偏光顕微鏡は、地球科学やさまざまな業界での品質管理において、幅広い用途に使用されています。
- 地球科学:地質学、岩石学、鉱物学、結晶構造の特性評価、アスベスト分析、石炭分析(ビトリナイト反射率)
- 品質管理:ガラス、プラスチックやポリマー、テキスタイルや繊維、ディスプレイ、液晶の検査 形状、構造、色、複屈折などの光学特性を調べることにより、サンプルの構造、光学特性、組成に関する情報を取得できます。
アスベスト
石綿(アスベスト)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で「いしわた」「せきめん」と呼ばれています。繊維状のため引っ張る力に強く、耐熱性、絶縁性、耐薬品性、耐腐食性、耐摩耗性など優れた性質を持っています。そのため古くから、保温材や石綿板等の建材、自動車の摩擦材等に使用されてきました。以前はビル等の工事において、保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが、昭和50年に原則禁止されました。その後も、スレート材、防音材、断熱材、保温材等で使用されていましたが、現在では原則として製造等が禁止されています。
アスベストの繊維は極めて細いため、空気中に浮遊しやすく、吸入されやすい特徴があります。飛散したアスベスト繊維を大量に吸入すると、繊維が肺の中に残り、肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫、肺がんの原因になるおそれがあると言われています。
オープンニコル/クロスニコルで観察した繊維状アクチノライト(緑閃石)
左:オープンニコル画像。右:クロスニコル画像。アクチノライト繊維は複屈折により、ガラス繊維と明確に区別される顕著な色を示します。
未知の鉱物繊維
石綿などに代表される鉱物繊維は、明視野照明では簡単に区別できません。
クリソタイル(ポラライザと垂直)の典型的な青色分散色
繊維に枝分かれがあるかどうか確認するためには、古典的な複屈折色に加えて、分散染色法も使用されます。アスベスト繊維は、明確な分散色を示します。クリソタイルは最も一般的なタイプのアスベストで、典型的な青色の分散色を示します。
クリソタイル(ポラライザと平行)の典型的なマゼンタブルー分散色
鉱石
鉱石は、鉱物を含む自然の岩石です。鉱石は通常、採掘によって収集され、その後さらに処理されて、目的の鉱物が抽出されます。金属鉱石は多くの場合、酸化物、硫化物、またはケイ酸塩です。鉱石の結晶構造と組成は、偏光顕微鏡で特徴付けることができます。
メリライト結晶を含む高炉スラグ
干渉色が茶色(エッジ)から青(コア)に変わることは、結晶成長中に化学組成が変化すること(マグネシウム含有量の減少)を示しています。
繊維
偏光顕微鏡法は、人毛や天然繊維(羊毛、綿、絹など)および合成繊維(ポリアミドナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)に関する有用な情報を提供します。
オープンニコル/クロスニコルで観察したナイロン繊維
左:オープンニコル画像。右:クロスニコル画像。ナイロン繊維は、典型的な高次複屈折色を示します。
オープンニコル/クロスニコルで観察したPerlon®ポリアミド繊維
左:オープンニコル画像。右:クロスニコル画像。Perlon®繊維。
ウール繊維
左:オープンニコル画像。右:クロスニコル画像。
地質学
岩石や鉱物の結晶構造と組成は、偏光で特徴付けることができます。偏光顕微鏡による岩石の検査では、通常、厚さが約25 µmの薄い切片を作成する必要があります。
クロスニコルで観察したコンクリート
コンクリートサンプルの薄片。微細なマトリックスに、典型的な低次の複屈折色(灰色は1次を示す)のわずかに丸い石英粒子が見られ、波状の消光を示す大きな石英粒子も見られます。穴は、黒い丸として認識されています。
オープンニコル/クロスニコルで観察した玄武岩
左:オープンニコル画像。火山岩は急冷されてできたため、細粒な基質(石基)の中に、比較的早い時期にマグマから結晶化した一部の鉱物結晶(班晶)が浮いているような斑状構造が特徴的。茶色の縞は、変質や酸化の影響を受けたもの。
右:クロスニコル画像。大きな結晶は、より高い複屈折色(輝石とかんらん石)を示す。斜長石は、その形状と低複屈折により区別できる。
