ウイルス感染によって誘導される自然免疫機構の解析をご研究のテーマにされている、千葉大学 真菌医学研究センター 感染免疫分野 感染応答プロジェクト 助教 尾野本浩司様、同 技術職員 青木友那様に、共焦点顕微鏡STELLARISを導入された経緯や使用感について、お話を伺いました。
新しい顕微鏡に欲しかった条件
新しい顕微鏡の検討条件には、どのようなものがありましたか。
尾野本:まずは感度、解像度ですね。僕が重要視していたのは、細胞の中の顆粒をいかにきれいに撮れるかということです。「何ナノメートルまできれいに撮れる」ということはとても気にして、必ず確認していました。
次に、タイムラプスでの撮影ができることは必要な条件でした。さらに、顕微鏡のレーザーというのは、使っていくうちに徐々にレーザーパワーが落ちていったり、出力しなくなってしまったりということがあるため、長時間一定の強さで使えるホワイトレーザーがいい、という考えがありました。それに加えて、ホワイトレーザーなら、どの波長でも見ることができるという点も魅力でした。
以前の機種で、物足りないと感じていたところはありますか。
尾野本:目立たない機能ですが、以前の機種であるSPEには画像自体をローテイト(回転)する機能がなかったので欲しかったです。見せたい細胞を綺麗な角度で撮影したいので、STELLARISのローテイト(回転)機能を導入後はよく活用しています。
STELLARISの使用感
STELLARISを導入される前は、弊社の共焦点顕微鏡 SPEをお使いいただいていました。STELLARISを使ってみて、いかがでしょうか。
尾野本:我々は主に細胞を固定したサンプルで、細胞内の凝集体を観察しています。STELLARISはひとつひとつの凝集体がより鮮明に、非常にきれいに見えますね。それに、撮影開始から撮影完了までが早いです。SPEでは検出器がひとつだったので、一個ずつシングルスキャンして、青、緑、赤…といった感じで順繰りに撮影していました。STELLARISは検出器が4つ載っているため、同時に、一気に撮れるのですね。おかげで作業効率が非常に良くなりました。
また、以前は顕微鏡に合う蛍光試薬や色素をいろいろ試す必要がありましたが、STELLARISはホワイトレーザーを備えているので、一切そういうことを気にせずにいられることで助かっています。
青木:アプリの操作性が高く、操作しやすいのもいいですね。ひとつのディッシュの中を観察するときに、どの細胞を観察対象にするか決めるところから実際に撮影するまでが、かなりスピーディーに処理できる印象があります。アプリの起動から撮影できるようになるまでも、それほど待ちません。起動に時間を要する顕微鏡もあると思うのですが、STELLARISは見たいときにすぐに見ることができるのがいいと思います。
それから、やはり共焦点超解像LIGHTNING機能が載っていることによって、自分でいろいろと細かい調整をしなくてもきれいに撮れるところがいいですね。
撮影時間が短くなることは、メリットが大きいでしょうか。
青木:以前使用していた顕微鏡ではどうしても撮影に時間がかかったり、撮影につきっきりにならないといけなかったりということが難点としてありました。実験室の中に顕微鏡があれば問題ないのですが、実験室の中に顕微鏡を置けるラボは限られていますよね。実際に当研究室の実験室は3階にあって、STELLARISがあるのは地下2階なんです。短時間に、ある程度の量のサンプルを撮影できるというのは、そんな制約がある研究者にもやさしいと思います。
ノイズ成分(SN比)に関してはいかがでしょうか。ザラザラ感が改善しているでしょうか。
青木:そうですね、以前使っていた顕微鏡と比較しても、当研究室にある別の顕微鏡と比べても、ザラザラを感じないです。ありのままの細胞の様子が、そのまま画像化できているように感じます。
尾野本:同感です。SPEからSTELLARIS 5というのは、だいぶ飛躍がある印象です。たとえて言うなら、ガラケーからスマホに変えたような違いを感じます。
Zスタックでの撮影は、以前の機種と比べていかがでしょうか。
尾野本:SPEの場合は、Zスタックで撮影すると、どうしても退色が早いという問題がありました。Zスタックの幅を大きく取ったり、Z軸を細かくしたりすると、最初と最後で明るさが変わってしまい綺麗な画像を撮ることが非常に難しかったのです。ズームで撮影した後などは、元の倍率に戻すと、ズームした部分が四角く色が抜けてしまうというのがあって困りました。本当に、Zスタックで撮るときには「ここの場所の細胞はもう二度と観察できない!」という覚悟をして撮るような感じだったのです。
