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ライフサイエンス 2016.04.07

デジタルマイクロスコープ観察事例/植物ホルモンの応答をつかさどる遺伝子群の発現を解析する

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司令塔のようなはたらきをする植物ホルモン

植物は、人間のような動物と異なり、大地に固着生活をしているため、生育している環境が変化しても、その場所から逃げることができません。そのため植物は、環境の変化を感知するとタンパク質を新たに作ったり、すでにあるタンパク質を分解したりして、発芽する、茎や葉を伸長する、花を咲かせるなど形態形成をダイナミックに行い、様々な環境に適応しています。植物において環境の変化に対する形態的な応答のためのシグナル分子として司令塔のようなはたらきをするする物質が植物ホルモンです。環境に応じた生物の形態形成に、植物ホルモンの応答がどのように制御されているのか、広島大学理学部生物科学科 植物生理化学研究室の深澤 壽太郎助教にお話しを伺いました。

 

ジベレリン応答のためのシグナル伝達

今は植物ホルモンの1つであるジベレリンを研究しています。植物は外的環境によって、今育つのに厳しい環境と思えば、成長を止めて、厳しい環境に耐え抜くための能力を発揮し、強くなります。暖かくなれば、成長して花を咲かせ、次世代の種子を作ります。種子は、春の訪れを察知して発芽します。これらは植物ホルモンの量の変化によって制御されており、ジベレリンはそのひとつです。 ジベレリンがはたらくと植物は背が高くなったり、葉が大きくなったり、花を早く咲かせたりします。ジベレリンは馬鹿苗病菌から日本で発見された植物ホルモンで、種なしぶどうを作るために使用されることでも有名です。 ジベレリンの応答をつかさどる遺伝子群は、「DELLAタンパク質」と総称される複数のタンパク質によって、遺伝子発現が抑制されています。しかし、細胞内の核に存在するジベレリン受容体にジベレリンが結合すると、DELLAタンパク質の分解が促進されることによって、それまではDELLAタンパク質によって発現が抑えられていたジベレリン応答をつかさどる遺伝子群が働くことができるというわけです。逆にジベレリンがないとDELLAは核に蓄積して、成長を止めます。一方で、ジベレリン初期応答遺伝子の多くは、ジベレリンの投与によって発現が抑制されることが知られていました。これは、前述のモデルとは、正反対です。われわれはDELLAに結合するタンパク質を探し、DELLAと結合する新奇の転写因子GAF1を同定し、DELLAタンパク質の新たな機能を見出しました。DELLAタンパク質は、GAF1と結合して、さらにDELLA-GAF1複合体が標的遺伝子の発現を促進します。ジベレリン量が増えるとDELLAが分解され標的遺伝子の発現が抑制されます。現在、DELLA-GAF1の標的遺伝子を探索していますが、そのひとつは1つはジベレリン生合成遺伝子でした。 DELLA タンパク質はジベレリン内生量が低下すると、ジベレリン合成酵素やレセプターとして働く遺伝子の発現をオンにして、発現量を調節することで、ジベレリン量や応答性を絶妙に制御し、フィードバック調節を行なうという、もう1 つの重要な機能を持っています。いわゆる恒常性(ホメオスタシス)があり、これによって植物は大きくなりすぎたり小さくなりすぎたりしないように、適切に ジベレリンのシグナル伝達を調節していると考えられています。私たちは、GAF1転写因子の発見によってDELLAによるフィードバック制御の実体を明らかにしました。

 

クロストークで制御

学部生時代の卒業研究からずっと植物を用いた研究しています。 私がずっと興味があるのは、植物ホルモンは現在のところ、ジベレリンの他、オーキシン、サイトカイニンなど10数種類しか同定されていませんが、そのわずかな植物ホルモンが2万以上の遺伝子の発現を、個体の秩序を保って制御している点です。膨大な遺伝子を適切に制御するには、植物ホルモンと各種遺伝子が1:1の対応では説明がつきません。実際の植物体内では植物ホルモンは共存しており、生理機能の調節は植物ホルモン間の相互作用 、つまりクロストークを通して行なわれていることがわかっています。 植物はどのような機構によって植物ホルモン間のクロストークを調節しているのか、ある植物ホルモンによって他の植物ホルモンの生合成が誘導される場合や、シグナル伝達因子を複数の植物ホルモンが共有する場合、各々のシグナル伝達因子の相互作用などによりわずか10数種類の植物ホルモンでも十分な多様性を生み出していると考えられています。

 

