はじめに
生細胞イメージングは、多様な細胞現象に光を当てます。これらの現象の多くは速いダイナミクスを持つため、顕微鏡イメージングシステムは細部まで捕らえられるほど高速でなければなりません。このようなイメージングシステムの大きな利点の一つは、複数の蛍光チャンネルを同時に取り込み、それらの正確な時空間相関を得られることです。この記事では、Micaのダイナミックな生細胞イメージングに関する例を紹介します。
高速生細胞イメージング
生細胞イメージングは、細胞内プロセス観察によく利用されます。例えば、輸送プロセス、細胞骨格ダイナミクス、有糸分裂などです。このような細胞構造には蛍光タグが付けられます。タンパク質で染色したり、生細胞色素で染色したりします。また、pHセンサーやCa2+、電圧感受性色素のような動的インジケーターが利用されます。ときには、明視野顕微鏡もその選択肢となります。
課題
細胞内の高速現象は、以下のような技術的制限の点で、ライブセル顕微鏡にとって困難な場合があります。
ダイナミックなマルチカラータイムラプスイメージングの時間的相関は、イメージングシステムが異なる蛍光チャンネルを同時に記録する能力に依存しています。赤と緑のライトを1つずつ搭載した飛行機が空を飛んでいるところを想像してみてください。イメージングシステムが一度にどちらか一方のライト(赤または緑)しか記録できない場合、飛行機は2つの連続した画像の間を前進します。その結果、タイムラプスムービーでは、これが1つの飛行機(赤と緑のライトを搭載した飛行機)なのか、2つの異なる飛行機(1つの赤ライトを搭載した飛行機または1つの緑ライトを搭載した飛行機)なのかを見分けることができません。この制限をマルチカラータイムラプスイメージングに適用すると、2つの異なる蛍光シグナル、例えば、高速で移動する小胞のカーゴタンパク質とモータータンパク質のシグナルを適切に相関させることができなくなります。このアーチファクトは時空間ミスマッチとして知られ、しばしばシーケンシャルイメージング固有の問題となります。
従来の蛍光フィルターベースのイメージングシステムは、異なる蛍光色素用のフィルターキューブを交換するのに時間がかかるため、上記の技術的制限に悩まされています。FluoSync™テクノロジー(図1)を搭載したMicaは、最大4つの蛍光チャンネルを同時に取得することができます。これによって4つの異なる細胞要素の時空間相関を100%達成することができるのです。さらに、同時撮影では各チャンネルの露光時間の積み重ねはありません。そのため、1つのタイムポイントを取得するのにかかる時間は、シーケンシャルな取得に比べて短く済みます。さらに、Micaはインキュベーターの機能を持ち合わせており、長時間にわたって細胞を一定の温度とCO2レベルに保ち、生理的なイメージング条件に近い状態を維持することができます。
図1:FluoSync™と完全に統合されたデジタルスペクトルハイブリッドアンミキシングにより、最大4つのラベルを同時に取得可能。FluoSync™は可視スペクトル全域の光子を捕捉し、ナローバンドフィルターよりもロスが少ない。また、Phasorベースのハイブリッド・アンミキシングアプローチを採用することにより、各シグナルを分離。
方法
生細胞は、ペトリディッシュまたは96ウェルプレートで培養しました。生細胞イメージングに合わせ、Mica庫内は37℃、5%CO2、高湿度(水分蒸発による溶媒濃度の上昇を避けるため)に設定しました。画像取得条件は以下で説明しています。
結果
ここでは、WideFieldモードの THUNDERによる同時撮影から共焦点モードでの高速画像取得まで、Micaを使った生細胞イメージングの例をいくつかご紹介します。
1. 共焦点モードにおけるシーケンシャル撮影と同時撮影の比較
動画1a)と1b)は、シーケンシャルな取得と同時取得の違いを示している。同じ小胞集団を2つの異なるライブセル色素(緑と赤)で染色した場合、すべての小胞が黄色に見えるはずである(緑と赤のオーバーレイ)。動画1a)は、両方のチャンネルをシーケンシャルに撮影したものであるが、いくつかの小胞は赤にも緑にも見える。赤または緑の静止した小胞と二重染色された小胞を区別するのは困難なことが分かる。動画1b)では、両チャンネルを同時に取得したものあり、赤と緑が重なっているため、すべての小胞が黄色に見える。
動画1a): 対物レンズ HC PL APO CS2 63x/1.20 WATER。細胞をWGA-Alexa Fluor™ 488(緑)とWGA-Alexa Fluor™ 555(マゼンタ)で同時に染色。動画では両方の蛍光色素をシーケンシャルに取得している。いくつかの小胞が、緑色とマゼンタ色の2つの異なる小胞として見える。