それがSTELLARISで撮ると、やや退色しているかも知れませんが、「二度と見られない」というようにはならないのが、非常に変わったところですね。
ありがとうございます。退色に関しては、SPEの時代にはフォトマルという検出機しかなかったのですが、今回4つとも検出機がHyDになっている。それも、STELLARISになってはじめて搭載が可能になったHyD Sという検出機になったところが一番貢献しているかなと思います。
Zスタックについて、青木様はいかがですか。
青木:Zスタックが非常にきれいに撮れるので、それを3D画像にしたときに細胞内のあるターゲットのものがどういう局在になっているかということをイメージしやすくなったと思います。学会や論文でも、求められるものが単なる撮影画像から3D画像やタイムラプスなどの動画に変わってきていると思うので、そこにキャッチアップできるのではないかと思っています。
気に入っていただけた機能はありますか。
青木:私は細胞にある遺伝子をトランスフェクションして、それを光らせて見ることが多いのですが、そうすると全細胞の中の限られた細胞だけが光っているような状態になります。それを観察するときは、はじめに、どこにその遺伝子を発現している細胞がいるか、全体の様子がすぐにつかめるということが重要なのです。
そんなとき、STELLARISの、カシャッ、カシャッとスパイラルで撮っていくNavigatorの機能が非常に便利です。低倍率で、おおよその細胞のポピュレーションがざっとわかれば、あとはそこにズームインして細かく撮っていくと、どこの細胞を撮るかをさっと決められます。Navigatorの機能は多くの顕微鏡に搭載されていると思うのですが、STELLARISはNavigatorで撮る写真さえ非常にきれいで、大変役立っています。
さらに、Navigatorで撮った結果、目的の細胞があまりいない場合に、すこし位置を変えて撮ることがあるのですが、その点で撮ったNavigatorの画像と前に撮ったNavigatorの画像をセットにできる機能も気に入っています。
尾野本:多点でタイムラプスを撮るときに、撮影速度が速いおかげで、何秒後かには一枚目に戻って撮れる機能はいいと思いますね。以前の顕微鏡は1枚の撮影に時間がかかるため、短い間隔で撮影できないようでした。僕らは数秒単位で変化するものを追ってはいないのですが、本当に見たいところを短い間隔で細かくきれいな動画にできるのはうれしいです。
こんな実験にもSTELLARIS
ほかの研究者の方とSTELLARISについて話すことはありますか。
尾野本:酵母を使った実験を行っている研究者にSTELLARISの印象を聞いたところ、感度は非常に良く、観察対象の酵母を高精細でタイムラプス撮影することができた、とのことでした。酵母は非常に小さいため、倍率を上げて観察できる点が役に立ったこと、また、GFPとmCherryを共発現させた生細胞を観察する場面で、LIGHTNINGの機能がシグナルの弱さを補ってくれたとのことです。
ご自身の実験とは異なる使い方で、こんな場面ならSTELLARISは役立つだろう、というおすすめはありますか。
青木:今のところ組織切片のサンプルを撮ったことがないので、どのように見えるか気になっています。たとえば、組織と、ある特定の細胞が一緒に存在するようなサンプルや、一細胞ごとに挙動が変わるような組織において、組織を横断・縦断で見たときにその挙動がどのように変化しているか観察したいサンプルなどです。それを今、私が細胞で見ているように画像化できるのであれば、とてもおすすめできると思います。
組織切片では自家蛍光と分離できないことがあると思うのですが、STELLARISは蛍光寿命による観察が可能になっています。
青木:確かに組織切片では自家蛍光との分離に手がかかりますね。かなり抑えて観察すると、逆にシグナルも下がって画像にすると見えにくいというのはよくある問題です。そこがフォローできるのなら、とてもいいと思います。
同じやり方で、培養細胞で観察できるケースもあります。たとえば、pHが変わると蛍光寿命が変わるので、同じ緑でも違う現象が起こっていることを、蛍光寿命で観察できることがあります。何か使えそうなアイデアがあれば、ぜひお声がけください。
- 千葉大学 真菌医学研究センター
- 尾野本 浩司 様
千葉大学 真菌医学研究センター
感染免疫分野 感染応答プロジェクト
助教
- 千葉大学 真菌医学研究センター
- 青木 友那 様
千葉大学 真菌医学研究センター
感染免疫分野 感染応答プロジェクト
技術職員