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ライフサイエンス 2015.10.13

マルチフォトン顕微鏡観察事例/蛍光イメージングを使って発生・再生の時間的空間的制御機構を解き明かす

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世界の注目を集めたライブイメージ

筋肉痛は誰でも経験したことがある痛みですが、実はこれは傷害を受けた骨格筋の修復、再生のきざしなのです。そこにはどのようなメカニズムが隠されているのでしょう。体内で起こる現象を蛍光イメージングを用いて可視化し、骨格筋を中心に、発生・再生のプロセスの解明をテーマに研究されている京都大学 再生医科学研究所の瀬原 淳子教授をお訪ねしました。

 

ゼブラフィッシュを用いて、発生や再生の新たな仕組みを知る

瀬原先生は国立神経センターの室長(部長は鍋島陽一先生)でいらした頃、骨格筋発生・分化の研究をする中で、骨格筋形成にはヘビの毒に似たメルトリンというたんぱく質が関係していることを発見しました。その後、このはさみ分子はファミリーを形成していてADAMファミリーと総称され、それらが発生のみならず、再生、肥満やがんなど、色々なところで働いていることがわかってきました。瀬原先生は、一過的に発現するこれらのプロテアーゼはタンパク質を切断することによって、発生や再生を時間的・空間的に、そして不可逆的に制御しているはず、生命現象をスナップショットで捉えるだけではそれらの役割を解き明かすことは出来ないのではないか、と考えました。 そこで、からだの透明なゼブラフィッシュを研究対象として取り入れ、発生・再生を3次元的に、そして時間を追って調べるために、ライカの共焦点顕微鏡 TCS SP5を導入されました。骨格筋にはたくさんの血管が張り巡らされますが、そのずっと前、大動脈や主静脈が形成される様子を見て、先生と当時ポスドクだった飯田敦夫先生(現助教)は、驚きました。なんとそこには、赤芽球が最初血管の外にいて、それらがぞろぞろと血管の中にはいっていき、あるタイミングでいっせいに循環し始める様子が撮影されていたのです(Movie 1)。そして、ADAM8というADAMプロテアーゼの一員がそのプロセスに関与していることを見つけました。循環前の赤芽球で発現するADAM8は、血管との接着因子を切断することによって血液循環の開始に寄与している、という示唆的なデータとともに、このライブイメージは世界の注目を集めました。

Movie 1

一方、ポスドクの佐藤(栗崎)智美さん(現埼玉医大)が、ADAMプロテアーゼの基質となるNeuregulinという膜型増殖因子の働きを詳しく調べようと、ゼブラフィッシュ脳での神経分化の経過を 3Dで観察したとき、瀬原先生は再び驚きました。それは、新しい神経が、脳の外から中(脳室側)へと分化していく様子を捉えることができたからでした(下画像)。「神経は新しい神経ほど外側に形成される、というのが定説でしたが、層構造をなす脳のそれぞれの層の中で神経細胞がどのように積み重なるのか、きちんと見た人はいませんでした。私達がゼブラフィッシュで観察したことがほ乳類でも行われているのかどうか、今後検証すべき問題です。特に神経の機能ユニットの形成機構を知る上で大事かも知れませんから。」

神経の分化の様子

眠っていた幹細胞が目覚める、幹細胞の眠りの仕組みに迫る

瀬原先生は発生だけでなく、再生、 とりわけ骨格筋再生にも興味をお持ちです。私達の骨格筋は、修復・再生する力があります。「その再生のプロセスと、発達する時に筋肉ができるプロセスの相違に注目しています」と瀬原先生。「筋再生を担う細胞が骨格筋幹細胞です。発生や成長の時の幹細胞が盛んに増殖するのに対し、成体の筋幹細胞は普段は骨格 筋の隣で静かに眠っています。激しい運動等で骨格筋が傷害されると、筋肉痛が起こりますが、それは傷害された筋組織に炎症細胞が侵入し炎症反応が起こるからなのです。そのような炎症反応の刺激を契機に、静かに眠っていた幹細胞が目覚め、増殖を始め新たな筋肉を作る。これが筋再生です。」 2014 年、瀬原研究室は、幹細胞がどのような仕組みで眠るのか、そのメカニズムの一端をあきらかにしました。佐藤貴彦特定助教(現府立医大)は、GFPで可視化 された筋前駆細胞が筋幹細胞になるとTdTomatoという赤色蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作製し(詳細略)、GFP陽性 TdTomato陽性の細胞がいつ出現するかを調べました。すると、子供から大人に成長する過程で、成長期に増殖の盛んなGFP陽性筋前駆細胞の中から TdTomato陽性の筋幹細胞が出現すること、そして、それらの筋幹細胞の中で発現が活性化するmicroRNA195・microRNA497が、細 胞周期を負に制御することにより、幹細胞に静止期をもたらすことを示しました。筋幹細胞は増殖し、骨格筋を作りますが、細胞分裂によって生じた一部の細胞 は再び静止期幹細胞となります。これらのmicroRNAはその際の静止期の誘導にも寄与していることがわかりました。

