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ライフサイエンス 2024.02.20

【Micaを知る- vol.3】マルチカラー生細胞イメージングを高速かつ安定的に行う~生細胞研究へのMicaの貢献~

はじめに

生細胞イメージングの助けを借りることで、研究者は生細胞から生物全体までのダイナミックなプロセスを観察し洞察することができます。細胞内のプロセスだけでなく細胞間の活動も可能です。タンパク質や脂質の輸送、免疫細胞の移動、オルガノイドの細胞組織、動物の発生などはその一例です。そして生細胞イメージングには、試料と顕微鏡システムに一定の特性が必要となります。この記事では、この様な前提条件に対してMicaがどの様に適応するか具体的に事例を交えて説明します。

 

生細胞イメージング

生細胞イメージングは、生物学的プロセスを顕微鏡レベルで明らかにすることができます。試料を生理的条件に近い状態に保つことでそれが可能になります。その事例をいくつか紹介します。試料には、従来からある培養細胞や生きた組織、オルガノイド、あるいはモデル生物があります。通常、蛍光顕微鏡で観察することになりますが、それには細胞が蛍光標識タンパク質を発現できる様に、トランスジェニック体を作製する必要があります。その他、生細胞を染色する色素を使用することもできます。

 

課題

1) 環境条件

生細胞イメージングでは、できるだけ現実的な実験結果を得るために生理的環境を模倣する必要があります。最適な生理学的条件(温度、pH、酸素レベルなど)は生物によって異なります。哺乳類細胞は〜37℃を必要とするのに対し、昆虫細胞は〜27℃で最もよく成長し、魚類は28℃を好みます。また、分裂酵母は〜30℃に保つ必要があります。

細胞培養液のpHは、炭酸水素ナトリウム緩衝液の助けを借りて、常に7.0~7.4に保たれます。これにはインキュベーター内雰囲気にCO2 が存在する必要があります。加えて、培養液が蒸発しないようにインキュベーターの内部は水蒸気が飽和していなければなりません。

生体内の酸素レベルは、実は組織や細胞の種類によって異なります。興味深いことに、今までのところ細胞培養インキュベーターや生細胞イメージングにおいて酸素化はあまり考慮されてきませんでした。ところが、酸素レベルが最適でないと、増殖率の低下(高酸素症)や代謝率の低下(低酸素症)を引き起こす可能性があります(Hadanny, A.; Efrati, S.)

光照射は、蛍光色素だけでなく生細胞それ自体にも影響を与える可能性があるため、光からの保護は生細胞イメージングにおけるもう一つの課題でもあります。例えば、高い光量照射はDNA損傷や蛍光色素の光脱落につながる可能性があります。

Micaは、こうしたあらゆる課題に対応できるように設計されています。本体自体がインキュベーターとして機能する、つまり試料の周囲全体が必要な温度(42℃まで対応)まで加温され、目的のCO2 レベルと湿度が平衡状態になります。O2 レベルは、必要に応じて追加のステージトップチャンバー内で制御することができます。すべてのパラメータはMica LAS Xソフトウェアで制御します。試料への光照射はOneTouch機能で設定され、表示されているスライダー「Sample Protection – Image Quality 」で、必要なシグナル量と生細胞および蛍光色素の保護とのバランスを調整できます。
試料へのアクセスも最小限に抑えられるよう、フロントドアのパネルの裏には小窓が隠されています。

図1:Micaはインキュベーターとしての機能を搭載。本体内部全体が、希望の温度、湿度、CO2濃度に平衡状態になる。環境変動による試料への負担を抑える目的で、フロントドアのパネルの裏にある小窓からのアクセスを可能にし開口を最小限に抑えている。

 

2)光毒性

光は試料に入り込むエネルギーによる悪影響が懸念されます。皮膚に有害な紫外線だけでなく、どんな波長の光でも細胞内の分子に干渉する可能性があります。また、蛍光色素がラジカルを形成し分子と相互作用することもありえます。課題は、最小限に光毒性を抑えつつ、シグナル取得が可能な光量の調整をとることです。Micaは、このバランスを保つたに独自のツールでユーザーをサポートします。

