プログラムされた細胞死「アポトーシス」は、生物の胚発生の過程で、不要な細胞を排除するために起こります。成人の場合では、治癒の過程において体内にある損傷を受けた細胞を除去し、癌の予防にも役立っています。そのアポトーシスの初期段階を知るため、マルチウェルプレートを用いたカスパーゼ活性アッセイが利用されています。この記事では、マルチウェルプレートの蛍光アッセイを用いたこの重要なアプリケーションで、データの時間的・空間的な相関を100%実現し、またクロストークを最小限に抑えられるMicaの活用方法を紹介します。
蛍光アッセイとは?
マルチウェルプレートは、高いスループットが求められる実験にとても便利です。384穴、96穴、または24穴のプレートを用い、異なる実験、または異なるサンプルを使った実験を並行して行い、一括で多くのデータを収集することができます[1]。最新のアッセイキットには、目的のタンパク質を標識する蛍光プローブまたは色素が同梱されており、それらを使って各ウェル内にあるサンプルを標識し、蛍光顕微鏡で観察および分析を行います[2,3]。神経科学、癌研究、発生生物学など、高いスループットを求められる分野でしばしば使われます。幸いなことに、これらの蛍光アッセイはキットが市販されており、サンプル調製が簡単なため、実験者の時間と労力を大幅に軽減することができます。
アポトーシスとカスパーゼタンパク質
アポトーシス(プログラムされた細胞死)は、生物の胚の発生過程において、不要な細胞を排除するために起こり、成人の治癒過程において、損傷した細胞を体外に排出し、癌の予防に役立っています[4-6]。カスパーゼはシステインプロテアーゼの大きなファミリーであり、アポトーシスの開始と実行に重要な役割を果たします[5,6]。誘導型カスパーゼはアポトーシスの開始を助け、その一方、実行型カスパーゼは大量のタンパク質分解を行います。カスパーゼ-3とカスパーゼ-7はどちらも実行型カスパーゼであることが知られています[5,6,7]。アポトーシスの間、カスパーゼ-3は細胞構造の破壊を、カスパーゼ-7は細胞の剥離を調整する役割を持っています [7]。
カスパーゼアッセイ
カスパーゼアッセイは、アポトーシスの初期段階の研究を可能にします。ここでは、スタウロスポリンのような細胞毒性薬剤によるカスパーゼ-3およびカパーゼ-7の用量依存的活性化を調べました。ランダム効果を排除するために、同一条件下、すなわち異なる濃度の1つの薬剤または複数の薬剤の組み合わせで、複数のアッセイサンプルを行い調査しました。統計的に有意な結果を得るには、通常、実験を数回繰り返す必要があります。
カスパーゼアッセイの課題
カスパーゼアッセイの典型的なリードアウトは、カスパーゼ活性化カスケードがいつ開始されたかという情報です。しかし、単一細胞の他の形態学的反応や活性化反応に関する疑問は、いまだ解決されていません。このようなアッセイにさらに蛍光染色を加えることで、例えば、以下のような、より多くの情報を得ることができます。アポトーシスにおける細胞骨格の挙動、あるいは、カスパーゼ-3およびカスパーゼ-7切断経路の活性化につながるアポトーソームのシトクロム-c媒介性会合に関するより多くの情報を得ることができます [8] 。アッセイ中のすべての蛍光ラベルのシグナルを、サンプルキャリア全体のデータ取得に割り当てられた時間間隔が達成されるように、十分に迅速に収集することは困難な場合があります。第二に、最大4つの蛍光ラベルからのシグナルを迅速かつ信頼性の高い方法で分離することは困難を伴います。最後に、カスパーゼ活性とデータの相関は、同時に取得されない場合、簡単にはいきません。
このような課題のため、カスパーゼアッセイ実験を行うにあたり、特に情報量を増やすために追加マーカーを組み合わせる際には、しばしば懸念が残ります。コンテキストや形態学的データが欠落したり、時空間的に相関性がない、すなわち位置や時間に関して相関性がない可能性があるのです。また、蛍光ラベルは結果の誤解に繋がる可能性があります。
現在のところ、かなりの数の研究室が、これらのアッセイを含む研究に必要なすべての機器や顕微鏡をすぐに利用できないかもしれません。この問題は、複数の研究グループやユーザーが利用する共有施設では、必要な機器が利用できるまでに長い待ち時間がかかることがあります。
こうした課題は、根本的なブレークスルーや新たな洞察の獲得につながる重要で定量可能な結果を得ることの遅れにつながる可能性があります。
Micaの紹介
世界初のイメージングマイクロハブであるMicaは、研究者が必要とするあらゆるものを、完全に制御された柔軟性の高い環境に統合し、顕微鏡ワークフローを加速させることで、有意義な科学的結果をより早く得ることができます。このマイクロハブを使用することで、次のようなメリットが得られます。
- 誰でもアクセス可能:Micaを使えば、経験の浅いユーザーでも複雑なアッセイ測定をセットアップできます。
- 制約がない:Micaは、時空間相関100%で、4つのラベルを同時に画像化することができます。
- ワークフローを大幅に簡素化:Micaは4つのマーカーの収集とAIを活用したデータ解析を組み合わせ、ワークフローのステップを大幅に削減します。
方法
Micaは、アポトーシスの活性化におけるカスパーゼ-3とカスパーゼ-7の役割に関するマルチウェルプレート蛍光アッセイ(図1)で使用されています。サンプルはU2OS細胞株から調製し、最後にスタウロスポリンでアポトーシスを誘導しています。この実験では、アポトーシスの初期段階に関連する複数の測定値を組み合わせました。
結果
図1に示す結果は、スタウロスポリンによってカスパーゼ-3とカスパーゼ-7の活性化が誘導され、それに先立ってストレス線維の形成とミトコンドリア膜電位の低下が起こることを示しています。
図1:実験ワークフローとカスパーゼアッセイの結果を示す図
初期アポトーシス誘導のモニタリングを可能にする4つの蛍光マーカーの絶対時空間相関が、Micaを用いて達成されました(ビデオ1および図2参照)カスパーゼ-3とカスパーゼ-7の活性化の初期にミトコンドリア膜電位の消失と同時にストレス繊維の形成が観察されました。DNAの凝縮はカスパーゼの活性化に直接続きました。
