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ライフサイエンス 2015.10.05

共焦点顕微鏡観察事例/細胞内の物質輸送メカニズムを解明する

細胞内にも交通網が整備されている!

生物の体内には多数の細胞があり、各細胞はそれぞれの機能を有すると同時に、お互いに物質のやり取りを頻繁に行っています。そのやり取りには、細胞全体を繋ぐ壮大な交通網が整備されているのです。この細胞内で物質がどのようなルートを通って、どのように輸送されるか、そのメカニズムを解明することにより、毒素からの感染も防御することが可能になります。細胞内物質輸送システムの解明をテーマに研究されている、東京大学院薬学系研究科の田口友彦先生に、お話を伺いました。

 

コレラ毒素の侵入経路を、世界で初めて解明

コレラ毒素などの毒性タンパク質は、細胞内の輸送経路を乗っ取って細胞内部まで入り込み最終的にサイトゾル(細胞質基質)で、毒性を発揮することが知られていましたが、どういった経路を通ってサイトゾルまで到達するのかは解明されていませんでした。「毒素が細胞膜を突き抜けて細胞内に入ると信じられていましたが、実際にはある経路を通り、最終的に小胞体表面の穴を通って細胞内に入り込み毒性を発揮することがわかりました。細胞膜から入った時の状態である、毒素が膜に包まれている状態(小胞体、エンドソーム)が、ゴルジ体の内側(リサイクリングエンドソーム)経由でゴルジ体自体に入る経路とその制御分子を発見しました。細胞内に侵入した毒性タンパク質は、その時点ではまだ膜に入った状態です。まずエンドソームと呼ばれる小胞へ行き、その後ゴルジ体を経由して、小胞体に入ります。最後は小胞体の穴からサイトゾルへと侵入します。」 この際、エベクチン2というたんぱく質をノックダウンしてしまうと、リサイクリングエンドソームまでは到達しますが、ゴルジ体には到達できないこともわかりました。

 

生命の神秘「細胞内トラフィック」を可視化する共焦点顕微鏡

「細胞内の物の移動は、どういうメカニズムで起こるのか、それが研究のメインテーマです。例えば、Aという細胞からBという細胞へ輸送が起こる場合、Aから突起物のようなくびれが出て、それが離れてBへ飛んでいく。スープにラー油を垂らすと、いくつかの玉ができますが、それをはしでつなぐとつながるようなイメージで、膜と膜が融合します。それを使ってものの移動を行っていることが他の研究者によって明らかにされたのですが、どうしてその分子がAからBという方向性を持った輸送を決めているのかが、大きな謎です。」田口先生は、この謎の解明に、ライカ 共焦点顕微鏡を使われています。「顕微鏡はこの10年で目覚ましい進化をとげて、細胞内の動きをライブで見ることが可能になったのが大きいです。私たちの研究は、顕微鏡の進歩と相まって進んでいると言って過言ではないでしょう。ライカ TCS SP8にハイブリッドディテクターHyDを搭載して使用していますが、圧倒的に感度がよく、見えなかったものが見えるようになりました。微弱なシグナルを捉えるので、光毒性が軽減できるのもメリットです。私の研究は、顕微鏡に依存しています」

細胞内の物の移動
コレラ毒素が、15分後にエンドソームへ、75分後にゴルジ体へ輸送されるのが見える。

細胞内輸送の解明と、医学への応用

「コレラは非常に感染力が強く、今でも多くの人が感染により命を失っています。コレラ毒素の輸送経路を解明することは、毒性発現を抑制するための有効なアプローチです。コレラに限らず、細胞がどういう経路を使っているかを知ることで、病気や感染のメカニズムを知ることができます。また、がん細胞でどのような輸送経路が使われているのかを知れば、がん細胞の浸潤に必要な酵素の放出を防ぐことで、がんを抑制できる可能性があります。今後は、細胞一個一個のみならず、組織における細胞群の輸送経路が組織の機能にどのように貢献しているのかについても研究していきたいと考えています。」

 

共焦点レーザー顕微鏡 & ハイブリッドディテクター
ライカ TCS SP8 & ライカ HyD

Leica TCS SP8に超高感度ハイブリッド検出器Leica HyDを搭載したその時から、ハイクオリティ画像を比類ないコントラストで撮影することが可能です。Leica HyDは、超高感度イメージングの新たな基準を作り出しました。

ライカ TCS SP8 & ライカ HyD
東京大学大学院 薬学系研究科 准教授
田口 友彦先生

1992年東京大学理学部生物化学科卒業。1997年東京大学大学院理学系研究科修了。理学博士。 理化学研究所基礎科学特別研究員、日本学術振興会海外特別研究員(エール大学医学部細胞生物学部門)、大阪大学大学院医学系研究科特任准教授などを経て、現職。 ※ 2018年~ 東北大学大学院生命科学研究科 教授

東京大学大学院 田口 友彦先生

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