動画1b): 対物レンズ HC PL APO CS2 63x/1.20 WATER。細胞をWGA-Alexa Fluor™ 488(緑)とWGA-Alexa Fluor™ 555(マゼンタ)で同時に染色。動画では両方の蛍光色素を同時取得している。すべての小胞は両方のWGA色素の共局在を示し、ほとんどが白く見える。
2. 2色タイムラプスイメージング (従来の蛍光観察 vs THUNDER)
HeLa細胞を、WGA-Alexa Fluor™ 488とSiR-Tubulinで染色。3Dタイムラプス画像は、WideFieldモードで5秒ごとに合計2分間撮影。Zスタックサイズは1.1 µmで、6スタック撮影。THUNDER処理を画像撮影と同期、または後処理を実施。
動画2:WGA-488(黄色)とSiR-Tubulin(マゼンタ)で染色したHeLa細胞。HC PL APO CS2 63x/1.20 WATER。同時撮影、露光時間100ms。5秒間隔で合計2分間の3Dタイムラプス撮影。上:WideField、中央: Instant Computational Clearing(ICC)、下: Large Volume Computational Clearing(LVCC)
3. 3色タイムラプスイメージング (従来の蛍光観察 vs. THUNDER)
HeLa細胞を、WGA-488・SiR-Tubulin・SPY-アクチンで標識。3Dタイムラプス画像は、9秒ごとに合計2分間撮影。Zスタックサイズは1.8μmで、9スタック撮影。
動画3:WGA-488(イエロー)・SPY-Actin(シアン)・SiR-Tubulin(マゼンタ)で染色したHeLa細胞。対物レンズはHC PL APO CS2 63x/1.20 WATER。100msの露光時間で同時撮影。9秒間隔で合計2分間のタイムラプス撮影。全サイズ1.8 µmの9層のZスタックを最大撮影。上:WideField 下: Large Volume Computational Clearing(LVCC)
4. 4色タイムラプスイメージング (共焦点)
Micaの共焦点モードでは、同時撮像も可能。U2OS細胞を、MitoTracker™ Blue(青)・FluoView 488 Tubulin(緑)・WGA-Alexa555(黄)・SiR-Actin(シアン)で標識。
動画4:MitoTracker™ Blue(青)・FluoView 488 Tubulin(緑)・WGA-Alexa555(黄)・SiR-Actin(シアン)で染色したU2OS細胞。対物レンズはHC PL APO CS2 63x/1.20 WATER。同時撮影。5秒間隔で合計2分間のタイムラプス撮影。
5. 4色タイムラプスイメージング (THUNDER –高速)
U343細胞を、内在性マーカーtfLC3(Tandem fluorescent-tagged LC3、MitoTracker™ Deep Red、NucBlue™)で標識。TfLC3はmRFPとeGFPを含む融合タンパク質で、両者は異なるpH値で安定性を示す。mRFPはeGFPよりも低いpHでより安定であるため、これはより酸性環境でのレッドシフトにつながる。中性以上のpHでは、どちらの蛍光タンパク質も無傷であるため、得られるシグナルは黄色である。
動画5:Tandem-LC3(GFP(シアン)・mCherry(イエロー))を安定的に発現し、MitoTracker™ Deep Red(マゼンタ)とNucBlue™(ブルー)で追加染色したU343-tfLC3細胞。対物レンズはHC PL APO CS2 63x/1.20 WATER。ワイドフィールドモードで4チャンネルを同時に、各ポイント間の時間間隔を200msとして、合計1分間にわたって取得したタイムラプスデータ。左:WideField、右: Instant Computational Clearing(ICC)
結論
時空間相関を100%得るためには、高速の細胞事象を全チャンネル同時に撮像する必要があります。そうでないと、各チャンネルからの信号が異なる時点で取得されることになり、動的マルチカラータイムラプス画像の解釈を誤る可能性があります。Micaは、共焦点モードでもWideFieldモードでも、一度に最大4つの蛍光色素のシグナルを取得することができます(LIGHTNINGとTHUNDERを含む)。Micaを使えば、細胞成分を時間的ミスマッチの無い全く同じ時点でのイメージングが可能です。
参考文献
Efficient Long-term Time-lapse Microscopy, Science Lab, Leica Microsystems, 2022.
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