光学顕微鏡を介した感染予防のためのガイド
顕微鏡は一般的に複数のユーザーによって共有されることが多く、微生物が混入する危険性があります。 また、微生物そのものが検体になるケースもあり、顕微鏡は都度消毒することが推奨されます。 感染を防ぐため、顕微鏡の操作、洗浄、除染時は使い捨て手袋の使用もお勧めします。使い捨て手袋は、必要に応じてアルコールなどで除染するか、汚染のリスクを最小限に抑えるために頻繁に交換する必要があります。
著者 Christoph Greb , Dr. ライカマイクロシステムズ
感染因子
顕微鏡などの実験器具の表面は、ユーザーまたは検体自体に起因する微生物で汚染される可能性があります。 顕微鏡の接眼レンズ、フォーカス用ノブ、顕微鏡本体などユーザーが接触する場所、またコンピューターのキーボードとマウスも定期的に除染する必要があります。
感染性病原体は一般的に次に分類され、消毒剤に対する耐性が異なります(6.脂質性ウイルスが消毒剤に対する抵抗性が最も弱く、1.最近芽胞が最も耐性が強い)。
細菌芽胞は発育に不適当な環境におかれると芽胞を形成し、芽胞を形成することで、熱をはじめ、乾燥、化学薬品等に対して耐性のある菌の総称です。 マイコバクテリアは他のバクテリアとは異なり、細胞壁にミコール酸と呼ばれる脂質を多量に含有し、非常に耐性があります。 非脂質性ウイルス(非エンベロープウイルス)は、エンベロープウイルス(コロナウイルスなど)と異なり、周囲に脂質二重膜を持ちません。 脂質二重膜は、アルコールや界面活性剤で膜の主成分の脂質を溶解でき、ウイルスの感染力を失わせることができます。栄養型細菌は、細菌胞子の特別な細胞壁を持たず、水を含むため、殺菌剤の影響を受けやすくなっています。
その他、プリオンと呼ばれるタンパク質から成る感染性因子もあります。
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分類 |
例 |
1 |
細菌芽胞 |
枯草菌 |
2 |
マイコバクテリア |
結核菌 |
3 |
非脂質性ウイルス(非エンベロープウイルス) |
インフルエンザウイルス |
4 |
真菌類 |
白癬菌 |
5 |
細菌(栄養型) |
緑膿菌 |
6 |
脂質性ウイルス(エンベロープウイルス) |
コロナウィルス |
消毒方法
微生物に対する最も効率的な消毒方法は熱です。 たとえば、煮沸、熱水や蒸気を用いる方法ですが、 顕微鏡には適用できないため、化学的消毒法が用いられます。実験室の器具と表面は、アルコール、アルデヒド、塩素化合物、フェノール、および過酸化物を含む液体で一般的に洗浄されます。 単一成分の消毒効率は、消毒剤の濃度、暴露時間、温度、pHなどに依存します。微生物によって、特定の消毒剤に対する耐性は異なり、 Robert Koch Instituteでは、化学的消毒剤を4つのサブグループに細分しています。
A:マイコバクテリアを含む栄養型細菌、真菌とその胞子を殺滅させる。
B:エンベロープウイルスと非エンベロープウイルスを非アクティブ化する。
C:炭疽菌の胞子を殺滅させる。
D:破傷風を引き起こす細菌を殺滅させる
アルコール系(エタノール、イソプロピルアルコール)は、消毒剤のグループAに属し、栄養型細菌に対して効果的ですが、顕微鏡部品で使われるゴムやプラスチックなどの材料がアルコールで腐食する可能性があります。
アルデヒド系はグループAおよびBに属し、強力な消毒剤です。一方でホルムアルデヒドなどは、取り扱い者の薬液接触あるいは蒸気吸入による毒性の問題があり、ホルムアルデヒド、またはその他のアルデヒド、およびそれらに基づくクリーナーは、絶対に使用しないでください。
ホルムアルデヒドを万一使用する必要がある場合は、顕微鏡の光学系は非常に敏感ですので、顕微鏡システムを完全にカバーする必要があります。部屋全体を消毒する場合は、これらの部品をカバーして、手動で清掃することを強くお勧めします。
次亜塩素酸系はグループAとBに割り当てられ、栄養型細菌とウイルスを殺滅します。次亜塩素酸ナトリウムは、消毒に最も一般的に使用される塩素化合物です。家庭用漂白剤としても知られています。効果的な消毒には、pH 6〜8が最適であり、0.5〜1%の次亜塩素酸ナトリウムが必要です。