ビデオ1: U2OS細胞をWideFieldモードで63倍に拡大し、13時間タイムラプス撮影した動画: A) 細胞をSiR-Actin、TMRE(63倍拡大、ミトコンドリア活性)、CellEvent™(カスパーゼ活性)、DAPI(核)で標識した。アポトーシス誘導剤スタウロスポリンを時点0で添加した。
図2:同じデータセット、かつタイムポイントは列ごと、個々のラベルは行ごとに表示
図3は、従来のWideField顕微鏡とMicaによる時空間マルチカラー取得画像の比較を示しています。ミトコンドリアの動態を研究する場合、蛍光ラベルを同時に検出することで、ミトコンドリアの構造や膜電位を可視化する際の時空間的なアーチファクトを排除することができます。従来のWideFiledイメージングを用いた場合、逐次取得による時空間アーチファクトは測定値を偽り、構造と機能の相関を妨げます。Micaは、同時取得を可能にし、時空間相関を保証するFluoSyncを提供します。アーチファクトは発生せず、膜電位はミトコンドリア構造と正しく相関させることができます。
図3:63x/1.2W PL Apo CS2 SmartCORR対物レンズを用い、WideFiledモードでMicaを用いて取得した U2OS細胞の画像 (MitoTracker™ green(シアン)、Tetramethyrhodaminethylester(TMRE、マゼンタ)):A)MitoTracker™ greenとTMREチャンネルを切り出した画像では、シーケンシャル撮影のため2チャンネル間で時空間的なずれが生じている。B)MitoTracker™ greenとTMREチャネルの同時撮影。2つのチャネル間で時空間的なずれは見られない。両チャンネルは共局在したままであり、各MitoTracker™ green構造(ミトコンドリア構造)におけるTMREシグナル(ミトコンドリア膜電位)の定量可能な測定が可能である。スケールバーは5µm。
Mica FluoSync [10]では、従来のWideFiled顕微鏡とは異なり、4ラベル同時イメージング、広域スペクトル検出、ハイブリッドアンミキシング [9])がすべて可能です。(図4参照)。
図4:A) バンドパスフィルターを用いた従来のWideFiled4色蛍光イメージング:色素分離が悪く、ローカライゼーション精度が低い。B)FluoSyncを用いたMicaは、以下のことを可能にする。同時4ラベルイメージング、広域スペクトル検出、ハイブリッドアンミキシングを用いた真の色素分離[9]、4倍速い同時イメージング。
参考文献
1)C. Gilbrich-Wille, Consumables for Laser Microdissection: The right solution for every application, Science Lab (2015) Leica Microsystems.
2)W. Ockenga, An Introduction to Fluorescence, Science Lab (2011) Leica Microsystems.
3)W. Ockenga, Fluorescence in Microscopy, Science Lab (2011) Leica Microsystems.
4)C.P. Austin, Apoptosis, National Human Genome Research Institute (NHGRI), National Institutes of Health (NIH).
5)R. Jan, G.-e-S. Chaudhry, Understanding Apoptosis and Apoptotic Pathways Targeted Cancer Therapeutics, Adv. Pharm. Bull. (2019) vol. 9, iss. 2, pp. 205-218, DOI: 10.15171/apb.2019.024.
6)S. Elmore, Apoptosis: A Review of Programmed Cell Death, Toxicologic Pathology (2007) vol. 35, iss. 4, pp. 495–516, DOI: 10.1080/01926230701320337.
7)J.G. Walsh, S.P. Cullen, C. Sheridan, A.U. Lüthi, C. Gerner, S.J. Martin, Executioner caspase-3 and caspase-7 are functionally distinct proteases, PNAS (2008) vol. 105, no. 35, pp. 12815-12819; DOI: 10.1073/pnas.0707715105.
8)S. Cullen, S. Martin, Caspase activation pathways: some recent progress, Cell Death Differ. (2009) vol. 16, iss. 7, pp. 935–938, DOI: 10.1038/cdd.2009.59.
9)F. Cutrale, S.E. Fraser, A New Method for Convenient and Efficient Multicolor Imaging: Interview, Science Lab (2022) Leica Microsystems.
10)FluoSync – a Fast & Gentle Method for Unmixing Multicolour Images: A streamlined approach for simultaneous multiplex fluorescent imaging using a single exposure, Science Lab (2022) Leica Microsystems.
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