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ライフサイエンス 2020.10.12

JAXAライフサイエンス宇宙実験のライブイメージングシステムに、倒立顕微鏡DMi8が搭載され、宇宙に行きました!

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倒立顕微鏡 DMi8のカタログはこちら

 

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が種子島宇宙センターから2020年5月21日に打ち上げた補給機「こうのとり」9号機により、当社の研究用倒立顕微鏡「DMi8」を搭載したJAXAの共焦点顕微鏡システムCOSMIC(コズミック)が、国際宇宙ステーション(ISS)に搬入されました。
今回は、JAXA有人宇宙技術部門きぼう利用センター 主任研究開発員 梅村さや香様にライフサイエンス宇宙実験について、千代田化工建設株式会社 宇宙・ライフサイエンス部 久保田幸治様、谷井はるな様に顕微鏡の選定経緯について、お話を伺いました。

 

微小重力環境におけるライフサイエンス宇宙実験

最初は、JAXA有人宇宙技術部門きぼう利用センターの主任研究開発員として、これまで多くのプロジェクトに関わってこられた梅村さや香様です。ISSの日本実験棟「きぼう」船内の微小重力環境におけるライフサイエンス宇宙実験について、お話を伺いました。

 

ライフサイエンス宇宙実験における梅村様のお仕事は「ユーザーインテグレーション」ということですが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。

梅村:ご提案いただいた先生方と宇宙実験を作り上げるのが、「ユーザーインテグレーション」という仕事です。宇宙実験を実現するまでには、様々な段階があります。まず打ち上げ前は、このようなところでしょうか。

  • 実験を提案された先生方と対話をしながら、微小重力環境で捉えたい現象や理論仮説を具体化していく
  • 具体化した内容を基に、JAXAのノウハウを生かして、「きぼう」で行う作業の手順、使用する装置・機材などの段取り、地上で行うべき準備作業などを決めて、宇宙実験までの計画を立てる
  • 「きぼう」で安全に実験を行うために設けられているルールに合わせて、実験計画で決めた手順や機材などをさらに細分化し、「きぼう」の運用担当者や滞在する宇宙飛行士に伝える
  • 必要な装置や技術を先生方と協力して開発し、問題なく対応できるよう事前予備実験を行う
  • 宇宙で実験を行うための宇宙輸送機での打上げ・回収に関する国際調整、輸送の準備等を行う

宇宙機を打ち上げるときは、射場に行って、搭載する試料の準備なども手伝いますね。
宇宙での実験中は、筑波から研究者の先生方と一緒に実験の様子を見守り、観察やトラブルシューティングを行います。
その後、先生方が解析された宇宙実験の成果を世に出されるのもサポートします。

プロジェクトチーム紹介写真
上段左から、東端晃、佐野ひろ美、橋爪藤子、梅原真澄、東拓哉
下段左から、鈴木智子、鈴木智美、梅村さや香、中村裕広
(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

「微小重力環境」はあまり聞き慣れない言葉ですが、どのような実験環境なのでしょうか。

梅村:ISSではたらく見かけの重力はとても小さく、地上の100万分の1~1万分の1です。だから、ISSでは宇宙飛行士が宙に浮いているんですね。これを微小重力環境といいます。無重力と言うほうが一般的ではありますが、重力が全くないわけではないので、私たちは微小重力環境という言葉をよく使います。
微小重力環境には、様々な特性があります。

  • 地上とは異なる重力(微小重力)ならではの、生命のふるまいや身体の変化がおきる
  • 沈降がないため、比重の違うものも均一に分散する
  • 対流がないため、流動に邪魔されずにきれいな結晶が作れる
  • 容器を用いずに、液体を浮遊できる

ISSでは、これらの特性を生かした実験が行われています。規則性の高い高機能材料の製作、高品質タンパク質の結晶生成、浮遊状態で融解させた物質の特性測定、等です。
日本の実験棟「きぼう」は、船内・船外両方の実験環境を備える、ISSの中で最大の実験室です。生命科学、宇宙医学、物質・物理科学、地球惑星科学、技術実証など、多様な分野に取り組んでいます。

国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」でのライフサイエンス実験の様子 (C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