 

筋幹細胞とそれを取り巻く細胞たちを観る

瀬原研究室ではゼブラフィッシュで血管・血球相互作用や、神経分化などを調べてきましたが、血管系や神経系発達の理解は、実は骨格筋形成・再生・維持の仕組 みを知る上での礎になるものです。骨格筋に 酸素や栄養を送り込むのは血管であり、運動によって太くなる骨格筋と神経は、深い関係があります。そして、それら異種細胞との相互作用が幹細胞の分化や維 持の制御に関与していることも次々に明らかになってきています。 瀬原先生はその異種細胞と筋の相互作用の現場を、最近あらためて目の当たり にしました。それは、博士研究を行っていた西邨大吾氏(現・博士)がマウスを用いて骨格筋再生における ADAM8の役割について研究していたときのことです。 ゼブラフィッシュと違って、 ADAM8欠損マウスは赤芽球の循環には影響がなく、健康に成長します。が、このマウスは筋再生に先行する炎症反応が不完全で、再生筋組織の中に壊死した 骨格筋がたくさん残ることが分かりました。西邨氏がその炎症筋組織を解析した結果、野生型マウスでは大量の好中球が傷害筋の中に侵入しているのに対し、 ADAM8欠損マウスでは、殆どの好中球が傷害筋の外に蓄積していることがわかりました。瀬原先生は、何よりそれまで記載のなかった、大量の炎症細胞の傷 害筋への侵入に驚愕すると同時に、初心に戻ろう、と決意しました。「やはり筋再生をライブで見たい。生きた個体の中でゼブラフィッシュ・マウスの骨格筋が 再生する様子を見なくては。」と。 再生医学・生物学には様々な研究があり、世界的にもしのぎを削った研究が展開されています。その中にあっ て、優れた筋発生研究の蓄積のおかげで、骨格筋再生は臓器・組織再生機構解明への大きなポテンシャルを有しています。筋発生研究の知識を最大限引き出しつ つ、幹細胞が細胞分化と静止を繰り返すその仕組みを明らかにすること、そしてそのためには幹細胞とそれを取り巻く細胞集団(血管、血球、神経、繊維芽細胞 など多様です)の挙動や細胞間のシグナルのやり取りを生きた個体で捉えることが大事だと、瀬原先生は力説します。 現在、京都大学 Cilky (Create Images in Leica Kyoto University) には共焦点顕微鏡 ライカ TCS SP8が設置されています。また、瀬原先生が所属する再生医科学研究所と隣接するウイルス研究所では、ふたつの研究所の共通機器として、マルチフォトン顕微鏡 ライカ TCS SP8 MPも導入されました。これらを用いれば、さらにシャープで深部までのイメージングができ(Movie 2)、そこから発生や再生に関する新たなメカニズムの解明につながることが期待されます。

Movie 2

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マルチフォトン顕微鏡
ライカ TCS SP8 MP

ライカ TCS SP8 MPは組織深部まで鮮明な画像が得られる、マルチフォトン顕微鏡。in vivo イメージングに必須の高速レゾナントスキャナを搭載し、呼吸や拍動の画像への影響を最小限にとどめることが可能です。さらに、長波長域レーザーを発振するOPOにも対応しており、1300nmの長波長イメージングにも対応しています。

ライカ TCS SP8 MP
京都大学 再生医科学研究所 再生増殖制御学分野 教授
瀬原 淳子先生

76年 京都大学薬学部卒。78年 京都大学大学院薬学研究科修士課程修了、82年 京都大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。81~83年 スイス チューリッヒ大学分子生物学研究所留学。84~87年癌研究会癌研究所生化学部嘱託研究員・日本学術振興会がん特別研究員。88~98年国立精神神経センター 神経研究所遺伝子工学研究部室長。98~2000年東京都臨床医学総合研究所 細胞生物学研究部門室長。2000年より現職。

京都大学 瀬原 淳子先生

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