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ライフサイエンス 2016.05.09

デジタルマイクロスコープ観察事例/小型哺乳類の化石が教えてくれる進化のプロセス

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小さなネズミの歯が教えてくれること

動物はいつどのように進化していったのか。多種多様な化石がそれを教えてくれますが、小型哺乳類であるネズミもそのひとつです。国立科学博物館 地学研究部 生命進化史研究グループ 木村 由莉先生にお話しを伺いました。

 

小型哺乳類化石から進化のプロセスを探る

私は、小型哺乳類が環境変動に対してどのように適応するのかをテーマに研究をしており、小型哺乳類の中でも特に齧歯(げっし)類に興味があります。「齧る(かじる)歯」という意味のこのグループには、ネズミ・ラット・モルモットなどなじみのある動物が含まれ、その名の通り歯に特徴があります。 恐竜など大きな動物は骨がしっかりしているので、化石として堆積物中に残りやすいのですが、齧歯類など小さい動物の場合、骨が化石として残りにくく、歯を研究対象とすることが多いです。寿命が短く世代交代の早い齧歯類は、進化のスピードが速いので、形態の変化から進化のプロセスを追跡するには理想的な哺乳類です。

 

歯の機能形態の多様性

歯は動物によって機能形態が大きく異なり、多様性を生み出しています。たとえばワニなど爬虫類の歯は獲物を”捕らえるため”に働いていて、餌を噛み切りますが、哺乳類では噛み切る以外に、食べ物を口の中で「すりつぶし」、咀嚼することができます。 哺乳類は、カモノハシに代表される単孔類、カンガルーなどの有袋類、そして有胎盤類と進化していますが、たとえば単孔類は「すりつぶす」機構はあまり洗練されていません。 ヒトでは咬頭と呼ばれる歯の山が低く、すりつぶすのに便利な咬耗面を形成するようになり、多様な食性に適応できるようになっています。ウマなどの草食動物では、すりつぶすための機能をさらに高めた構造をしています。ライオンのような肉食動物になると咬頭が鋭く、肉を切り裂くために理想的な形状をしています。木の実と葉から昆虫まで食べる齧歯類では、合わさった咬頭が峰を作ったり、谷に新しい山が形成されることで、多様な形状が見られます。顕微鏡で拡大された歯を観察すると、まるで地形を見ているように感じます。

 

ネズミは何を食べていた?

真のネズミ類、つまりハツカネズミやクマネズミは、今では南極以外の全ての大陸に生息していますが、時間をさかのぼって起源をたどると、1500万年以上前のパキスタン地域に行き着きます。ハムスターに近い動物から進化し、1000万年前頃までにはヨーロッパ、アジアに進出し、すぐにアフリカに到達しました。そしてコロンビアの大航海時代に人間と共にアメリカ大陸へと移動しました。地下鉄のホームにもいますし、その繁殖と拡散能力はすごいですよね。そんなネズミ類の生存能力に目をつけ、環境変動に呼応する小型哺乳類の適応力を地質学的なスケールで追跡するための研究対象にしました。 環境が変わればその地域で育つ植物に影響がでます。そしてその植物を摂取する動物にその影響が連鎖します。食性の進化をたどる手法の1つに、歯の安定炭素同位体比を測定する方法があります。哺乳類の歯に含まれている微量の炭素は、摂取する食べ物の炭素と平衡関係にあるので、歯の炭素安定同位体比を測定することで、その動物がどんな植物を食べていたか、光合成の様式の違いから定量するというものです。数ミリの小さな歯の化石から多くのことがわかってきました。 ヒマラヤ山脈とその北側のチベット高原の隆起に関連して形成された南アジアのモンスーン気候の影響によって、800万年から600万年前を境に、パキスタンは森林性から草原性の乾燥地域になったことがわかっています。そこに棲んでいたネズミ類は草本のような固い食べ物を摂取せざるを得なくなりました。この頃になると、パキスタンのネズミは、1つの祖先型から丸い歯をもつグループと先端が長い歯をもつグループの2つに分化していました。これらのネズミの炭素安定同定比の結果と形態の差異をマッピングしたところ、共通の祖先から進化したにも関わらず、丸い歯を持つグループの方が、より多くの草本を選択的に摂取し、形態の適応能力が高いことがわかりました。歯の形の進化と食べ物進化は非常に密接な関係にあり、それは雑食性の動物でも認められ、その適応程度はグループによって差があるようです。このネズミの2グループのように、全く違う形態に進化すると、限りある食物をめぐって競争する必要がなく、お互いの生存に有利に働きます。 ちなみにネズミ類の2グループへの形態分化は、植物生態系の変化が起こる数百万年も前に始まっており、まるで環境変動を予期していたかのようで感心させられました。また、こんな小さな歯の化石も進化の歴史を教えてくれるタイムマシンのように思えて、とても面白いです。