微小重力環境におけるライフサイエンス宇宙実験の、具体的なテーマを教えてください。

梅村:生命は、1Gの重力環境下で進化を遂げてきました。地球とは異なる環境下での生命活動を調べることで、重力に隠されていた生命の仕組みや新たな能力を発見できる可能性があります。そしてこれらの発見は、普遍的な生命の法則につながると期待しています。
また微小重力環境では、宇宙飛行士の骨や筋肉が弱くなる、免疫機能が低下する、遺伝子発現パターンが変動するなど、様々な生命活動の変化が見られます。これらの原因を知り、対処法を調べることが、地上での骨粗しょう症や免疫低下などの治療・予防法の確立につながります。

 

なるほど、生命のルーツや我々の生活に直結する実験なのですね。

梅村:人類の活動領域が宇宙に拡がっていくにあたり、微小重力や宇宙放射線など、地上と異なる環境に長期に滞在する機会が増えると期待しています。そんな時代に備えて宇宙環境の生体への影響を理解するには、宇宙環境で実験し、遺伝子や細胞レベルから評価して、メカニズムを把握する必要があります。
このように多様な目的で、細胞、線虫、メダカ、マウス、植物などを用いて、重力感受のメカニズムや放射線影響を確認する実験、宇宙微生物環境モニタリングなど、様々なライフサイエンス実験を10年以上行っています。

 

この実験を、今後生かしていきたい分野は何でしょうか。

梅村:今後は、再生医療分野に注目しています。組織や臓器原基が三次元的に構築されることが、その組織・臓器の機能を発揮するのに必要であるとされていますが、地上では完全な立体培養の確立に至っていません。
静的微小重力環境が長期間維持される「きぼう」は、組織・臓器の立体的な三次元培養に有利であると期待しています。微小重力下では、細胞の成長・分化が変化することも知られているんですよ。どんな結果が得られるか、楽しみです。

 

地上の実験環境とは異なる、ISSならではの苦労やエピソードもありそうですね。

梅村:宇宙では、液体が容器に支えられることなく浮きます。浮遊した液体が機器に入り込んでショートなどを起こしてはいけないので、地上では簡単に行える「細胞培地をピペットで交換する」といった作業も、宇宙では細胞や溶液を完全に閉じ込めた状態で行う必要があるので、大変です。
また、地上でイメージする実験を宇宙で行うための機器を製作するのは、かなり難しいです。宇宙飛行士が安全に作業できるよう、二重・三重の安全管理が求められます。
打ち上げタイミングや実験の実施タイミングは、ISSに参加する15か国の国際調整で決まります。譲れるところ、譲れないところを見極め、優先順位をつけていくタフな調整が必要です。
「きぼう」ではたくさんの宇宙実験が行われているので、一つの実験を何度も試したり、やり直すことはなかなかできません。「きぼう」で使える時間、装置や試料の打ち上げ・回収できる数量は限られるので、効率的にピンポイントで成果を得られる計画が求められます。一度で確実に成果が得られるよう、地上で多くの予備実験を行って、宇宙での実験を効率よくできるように計画します。それでも、予想外の結果や思わぬトラブルが発生することがあります。

 

それでも新しい挑戦をしていく、と。

梅村:新しいことに挑戦するのは、大変ではありますが、エキサイティングで面白いですね。我々ユーザーインテグレータだけでなく、研究者、メーカーやコントラクターの方々、運用チーム、他の宇宙機関などと力を合わせて、様々な困難を乗り越えてチームで成果を得ることこそ、宇宙開発の醍醐味です。

 

JAXAライブイメージングシステムCOSMICの実験テーマ

梅村様には引き続き、「きぼう」に設置されるライフサイエンス実験用のライブイメージングシステムCOSMIC(Confocal Space Microscopy)について、お話を伺いました。

 

「きぼう」に設置されるCOSMICは、どのような宇宙実験に使用されるのでしょうか。

梅村:細胞レベルでの重力感受機構を解明する研究や、臓器再生・発生生物学の研究は、2020年以降の「きぼう」での生命科学研究の中心分野です。これらの実験では、細胞間の相互作用に係る微細な影響を評価するために、軌道上の「その場」における、細胞組織の内部構造等の立体的な観察が必要となります。
この観察にCOSMICを使用します。共焦点機能による高解像度画像・ライブイメージングで、細胞・組織等の三次元構造を可視化し、詳細な構造・機能を解析できると期待しています。
またスプリットビュー機能により、時間ずれのない二波長同時観察が行えるので、FRETを用いた細胞内シグナルや分子動態の測定・解析を、高速かつ高精度に実施できます。そのため、生体内で起きる様々な分子レベルの生命現象を、正確に把握できます。