ユーザーに技術的な知識が無くても、「Sample Protection – Image Quality 」スライダーで希望に合った条件を指定し、「OneTouch」ボタンをワンクリックすることで、適した励起と検出のパラメータを設定します。
細胞内ダイナミクスは非常に高速な挙動である場合があります。例えば、オルガネラや小胞を運ぶ分子モーターの速度は数μm/sに達します(Alberts B. et al.)これは、特に複数の蛍光標識したターゲットを画像化したい場合、画像取得の条件に多いに影響します。ここで問題となるのは、生きた生物においては、すべての蛍光チャネルを同じ瞬間に取得するにあたり、生命の挙動を一時停止させることができるのではなく、進行しつづけることにあります。従来の蛍光フィルターを使用したシステムでは、チャンネル切り替えで必要になるフィルターキューブの交換に最も時間を要することになります。そのため、2チャンネルで取得した画像が、時間差のある異なる2つの時点の画像でモニターされることになり、正確な時空間相関を得ることが不可能なのです。

一方Micaでは、 FluoSync™ 技術により、最大4つの蛍光チャンネルを同時に取得することができます。例えば、異なる小胞カーゴ、細胞骨格、モータータンパク質を100%の時空間相関を持ってイメージングできることを意味します。さらに、同時取得により、フレームレートをより速くすることができるため、速い細胞運動をより高い時間分解能で記録することができるのです。

 

3)与えられた時間枠で多くの反復練習を記録する
1回の実験で n 数を多く記録するのは大変なことです。例えば10分おきに記録したい場合、次のサイクルが始まるまでに記録できるポイントの数は限られています。通常、同じポジションを複数チャネルで記録したい場合、その数分の時間を要することになりますが、Micaではそうはなりません。FluoSync™技術は、最大4つの標識チャネルを同時に取得するため、最大で4倍速く記録することができ、結果としてより多くのポジションを記録することができます。標識の数とポジション数をトレードオフする必要が無くなるのです。

 

4)適切なポジションを見つける
試料の必要な位置を見つけて観察条件をセットアップするのは難しいことです。従来の顕微鏡の様に、接眼レンズを覗いて試料の全体像を把握するには、記憶の中にマップを作成し、それを維持し位置関係を覚えておく必要があります。デジタルマイクロスコープを使用すれば、試料の概観を得ることができますが、それでもなお、さらなるイメージングを目的とした画像内の位置を指し示す必要があります。Micaは、ナビゲータツールを使ってこれを簡単にする方法を提供します。
低倍率または高倍率での試料の概観(Overview)は、興味深い位置を見つけるのに役立ちます。これらの関心領域は、Overview像上に直接マークすることができます。そうすることで、その後の高解像度画像取得に向けての文脈を維持することができます。

 

5)生細胞イメージングに適した対物レンズの選択
生細胞イメージングは一般的に水溶液中で行われるため、高倍率対物レンズは浸漬媒体として水を使用するように設計されています。対物レンズと試料の間に水を注入するのは煩雑で、焦点面や位置が変わってしまう可能性があります。
さらに水はすぐに蒸発してしまうため、常に補給が必要です。Micaは、水浸用対物レンズの使用期間中、常に水を維持するためのフィードバックループ機構を統合しました。このアプローチにより、都度の水補給が不要になり長期間の実験が可能になりました。
光学的品質をさらに高めるため、対物レンズの中には試料キャリアの厚みを補正する補正環(CORRリング)を備えているものもあります。補正環は都度調整する必要がありますが、Micaでは自動調整を行うSmartCORR機能を採用しています。

 

6)反復間の比較可能性
科学実験の重要な側面の1つは、試料や結果に対する影響をピンポイントで特定するために、変数をできるだけ変えないことであります。これには、すべての実験を通して同じ撮影条件を維持することも含まれます。安定した環境条件(温度、pH、O2 、上記参照)の維持のほか、画像取得のパラメータ(励起と検出)の維持があります。Micaはデフォルトでプロジェクト内のパラメータを維持し、ユーザーが希望する場合のみ変更が可能です。このパラメータは参照画像から読み出しも可能です。そして環境条件を保つためには、Micaのインキュベーション機能が不可欠です。MDCK嚢胞を連続3週間培養させることができるほど、安定した条件を提供します(下記参照)。

 

方法

Micaでは、生細胞イメージング用の専用試料ホルダーをご用意しています。小型(36mm)と中型(60mm)のシャーレ用ホルダーがあります。

図2:生細胞イメージング用試料ホルダー。さまざまなサイズのペトリ皿に対応するホルダーがある。生細胞イメージングは、ibidi µ-Slide 8 Wellスライドを使用するなど、従来のスライドホルダー(図無し)でも実施可能。

 

