常通り、TIFFやJPEGなどの多くのフォーマットでエクスポートできます。

 

より速く:LAS X Synapse Advancedシーケンサー(最大5倍の時間分解能)

従来のシステムでは複雑な操作が必要な実験でタイムラグが生じ、高フレームレートのタイムラプス画像を取得できませんでした。これは、機械的プロセスだけに原因があるのではなく、挙動全体がソフトウェア制御されており、このソフトウェアが全コンポーネント間の通信のボトルネックになっていたからです。

このボトルネックは、LAS X Synapse Advancedシーケンサーによって解消されます。LAS X Synapse Advancedシーケンサーは、実験に関係するすべてのコンポーネントと直接通信します。これにより、自由な挙動を設定したり、デジタルとアナログの両方の信号を使用したり、より正確で再現性の高いトリガー信号をセットアップしたりできるようになりました。ステージ位置と光源、カメラ、その他の使用する周辺装置に対応して、可能な限り高速にシステムが作動します。

LAS X Synapse Advancedシーケンサーにより、マイクロ秒の精度で、取得速度が「最大5倍」と飛躍的に上昇しました。ニーズに応じて、時間の節約やタイムラプス実験の時間分解能の向上が可能です。

特殊なアプリケーションには、高速フィルターホイールなどの外部機器を追加することができ、マルチポジション実験でも正確なタイミングで使用できます。異なるコントラスト法で試料を観察したい場合は、自動的に適切な照明設定、共焦点、明るさ、絞り位置を設定します。

LAS X Synapse Advancedシーケンサーは、従来のシステムを越える、高い時間分解能を必要とするライブセルイメージングを可能にします。

 

隠れた細胞プロセスを見つけ出す:アクティベーション、アブレーション、ブリーチングを、1度の実験で

ライカDMi8 SにInfinity TIRF(全反射照明蛍光)とInfinity Scannerを追加すると、システムの汎用性が最大限に広がります。この設定を用いると、最大5つのレーザーを使用して、超解像顕微鏡、TIRFに加え、オプトジェネティクス、光スイッチング、FRAP(フォトブリーチング後の蛍光回復)、アブレーションまで、複数のフォトマニピュレーションを1つのタイムラプス実験の中で実施できます。

 

Infinity Port:従来の無限遠光学系セットアップを上回る利点

顕微鏡観察は、16世紀から17世紀にかけて単純な拡大装置、「単レンズ顕微鏡」から始まりました。続いて、対物レンズが試料を拡大し、接眼レンズが対物レンズによって形成される像を拡大する「有限光学系複合顕微鏡」が使用されました。有限光学系複合顕微鏡では、対物レンズと接眼レンズの間の距離のことを「メカニカルチューブの長さ」と呼びます。この距離は、19世紀に英国王立顕微鏡学会によって160mmに標準化されました。しかし、年月の経過に伴い、偏光板などの、さらなる光学パーツを光路に追加する必要が生じ、実際の鏡筒長は変化することになりました。

1930年代、顕微鏡メーカーのReichertが「無限遠光学系」と呼ばれる構成で実験を開始し、これがのちに標準となりました。「無限遠光学系複合顕微鏡」では、対物レンズと接眼レンズの間に、結像レンズ(TL)が追加されます。

無限遠光学系では、試料は対物レンズの焦点内にあり、試料の1点から来る光線は、対物レンズから平行に出射されます。対物レンズと結像レンズの間の空間のことを「無限遠空間」と呼び、「無限遠光学系」という言葉は、対物レンズを通過してから形成される平行光線を意味します。無限遠補正の対物レンズによって形成される虚像は、結像レンズによって取得され、接眼レンズの前方焦点に導かれます。

この無限遠空間に各種モジュールを取り付け、利用する試みがありましたが、光路の伸長や顕微鏡内へのモジュールの設置が課題となります。光路が長くなると、視野欠け(ケラレ、輝度ムラ)や視野の縮小が生じるからです。

ライカInfinity Portでは、無限遠空間へのアクセスに別の手段を取り入れました。光源と対物レンズの間の照明光路からアクセスする方法です。この第2の方法では、各種モジュールの取り付けやその結果としてのイメージング光路の伸長が不要となり、逆に、照明光路でミラーやビームスプリッターを使用することで、顕微鏡において多くのアプリケーションへの対応が可能となります。

ライカInfinity Portを使用すると、あらゆる種類の光学装置が接続可能になります。ライカDMi8 Sには、最大2つのInfinity Portを装備することが可能で、蛍光光路に直接アクセスし、Infinity TIRF(全反射照明蛍光)やInfinity Scannerなどの最新の蛍光技術を追加できます。