ライフサイエンス実験用ライブイメージングシステム (顕微鏡) (C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

COSMICで観察する生物試料は、どのようなものでしょうか。

梅村:今のところ、培養細胞、iPS細胞、マウスの初期胚、メダカ(個体)などを予定しています。

ヒトiPS細胞より創出した “肝芽”
Takebe et al., Vascularized and functional human liver from an iPSC-derived organ bud transplant, Nature, published in 2013, Springer Nature
Cell Mechanosensing(名古屋大学 曽我部先生が、以前行われた「きぼう」利用実験テーマ)の宇宙実験時に、軌道上のライカ蛍光顕微鏡(DMI6000)で観察・撮影された、微小重力環境下の間葉系幹細胞の接着斑 (C)名古屋大学/JAXA

COSMICを使用して取り組む予定のライフサイエンス実験テーマを教えてください。

梅村:一つは、横浜市立大学・東京大学の谷口英樹先生のテーマ(Space Organogenesis)です。iPS細胞を用いたヒト器官原基創出法を発展させ、大血管を付与した立体臓器の創出を目指した基盤技術開発を行います。
以下の順で実験を行う予定です。
(詳細は、JAXAサイトhttps://iss.jaxa.jp/kibouser/subject/life/70671.html

地上において、ヒト由来のiPS細胞から分化させた肝前駆細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞を用いて、肝臓の原基となる肝芽を作製。
  ▼
血管様構造体と共に封じ込めた培養容器を「きぼう」に打ち上げ、「きぼう」内に設置されたインキュベータ内で、肝芽を所定の期間培養する。軌道上での肝芽の立体的な観察にCOSMICを使用する。
  ▼
地上に回収し、組織の成長や血管形成の違いなどを地上で培養した対照群と比較して、臓器原基成長における重力の影響について解析を行なう。

 

もう一つの実験予定テーマは何でしょうか。

梅村:名古屋大学の曽我部先生のテーマ(Cell Gravisensing)です。細胞の重力感知の分子機構を、メカノバイオロジー視点で解明する実験を行います。地上で準備した培養細胞を打ち上げて、「きぼう」の人工1G区とµG区で培養し、細胞のふるまいの違いをリアルタイムで観察するのにCOSMICを使用します。
メカノセンシングの観点で重力感知の分子機構を知るためには、細胞内の分子の動的な挙動を捉えることが必須です。それには、ライブイメージング解析ができるCOSMICが適しています。DMi8をベースとしたCOSMICでは、明るく精細で広視野な共焦点観察画像が取得できます。COSMICではさらに、微小重力環境下の生きた細胞内で、「反応や力」のイメージング解析も目指しています。
(詳細はJAXAサイトhttps://iss.jaxa.jp/kibouser/subject/life/70651.html

 

今後のプロジェクトを進める上で、ライカ顕微鏡への期待がありましたらお聞かせください。

梅村:宇宙に搭載するには、安全対策や微小重力対応などが必要です。地上で使用できる最先端の技術を短期間で宇宙でも使えるように、ご協力いただければ嬉しいです。
宇宙において、インキュベータ等の中での細胞培養中に、遠隔操作で自動観察できる顕微鏡があると、宇宙実験の自由度が上がります。増殖や蛍光も、その場で数値化できるとさらにありがたいですね。宇宙飛行士が触らなくても実験できるのが、究極の形だと思っています。

 

貴重なご意見、ありがとうございました。

 

性能+堅牢性+ソフトウェア開発力でライカを採用

続いては、COSMICの開発を受注した千代田化工建設株式会社 宇宙・ライフサイエンス部 久保田幸治様、谷井はるな様にお話を伺いました。お二方は、JAXA様が提示する開発仕様を満たすよう、これまで多くのプロジェクトに関わってこられました。

 

まず、久保田様、谷井様の仕事内容についてお聞かせください。

谷井:谷井は、COSMICの開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーです。久保田は、顕微鏡の仕様策定および軌道上実験支援を担当しています。

 

ライカを選定いただいたのは2012年でした。そのときの話に遡り恐縮ですが、多くの企業の中から弊社を選んでいただいた理由をお聞かせください。

谷井:9年前のライフサイエンス宇宙実験で、倒立顕微鏡DMI6000を採用したときの話ですね。まずは、顕微鏡の堅牢性を重視してライカを選定しました。また、軌道上での実験は顕微鏡操作のすべてが遠隔操作となるため、専用ソフトウェアを開発する必要がありました。このソフトウェア開発に全面的にご協力いただける体勢を築くことはできたのは、ライカでした。これらが選定の主な理由です。