小胞

サンプル:U2OS細胞(蛍光色素;Alexa488、Alexa555)
標識箇所:両色素ともに、細胞膜、全ての小胞、エンドソーム
培養環境:37℃、5% CO2 、生理的pHレベル
対物レンズ:63x/1.20WATER(水自動供給あり)

 

ゼブラフィッシュ

サンプル:Danio rerio(中胚葉運命レポーター(Tbxta:GFP)のトランスジェニック系統)、間質液をDextran-Alexa647で標識
初期胚を球期から体節期まで画像化
培養環境;28℃

 

嚢胞

a) MDCK細胞(EB1-GFPを安定的発現。マトリゲル内で増殖後、ibidi µ-Slide 8 Wellスライド上でシスト増殖を誘導。
培養環境:37℃、5% CO2 、高湿度)
2日目には細胞はすでに3次元的な集塊を示し、マトリゲル内での動きが非常に活発。9日目には嚢胞は安定した位置にとどまった。シストの一部にEB1-GFPMito-BlueSiR-ActinTubulin-SPY555を追加。6日間のタイムラプス画像取得(インターバル;6時間)。Xyzのデータ取得により、嚢胞の3D画像を得ることができた。
観察モード:蛍光観察(GFP)、IMC(モジュレーションコントラスト)
対物レンズ: 63
Zスタック:(スタックサイズ=220.7 nm(418枚)、厚み=92.02 µm)。

b) 5000個のMDCK細胞(EB1-GFPを安定発現)をU底ウェルプレートで培養。数日後に嚢胞様構造を形成。これらの嚢胞様構造の1つを、共焦点顕微鏡で詳細観察。3D再構築のためのモード

 

嚢胞FUCCI – 蛍光ユビキチン細胞周期インジケーター

FUCCIコンストラクト(GFP-RFP)を発現するヒトケラチノサイトHaCaTを画像化し、EGF処理によって誘導される集団的細胞運動を解析した。FUCCIコンストラクトは、ストリーミング中の細胞周期フェーズの指標として使用される。
使用プレート:12ウェルプレート
対物レンズ: 10倍対物レンズ(全体像をとらえるため)
撮影方法:6ポジションのタイルスキャン
撮影時間:インターバル=5分、トータル=16時間40分 

 

結果

高速イベントによる短期間の実験

U2OS細胞は、どちらも細胞膜に結合する同じ構造を持つ2つの蛍光染色「WGA-Alexa488」と「WGA-Alexa555」とで標識します。Micaのシーケンシャルモードでは、WGA-Alexa488(緑)とWGA-Alexa555(赤)の取得の間に時間的なずれがあることが認められます。画像を比較すると、同時取得ではすべての小胞が黄色(緑と赤の混合)であるのに対し、シーケンシャルモードでは高速で移動する小胞の一部が2つの異なる構造(1つは緑、もう1つは赤の小胞)に見えることがわかります。

動画1:WGA-Alexa488(緑)、WGA-Alexa555(赤)で標識したU2OS細胞。蛍光チャネルをシーケンシャルに撮影。同じ構造に由来する緑と赤のシグナルによって識別できる時空間的ミスマッチが見える。スケールバー = 5 µm

 

動画2:WGA-Alexa488(緑)、WGA-Alexa555(赤)で標識したU2OS細胞。蛍光チャンネルを同時に撮像。スケールバー = 5 µm

 

中期実験

ゼブラフィッシュは発生生物学でしばしば使用されるモデル生物です。この例では、周囲の組織の粘性に影響される空間における細胞の協調を調査しています。Computational ClearingとLarge Volume Computational Clearing(LVCC)で2チャンネルの撮像、撮影総時間は24時間です。

動画3:中胚葉運命レポーター(Tbxta:GFP;緑)を発現するゼブラフィッシュ胚の発生。間質液はDextran-Alexa647(赤)で標識した。10x/0.32の対物レンズで、厚さ250μm、25スタックを24時間かけて取得した。インターバル=15分。THUNDER Large Volume Computational Clearing (LVCC)を使用。提供:Camilla Autorino、Petridou Group、EMBL Heidelberg(ドイツ)

 

MicaはWidefield顕微鏡でのGFPとRFPの同時画像取得を可能にしました。フィルターフリーのシステムを使用することで、チャンネル間のフィルターシフトを無くし、撮影をスピードアップすることができます。動画では、代表的なWidefiel画像とTHUNDER Instant Computational Clearing(ICC)を比較しています。コントラストが鮮明になっていることが分かります。