過酸化水素は強力な消毒剤で、グループAおよびBに属します。過酸化水素は、濃度3%以上が有効ですが、高濃度は有害であり、金属腐食や、アルマイト加工部品の脱色など影響を与える可能性があります。
- 注意: 安全第一です
ライカの顕微鏡システムの表面は、最大10%の過酸化水素溶液、アルコールを用いたテストが実施されています。これらの消毒液を用いてクリーニング、除染する場合は、布に湿らせ、ふき取りする方法をお勧めします。綿棒、レンズクリーナー、ラテックス手袋などは、1回使用したら廃棄してください。
定期的なクリーニング
アルコールをやわらかい布に湿らせて定期的にクリーニングすることをお勧めします。
- コメント「欧州疾病予防管理センター」から引用された参考文献では、0.06%次亜塩素酸ナトリウムと比較して、硬質表面に70%エタノール1分間接触した場合、2つのコロナウイルス(マウス肝炎ウイルスと伝染性胃腸炎ウイルス)に対する消毒効果が報告されています。
特別なクリーニング
A) 次亜塩素酸ナトリウムまたは他の塩素系化合物による消毒
塩素系消毒剤はウイルスに対して活性であり、HIVおよび肝炎ウイルスに適した消毒剤です。効果的な消毒には、pH 6〜8が最適であり、0.5〜1%の次亜塩素酸ナトリウムが必要です。次亜塩素酸塩溶液は、少なくとも10分間、表面と接触している必要があります。蒸留水ですすぎ、装置を乾燥させます。プリオンの効果的な除染に推奨される化学消毒剤は、1:5〜1:10の希釈率です。
次亜塩素酸ナトリウム(5.25%~6.15%)を、消毒する表面に少なくとも15分間接触させておく必要があります。その後蒸留水ですすぎ、装置を乾燥させます。
- 注意: ライカマイクロシステムは、次亜塩素酸ナトリウムおよびその他の塩素系化合物と顕微鏡の適合性については、保証をいたしません
B) 過酸化水素による消毒
3%の濃度で栄養細菌、ウイルス、真菌を殺滅できます。表面との接触時間は10分以上必要です。その後、蒸留水ですすぎ、装置を乾燥させます。
一部の顕微鏡システムには、空冷用の開口部が存在しますが、決して覆わないでください。また冷却ファン作動中に汚染された空気が装置に流入する可能性がありますので、過酸化水素の気化による部屋の除染を実施する場合は、システムのプラグを抜き、電源から完全に切り離してください。
その他予防対策
顕微鏡装置自体を洗浄する代わりに、汚染される可能性のある個所をラップフィルムなどで覆う方法もあります。使用後は、ラップフィルムは廃棄し、次の使用時までに新しいラップフィルムに交換してください。感染を防ぐために手袋の使用も有効です。使い捨て手袋は、必要に応じてアルコールで除染するか、廃棄してください。
顕微鏡の内部光学部品およびフィルターキューブは、Leica Microsystems CMS GmbHから許可されたサービス技術者のみがクリーニング可能です。
研磨剤やクリーナーは絶対に使用しないでください。研磨剤は表面に傷を付ける可能性があります。
出典
- Centers for Disease Control and Prevention (U.S. Department of Health & Human Services)
- Leica Science Lab: How to Clean Microscope Optics
- European Center for Disease Prevention and Control
免責事項
当記事は、一般的な除染方法と推奨事項を要約したもので、コンテンツや情報において、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めています。しかし、誤情報が入り込んだり、情報が古くなったりすることもあります。必ずしも正確性を保証するものではありません。ライカマイクロシステムズ社は、ユーザーマニュアルに記載されている製造元の推奨範囲外のライカ顕微鏡の消毒に起因するいかなる損害についても責任を負いません。