デジタルマイクロスコープで形態をとらえる

ライカのデジタルマイクロスコープDVM6を導入したのは小さな骨や歯の形状を正確に定量化するためです。これまでもデジタルマイクロスコープで撮影した画像から計測を行っていましたが、手動でZ軸を動かさなければならないし、画像の合成に多くの時間を要しました。DVM6なら全焦点合成撮影も30秒程度、しかも立体感と解像力もありきれいです。 LED照明の条件設定もマウス操作で簡単、モニターで観察しながら、最適な条件設定ができるので、本当に便利です。

ネズミ歯の化石、8つの山の形状がよくわかる(ライカ DVM6 で撮影)

点が線につながる

「古生物学も、昔は形態や解剖学など標本に基づく分類が主流でしたが、現在は分子系統学が発展し、DNAの違いを使って動物の系統が調べられています。化石の役割が終わったというわけではありません。分子系統そのものには時間軸がないので、化石を証拠にした分岐年代を埋め込む必要があります。パキスタンのネズミ化石は、2グループに分かれたタイミングが追跡できたので、この化石年代にぴったりなのです。それぞれの学問を統合させることで点が1本の線につながります。対象となる材料や手法が異なったり、分業されがちな専門的な研究も、こうしてリンクしていくのは、本当に楽しいですね。 私には原点と呼べる漫画があります。「きょうりゅうのたまごをさがせ」という本で、化石好きのヒロキ少年とお姉ちゃんが、国立科学博物館の先生からヒントをもらいながら、ゴビ砂漠で発見された恐竜の卵の化石の謎を解くというストーリーです。漫画の主人公は架空の人物ですが、アメリカ自然史博物館のアンドリュース率いる大規模なフィールド調査団がゴビ砂漠とその周辺で中央アジア探検を敢行し、恐竜の卵の化石を発見したというのは実話です。 後半では、アメリカ自然史博物館のバード博士によってテキサス州で発見された白亜紀の竜脚類の巨大な足跡化石の謎にも迫っています。この漫画を小学生の時に読んで、将来は古脊椎動物学者になりたいと思いました。その気持ち一直線で、足跡化石産地に近いテキサスの大学院に留学し、アンドリュースが訪れた内モンゴルでのフィールドワークに参加し、国立科学博物館で仕事することとなりました。化石に触れると、今でもワクワクした気持ちになります。はるか昔に眠りついた時間のかけらが、私の手のひらに乗っていて、その下には私の血液が絶え間なく流れている、その感覚が好きです。国立科学博物館にはこんな凄いタイムマシンがたくさんあるんです。

 

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デジタルマイクロスコープ
ライカ DVM6

ライカ DVM6は直感的なマイクロスコープ操作とスマートなソフトウェア機能で、スピーディに精度の高い観察および計測を可能にします。対物レンズにはアポクロマート補正レンズを採用。完全な色再現性や高解像度、ハイコントラストな観察が可能。12xから4740xまでをカバーする3本の交換レンズはワンタッチ交換で自動認識。倍率の変更時にも視野のセンターは変わらず、フォーカスも維持されたまま、明るさ、色合いの変化もありません。

デジタルマイクロスコープ ライカ DVM6
国立科学博物館 地学研究部 生命進化史研究グループ
木村 由莉研究員

早稲田大学教育学部卒業。サザンメソジスト大学にて博士号を取得。スミソニアン博物館での博士研究員を経て、2015年より現職。専門は小型哺乳類化石。

国立科学博物館 木村 由莉研究員

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