動画4:サンプルの生理学的条件下でのRawデータとTHUNDER Instant Computational Clearingの比較(タイリング画像) 画像提供:Hind Abdo, IFOM (Firc Institute of Molecular Oncology), Milano, Italy

 

長期実験

MDCK細胞は極性を持った上皮細胞で、マトリゲルなどのマトリックス上で培養すると、いわゆる嚢胞に成熟します。このような三次元構造は、発生過程やその根底にあるタンパク質輸送機構の研究に利用できます。ここでは、GFPと結合した微小管結合タンパク質を安定発現させ、3週間に渡り培養しその状況をMicaで撮影しました。

図3:MDCK嚢胞(THUNDER Large Volume Computational Clearing (LVCC))3週間の生細胞実験の抜粋(インターバル=6時間)、拡張被写界深度(EDOF)画像。上段:重ね合わせ画像、中央:蛍光画像(EB1-GFP)、下段;透過観察像。スケールバー20µm。提供:Ralf Jacob教授、Manuel Müller教授、Philipps University Marburg、ドイツ

 

発生9日後、シストの一部を生細胞色素で染色し、GFPタグ付き微小管結合タンパク質に加えて、アクチン、チューブリン、ミトコンドリアを可視化。その後、共焦点モードで撮像しました。

図4:9日目のMDCK嚢胞(CLSM)染色;EB1-GFP(緑)に加え、シストの一部をMito-Blue(マゼンタ)、SiR-Actin(赤)、Tubulin-SPY555(黄)で標識。対物レンズ;63x/1.20対物レンズ。観察モード;共焦点モード。スケールバー = 20 µm。試料提供:Ralf Jacob教授、Manuel Müller教授、Philipps University Marburg、ドイツ

 

シスト様構造は、U底ウェルプレートで細胞を培養することで形成されます。この実験では、MDCK細胞を1日目からMicaで培養し、明視野観察とWidefiel蛍光観察とで記録し、シスト形成を観察しました。Micaのインキュベーターの特性により、細胞はシスト様構造体に発達する間、何日間にも渡り安定的な状態を保つことができました。

動画5:嚢胞形成の3日間のタイムラプス像(GFPおよび明視野チャンネル、インターバル=30分)。対物レンズ;10x/0.32。スケールバー=200μm。

 

培養14日後、シストを共焦点モードで低倍率観察し、興味深い単一シストを特定。試料(96ウェルプレート)をスクリーニングして、ターゲットを探しだすには煩雑な作業が必要です。Navigatorツールでは、試料の概要を把握し、関心領域へ簡単にナビゲートするのに役立ちます。

図5:14日齢の嚢胞のOverview像(CLSM)。蛍光標識;GFP。対物レンズ;10x/0.32対物レンズ

 

その後、シストの1つを、共焦点モードで取得した画像をLIGHTNINGをしました。対物レンズ;63x/1.20水対物レンズ(SmartCORRで水自動供給)動画5は、共焦点で取得した画像とLIGHTNINGで処理した画像の比較です。

動画6:14日齢の単一嚢胞。63x/1.20WATER対物レンズを用い、共焦点モード(左)で画像取得、LIGHTNING(右)処理を行った。厚さ57µm、285スタックを取得し、3D再構築した。

 

結論

Micaは生細胞イメージングに高度に適合しており、迅速な短期間の実験から数週間にわたる長期間の実験まで、信頼性の高い結果を得ることができます。統合されたインキュベーションシステムは、温度とpHに関する生理学的な条件を提供し、数週間の生細胞イメージングを可能にします。また、酸素レベルを制御することで、より重要なデータを得ることができます。FluoSync™テクノロジーは、最大4つの蛍光色素の同時イメージングを可能にします。これは、高速の細胞イベントを絶対的な時空間相関でイメージングできることを意味します。さらに、FluoSync™は、同時取得によりインターバルを短縮することが可能なことから、フレームレートを向上させます。THUNDERとLIGHTNINGは、ユーザーが試料からより多くの詳細を抽出するのに役立ち、OneTouchボタンや自動水供給のような自動化されたプロセスは、初心者を含め、最小限のトレーニングですべてのユーザーにご利用いただけます。

 

参考文献

ライカは、お客様のご研究に合った蛍光イメージングソリューションをご提案いたします。ぜひ、お気軽にお問い合わせください!

 

 

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Mica

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