植物の傷修復メカニズム―「接ぎ木」の研究から解った植物ホルモンの驚きの力

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植物の傷修復メカニズム―「接ぎ木」の研究から解った植物ホルモンの驚きの力

有益な農業技術、接ぎ木

私たち人間を含む動物がケガをした時には、神経が痛みなどを伝達してすぐに損傷をした場所を特定します。そして、血小板や免疫物質、細胞の再生に関わる物質が損傷部分に集まって傷口を修復してくれます。一方、植物の場合はどうでしょう。植物は神経や血管がありません。それにもかかわらず、植物の細胞は修復されていきます。

植物が自らの損傷を修復できることは古くから知られていましたが、なぜ、植物は損傷個所を感知できるのか、なぜ、損傷を修復できるのかは、長年解明されていませんでした。しかし、古くから人類に大きな恩恵をもたらしている「接ぎ木」の研究から、植物ホルモンが細胞修復に大きく関わっていることが解明されてきています。植物が傷ついたとき、ホルモンがどのように働くのか、今回はそのメカニズムについて、わかりやすくご紹介します。

接ぎ木とは

接ぎ木は古い歴史のある農業技術です。日本では平安時代の和歌や、戦国時代の書物、俳句などにたびたび登場します。桜や、松、柿など種類も豊富で、古の人たちが経験則により、植物の細胞を修復するメカニズムを認識していたとことがわかります。

ここで、接ぎ木について少し解説します。接ぎ木とは「台木(だいぎ)」という土台となる植物に、穂木と呼ばれるほかの植物を接着する技術です。同種の植物の場合もありますが、多くの場合は別品種の植物です。傷をつけた断面同士が接着され、ひとつの個体として生育します。水分や栄養分などは接ぎ木でも供給されます。

接ぎ木をする目的はいくつかあります。1つ目は、果樹でよく利用される品種の増殖です。安定しない新品種の場合、生育の安定している台木に接ぎ木して収穫を増加させたり、品質を向上させたりします。2つ目は病気や害虫に対するものです。病気や害虫に強い品種を台木として接ぎ木をおこなえば、リスクが低減され、より多くの収穫を期待できます。3つ目は樹木の高さを低くして、収穫をしやすくすることです。作業の効率化を図り、生産性の向上につながります。

このように、接ぎ木は人類にとって有益な農業技術です。今後も植物の細胞修復とホルモンの研究が進んでいけば、より画期的な接ぎ木技術も開発されると期待されています。

接ぎ木の研究が教えてくれる植物の細胞修復

接ぎ木の一番の特徴は、その植物が切断されても、自らその傷を特定して修復することです。接ぎ木の場合だけではなく、外敵から攻撃を受けて傷ができた場合にも、植物は自己修復していきます。長い間その機序は解明されていませんでしたが、光学顕微鏡などの実験機器の進歩によって、そのシステムが解明されつつあります。

植物が細胞修復をおこなうときに、大きな疑問となっていたのが、傷ついた場所を植物がどのように検知するかということです。植物には神経も血管も脳もありません。そこで、重要な働きをしているのが、植物ホルモンだったのです。帝京大学理工学部の朝比奈先生のシロイヌナズナの研究によると、シロイヌナズナは茎の上部から下部へオーキシンというホルモンが流れています。そのオーキシンは植物が傷つけられたときや、接ぎ木のように切断されたときに流れが遮られてしまいます。このホルモンの流れが遮られることによって、植物は自身のどの部位が傷つけられたかわかるのです。

オーキシンが遮られると、それと同時にエチレンなどのホルモンも損傷部分に存在するようになり、細胞レベルでの修復が活発化していきます。修復するには土台となる細胞、水分や栄養分を運搬するための細胞など、さまざまな組織を再生していかなければなりません。それらの細胞がどのように発生、分化していくのかは未だに不明な点が多いのです。

植物ホルモンによる転写因子の発現

植物の修復機序については、解明されていない部分が多いと述べましたが、まったく解明されていないわけではありません。傷の上下ではオーキシンに濃度差が生じ、この濃度差によって遺伝子を制御する異なった転写因子が発現することがわかっています。この濃度差による異なった転写因子は細胞の再生に非常に重要な役割を果たしていて、傷の上下別々に細胞分裂が起こり、最終的に接着すると考えられます。

転写因子とはDNAと結合することができるタンパク質です。転写因子は遺伝情報の転写を制御したり、促進したりする特徴を持っています。つまり、細胞分裂に関わる重要な因子なのです。これらの転写因子はさまざまな種類があると考えられていています。植物が傷つけられた傷口の上部ではオーキシンの濃度が高くなり、ANAC071という転写因子を誘導します。一方傷口の下部では、オーキシン濃度が低くなり、RAP2.6Lという転写因子が誘導されます。このような遺伝子発現の誘導をきっかけとして、細胞分裂が誘導され細胞が修復されていくのです。

植物ホルモンは前述したオーキシンやエチレンだけではありません。ジベレリン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸など多くの種類があります。そして、傷の修復だけではなく、これらの植物ホルモンは、植物が成長するとき、ストレスがかかったときなど、さまざまな場面で遺伝子に働きかける役割を担っています。どのような植物にも共通して存在する物質で、人工的に製造されたものは植物の成長促進剤などとしても利用されています。今後、さらに研究が進めば、食糧問題にも大きく寄与できることになるかもしれません。

DNA や mRNA、miRNA の解析、生物学的タンパク質のプロテオーム解析などには高度な解析ツールは欠かせません。これは植物研究の分野だけではなく、神経科学や法医学など多くの分野にも言えることです。そこで、近年注目を浴びているのがレーザーマイクロダイセクション(LMD)法です。LMDとは、細胞片から特定の単一細胞や特定の領域をレーザーによって切り取ることができるシステムのことです。これにより、関心領域のみを切り出し、より精度の高い解析が可能になります。

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不均質な試料から必要な領域のみを識別し、非接触かつダメージ・コンタミネーションフリーでサンプルを回収することができる、ライカの LMD6/LMD7 システム。蛍光免疫染色で標識した組織切片、または、蛍光蛋白質を発現した生細胞を観察しながらカッティングしたい時にも、蛍光イメージングとレーザーマイクロダイセクションを同時に実行できる、ライカの LMD システムが非常に有用です。

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