 

ありがとうございます。実際にCOSMICを設計される中で、ライカのDMI6000はエンジニアの方々からどのように評価されたでしょうか。

谷井:曲面デザインを採用した筐体の追加工に苦労したことがありましたが、設計に関する正確な情報をご提示いただいたので、多くの面で順調に開発を進めることができました。

 

その後、採用機種をDMi8に変更されました。

谷井:はい、次の軌道上実験においては、地上の先端生命科学研究と同様の高度なライブイメージングを微小重力環境下で実施します。研究者からの「DMI6000の蛍光観察機能を維持しながら、オートフォーカス機能を備えた共焦点レーザー顕微鏡観察システムへとアップグレードしたい」という要望をJAXAで検討した結果、次世代機であるDMi8の採用が決まりました。当社の技術力も評価していただいたため、今回も開発を担当することとなりました。

 

今回、COSMICに採用いただいたDMi8は、期待どおりだったでしょうか。

久保田:ライカの共焦点顕微鏡SP8を自社で使用していますので、基本機能、オートフォーカス機能、共焦点レーザー顕微鏡観察システム(CSU)へのアップグレード、等に関しての心配はありませんでした。特にオートフォーカス機能は、軌道上実験で効果を発揮してくれると思うので、とても期待しています。

COSMIC開発試験の様子 (C)千代田化工建設株式会社

今回のCOSMICの設計で、苦労したエピソードがあれば教えてください。

久保田:ソフトウェア開発で、すべてのアクチュエータの挙動を一つ一つ確認しなければいけないため、予想以上に時間を要しました。またオートフォーカス機能では、専用サンプル容器を軌道上実験で使用するため、再現性を確認するのに苦労しました。

 

今回のプロジェクトを進める上で大切にされたこと、楽しかったこと、達成感等をお聞かせください。

谷井:様々な分野・経験のエンジニアが集まっているので、プロジェクトの進捗を確認するチーム会議を毎週開き、状況を理解したうえで仕事を進めるようにしました。開発は、なかなかスケジュール通り進まないので苦労が絶えませんが、チームのメンバーに協力してもらいながら進めるのは楽しいことですし、開発の各ステップが終わるたびに達成感があります。

 

和気あいあいとした、活気のあるチームだったのですね。

谷井:はい。最終作業である打上機に搭載するための梱包を完了し、輸送チームへ引き渡した時には、「これでもう触れなくなるなぁ」と一抹の寂しさを感じずにはいられませんでした。

プロジェクトチーム紹介写真
上段右から、三宅 和司、谷川 直樹、笹木 孝則、土屋 美和
下段右から、橋本 季代子、服部 麻希、谷井 はるな、鹿田 潤平
(C)千代田化工建設株式会社

貴社は創業以来、プラントの設計・調達・建設を中心に、数多くのプロジェクトを世界各地で手掛けておられます。今後のプロジェクトを進める上での、ライカ顕微鏡への期待をお聞かせください。

久保田:ノーベル賞に値する最先端技術を、誰でも使うことができる製品として提供されているライカの技術力には、いつも驚嘆するばかりです。当社の顧客は、石油・ガスといったエネルギーから、化学・環境・省エネ・産業設備・ライフサイエンスまで、幅広い分野に及んでいます。ライカの技術を十分に活用して、様々な顧客にアピールできるような素晴らしいデータを取得していきたいと考えています。
ライカでは細胞培養に特化した顕微鏡を販売されていますが、フィールドワークでも活用できるようなパッケージがあると、ユーザーの裾野が広がると思います。

 

貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。これを生かし、より良い製品をご提供できるよう努力してまいります。


 

ご経歴

宇宙航空研究開発機構(JAXA) きぼう利用センター 主任研究開発員
梅村さや香様

2003年3月、東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻修了。
2003年4月、宇宙開発事業団(現 宇宙航空研究開発機構)入社。
以降、国際宇宙ステーションでのライフサイエンス宇宙実験や国際調整に関わる。


千代田化工建設株式会社 宇宙・ライフサイエンス部
谷井 はるな様

静岡大学大学院 博士前期課程修了。
千代田化工建設株式会社 入社。


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