オープンニコルで観察したマイクロクリン(微斜長石)
典型的な格子を示す。
オープンニコル/クロスニコルで観察したエクロジャイト
左:オープンニコル画像。輝石とガーネットの付着によって形成されたエクロジャイトのシンプレクティック構造。鉱物が形成された後で、温度・圧力などの物理的条件により生じる。
右:クロスニコル画像。
石炭
石炭の場合は、特殊な油浸対物レンズを使用して、異なる石炭成分(マセラル)を区別します。反射率を測定するためには、石炭サンプルを高度に研磨することが必要です。石炭の成分を検査することにより、石炭鉱床の歴史、石炭化度、石炭のエネルギー含有量などを調査できます。微細組織成分群(マセラル・グループ)の区別は、基本的にその形状、反射強度(明るさ)、および蛍光特性に従って行われます。
ビトリナイトグループのさまざまなマセラル
ビトリナイトグループのさまざまなマセラル。
※ビトリナイトは石炭の一種であり、熱分解する際に相対的に炭素含有量が増加し、表面反射率が上昇する。表面反射率の値と温度の値は実験的に求められており、表面反射率から温度の値を推定することができる。この性質は、工業的な石炭品質検査手法としても利用されている。
イナーチナイトグループの高反射マセラル
イナーチナイトグループの反射率の高いマセラル。
コノスコピー
コノスコピーは、円錐に収束する光で透明なサンプルを観察するための光学技術で、ベルトランレンズを用いた偏光顕微鏡が使用されます。試料の形は測定できず、試料を通過した光によってできる干渉渦を観測します。コノスコピーは、異方性材料の光学特性、たとえば光軸角の測定に利用されています。
直線偏光/円偏光で観察した方解石
左:直線偏光による方解石のコノスコープ画像。方解石の断面は光軸に垂直。
右:円偏光による方解石のコノスコープ画像。光軸の位置は、円偏光で明確に決定できる。
直線偏光/円偏光で観察した白雲母
左:直線偏光による白雲母のコノスコープ画像。対角位置にある鋭い二等分線に垂直な断面。二軸(2光軸)画像。
右:円偏光による白雲母のコノスコープ画像。光軸の位置は、円偏光で明確に決定できる。
プラスチック
プラスチックやポリマーの製造時には、残留応力(ひずみ)や不均一性が発生することがありますが、多くの場合、外観上は容易に判断できないため、不良品につながる問題となる可能性があります。プラスチックに、応力が作用した領域や不均一性が発生した場合は、偏光顕微鏡で観察すると複数の色のバンドとして可視化されます。
オープンニコル/クロスニコルで観察したポリプロピレンパイプ
左:オープンニコル画像。右:クロスニコル画像。製造プロセス中に発生した可能性のある不均一性が明らかになる。
オープンニコル/クロスニコルで観察したポリエチレンフィルム
左:オープンニコル画像。右:クロスニコル画像。不均一性をより明確に示している。
オープンニコル/クロスニコルで観察したポリエチレンフィルム
左:オープンニコル画像。典型的な球晶。マルタ十字構造の濃い球晶がはっきりと見える。
右:クロスニコルとラムダプレートによる画像。球晶のサイズと分布は、フィルムの特性に決定的な影響を及ぼす。
有機材料
有機材料の結晶構造と組成は、偏光顕微鏡で特徴付けることができます。
高次干渉色のジメチルトリプタミン結晶
高次の干渉色とさまざまな成長構造を持つジメチルトリプタミン(DMT)結晶。
クロスニコルで観察したアスパラギン結晶
結晶の成長速度の違いにより異なる構造を示している。
クロスニコルで観察した馬尿酸の球晶
マルタ十字を示す馬尿酸の球晶。球晶構造は、結晶成長に伴い、中心の結晶核から放射状に形成される。
円偏光で観察した、放射状に成長した糖結晶
円偏光による画像。放射状に成長した糖結晶。
- 鉱物・岩石、ガラス、プラスチック、ポリマー、医薬品、繊維などの物質特性の観察に
- Leica の偏光顕微鏡
金属顕微鏡に偏光レンズや偏光板などを組み合わせた顕微鏡。物質の偏光や複屈折といった特性を、明暗や色の違いとして捉えて観察することが出来るようになります。偏光顕微鏡は観察方法が難しいと思われがちですが、Leica の偏光顕微鏡なら、シンプルなステップで正確な結果が得られます。ワークショップも開催していますので、お気軽にお問い合わせください。