植物にとっての一大イベント

植物は春を待って適切なタイミングで伸長したり、一斉に花を咲かせます。春の到来は、温度や日長などから感知されますが、それを知ることができるのは主に葉であり、土から水や栄養分を吸収できるのは根のみです。葉や根など、ある特定の組織だけで知ることのできる情報を知り、花を咲かせ、次に子孫を残すために種をつけます。そして、適切な時期に、次世代の種が発芽します。植物の成長過程は、2段階に分けられます。根からの水分や無機物の吸収が活発になり、葉で光合成をし植物が大きく成長する栄養成長(こども)と、花を咲かせ、種子を作る生殖成長(おとな)の時期があり、この切り換えが花成 (かせい)です。花成による成長時期の変換のタイミングは、温度、日長、植物ホルモンなど複数の要因によって制御されていますが、栄養成長から生殖成長への相転換は、植物にとって子孫を残せるかどうか、一族の繁栄がかかった非常に重要な決定です。これは、植物においてまさに一大イベントで、もちろんジベレリンも関与しています。

 

デジタルマイクロスコープを用いた観察

植物体のなかで対象とする遺伝子がどのように発現しているか、遺伝子の発現解析を行う際、植物ではβ-glucuronidase(GUS)をレポーター遺伝子とした組み換え体をよく使います。目的の遺伝子が発現している部位は青く染色されます。 形態観察には、通常実体顕微鏡を用いることが多く、私もライカの蛍光実体顕微鏡を用いていますが、より写真撮影に最適な顕微鏡ということで新たに昨年ライカデジタルマイクロスコープDVM6を導入しました。 デジタルマイクロスコープでは1度に観察できる視野が広くて、焦点深度が深くピントが合う。また画像連結機能が標準搭載されており、高精細画像なまま、広い視野で葉っぱ1枚など撮影できます。たとえば葉や茎には、害虫や紫外線から身を守るため、トゲのようなトライコームを生やしていますが、トライコーム観察は、1枚の葉、1本の茎にどのくらいの数が存在するのか、などを観察できるほうがよく、できるだけ広い視野で撮影できることが望まれます。 また組織はシャーレに水をはった状態で観察することが多いのですが、照明を当てると水は反射しますし、場所を見つけるのにシャーレを動かすと波打つのでまた反射条件が変わってしまいます。照明方法が難しかったのですが、DVM6のリング照明は分割パターンが豊富で、設定もソフトウェアからマウス操作でできるので、観察しながら最適な照明がすぐ見つけられます。DVM6はズーム本体を片手で手軽に傾斜でき、少し傾斜すると反射が消えて、観察したいところが非常に見やすくなります。 なにより、通常の顕微鏡では目で覗いた像と、写真でとった画像が違うということがありますが、DVM6ではモニターで確認した画像そのものが写真に保存できることで、ストレスがありません。

写真:シロイヌナズナ GUS染色
Seeding
Tricome
Root
胚軸と種皮

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顕微鏡観察への期待

植物は根やトライコームをのぞき、クロロフィルが多量に存在しており、非常に強い赤色の自家蛍光を発するため、しばしば蛍光タンパク質の観察を妨げます。われわれが所有している蛍光実体顕微鏡でも蛍光観察できるのは根とトライコーム等のみと制限されています。最近マウスを丸ごと透明化する技術「CUBIC」が開発され一般的になりましたが、植物でも丸ごと透明化し、中まで観察する新技術が開発されました。植物に特有のクロロフィル(緑色の色素)を取り除き、植物の根や葉、めしべなどを丸ごと透明化し、器官全体を細胞1つ1つまで観察することが可能になり、植物を傷つけず、特殊な顕微鏡を使っても見られなかった植物の深部の構造を、解剖しないで観察できるようになります。私も期待しているテクニックで、ぜひ応用していきたいです。 植物における植物ホルモン「生合成」と「受容体における認識以降のシグナル伝達」の他、その間に位置する「輸送」も最近重要な要因と考えられ研究が進んでいます。 植物ホルモンは現在10数種類が同定されていますが、最近もストリゴラクトンという新しいホルモンが発見されたり、まだ発見されていないものもあると思います。新しいホルモンを見つけたいな、と思っています。 先生のお話を伺い、植物自身はきれいな花を咲かせたり、自身のかたちの変化を知っているのだろうか、と不思議に思いました。神経系もないけれど植物は化学物質を通じてコミュニケーションすることで、成長し、環境に適応し、繁栄しています。ある意味、賢く、知性すら感じる植物にあたらためて興味がつきません。

 

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デジタルマイクロスコープ
ライカ DVM6

ライカ DVM6は直感的なマイクロスコープ操作とスマートなソフトウェア機能で、スピーディに精度の高い観察および計測を可能にします。対物レンズにはアポクロマート補正レンズを採用。完全な色再現性や高解像度、ハイコントラストな観察が可能。12xから4740xまでをカバーする3本の交換レンズはワンタッチ交換で自動認識。倍率の変更時にも視野のセンターは変わらず、フォーカスも維持されたまま、明るさ、色合いの変化もありません。

デジタルマイクロスコープ ライカ DVM6
広島大学 理学部生物科学科 植物生理化学研究室
深澤 壽太郎先生

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、東京理科大助手、理化学研究所 基礎科学特別研究員、研究員を経て現在に至る。専門は、植物生理学、分子生物学、植物ホルモン信号伝達機構の解析。

広島大学 深澤 壽太郎先生

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