Infinity Portには以下のような長所があります。

  • 複数技法の使用を可能にする外部カップリングによる無限の接続オプション。
  • フィルター無しで光子のロスがない。
  • 光路に余分な要素やガラス面がなく、歪みもない。
  • 19mmの視野(FOV)が維持される。
  • 視野欠け(ケラレ)がない。

 

Infinity TIRF(全反射照明蛍光)

ライカのInfinity TIRFモジュールは、様々な可能性を提供すると同時に、マルチカラーEPI、Hi-LoおよびTIRF照明、超解像アプリケーションのための高出力照明にも対応しています。

ライカInfinity TIRF(全反射照明蛍光)モジュール。

ライカInfinity TIRFモジュールの構成は、以下のとおりです。

(1) TIRFセンサー 後方反射光路を検知し、どんな試料に対しても、再現性の高いTIRF浸み出し深度を自動調整します。
(2) TIRFスキャナー TIRF浸み出し深度の微調整と照明方向(角度)の調整を行います。
(3) 可動コリメーター すべてのライカTIRF対物レンズに対し、z方向の全可動範囲でTIRFの使用を可能にします。
(4) 光学的マージ Infinity TIRFモジュールを介して第2照明光路を結合します。
(5) ビームエキスパンダー 超解像イメージングのために、Infinity TIRF HPモジュールが、試料に対する出力密度を高めます。

Infinity TIRFは、様々なレーザーと組み合わせて使用でき、同時マルチカラーイメージングができます。TIRF専用PLAN APO補正対物レンズは、市場で最大の視野数を提供します。さらに、Infinity TIRFモジュールは、角度シフトが可能で、それぞれの試料に合わせて観察条件を最適化します。また、Infinity TIRF高出力(HP)システムは、一分子トラッキング、GSD、dSTORM(Direct STochastical OpticalReconstruction Microscopy)、uPaintと共にマルチカラー一分子分解能(最小で20nm)への扉を開きます。

Infinity TIRFモジュールはSP8共焦点システムに追加でき、さらに活用方法が拡がります。

 

Infinity Scanner:理想的なマルチスペクトルフォトマニピュレーションツール

ライカDMi8 SのInfinity Scannerモジュールは、アプリケーションに比類のない柔軟性をもたらす、究極のマルチスペクトルフォトマニピュレーションツールです。マルチスペクトルフォトマニピュレーションのアプリケーション向けに、デュアル光路によりレーザーの幅広い波長範囲に対して色収差を補正することができます。また、調節可能なビームプロファイルによって自在に実験を実施できます。

ライカInfinity Scannerモジュール。

Infinity Scannerモジュールの構成は、以下のとおりです。

(1) ファイバーポート Widefield電源ユニット、スタンドアロンレーザーまたは3rd Party製レーザーによるレーザーファイバーのカップリングができます。
(2) フリースペースポート ファイバーフリーの直接レーザーのカップリングができます。
(3) Vario-Optic 同焦点スキャニング向けに350~800nm波長のレーザーを補正します。
(4) ガルボスキャナー レーザービームの高速X-Yスキャニングができます。
(5) 絞り スキャナーのレーザービームプロファイルの調整ができます。

高速ベクトルスキャニング機能により、精密な制御が実現されます。また、ライカDMi8 SのカメラベースのWidefieldシステムの利点を活用し、非常に高速な細胞プロセスを観察できます。LAS Xインターフェースを使用すると、同じ実験の中で複数のレーザーチャンネルや技法を使用できます。

以下は、同じ実験の中で使用できる技法の例です。

  • FRAP(フォトブリーチング後の蛍光回復)、FLIP(フォトブリーチング蛍光減衰)
  • アクセプターブリーチング
  • アクティベーション
  • スイッチング
  • オプトジェネティクス
  • セクショニング
  • アブレーション
  • アンケージング

 

アダプティブフォーカスコントロール

長時間の実験では、フォーカスドリフトがライブセルイメージングにおいて重要な問題となります。ライカDMi8 Sには、LEDの光束を用いたアダプティブフォーカスコントロール(AFC)が装備され、長時間のタイムラプス実験でも、リアルタイムに、自動で試料へのフォーカスが維持されます。

AFCはLAS Xソフトウェアに完全に統合されており、倍率10×~100×の85以上の対物レンズ(ドライ、油浸、液浸、グリセロール)の使用が可能です。樹脂製の培養ディッシュ内のライブセルイメージングにも、使用できます。

タイムラプス実験時やステージのXY移動中にフォーカスを維持しながら連続モードでAFCを適用したり、オンデマンドでのzスタック、マルチポジション実験において、画像ベースと組み合わせてAFCを適用したりできます。AFCは、高速に動くことで光毒性を最小限に抑えながら、能動的に焦点を調整します。

 

参考文献

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