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インダストリー 2019.09.20

原子分解能観察に向けて:FIB加工の前にあなたのサンプルの表面を保護

Leica EM ACE600アプリケーションノート‐材料系

集束イオンビーム(FIB)は、細く絞ったGaイオンビームを用いてナノメートルの精度でサンプルを加工できるため、特定微小箇所を狙ったTEM試料作製に不可欠なツールとなっています。 FIBでのPtなどのデポジションによる保護膜の堆積は、FIB加工によって引き起こされるダメージからサンプル表面を保護するための最初の重要なステップです。デポジションにはIBID(イオンビーム誘起デポジション)とEBID(電子ビーム誘起デポジション)があり、後者の方がサンプルへの影響が少ないことが知られていますが、最表面層へのダメージを完全に排除する事はできません。 この記事を英語で読む FIB加工に際して、サンプルの表面を保護する有効な方法は、FIBへの導入前に、均一な密度と厚さのカーボンの保護膜を成膜させることです。しかしながら、従来のカーボンロッド蒸着はサンプルに相当な熱を与えるため、熱ダメージを引き起こす可能性があります。 それに対し、アダプティブカーボンスレッド蒸着はサンプルに熱影響を及ぼすことなく、高い強度の導電性膜を成膜します。既に科学コミュニティから高く評価されている、この新しい蒸着技術は優れた柔軟性と高い再現性が特長です。これにより、ユーザーはサンプルへの影響を最小限にしながら、均質で導電性のカーボン膜を成膜することができます。さらに、このカーボン膜は低いスパッタレートと粒子構造が無いことにより、FIB加工におけるサンプル表面の最適な保護とカーテン効果の抑制が可能になっています。 このアプリケーションノートでは、サンプルの保護コーティングについて説明し、あなたのサンプルを保護するための最も適した方法を示し、原子レベルでの表面の微細構造観察に関する不安を払拭します。

図1: TEM用薄片試料におけるFIBダメージの例 (A) サンプルの最表面がエッチングされ、界面の原子配列が混合されている (B)粒子構造を有するEBID膜と低加速電圧仕上げ加工の組み合わせが引き起こしたカーテニングアーティファクト (C) EELSデータ取得を阻害する分析目的領域に隣接した高いZコントラストのEBID膜

油性マーカーの塗膜は、黒色の油性マジックでサンプル上に線を引くことで簡単にできるため、集束イオンビームのダメージからサンプルを保護する手段として提案されています。とても早く安価にできますが、適正な膜厚を得るには再現性に乏しく、厚い塗膜はFIB加工の前のサンプル表面をしばしば不鮮明にするため、目的箇所の正確で迅速な位置特定を妨げます。更にそのような膜が、原子分解能STEM観察や長時間のEELSデータ取得の際に良く使用される高いプローブ電流にさらされた場合、どのように反応するかは明らかではありません。油性マーカーのインクに使用されている樹脂が、原子分解能イメージングや分光分析を行うときに、ガスを放出しコンタミネーションの原因になり得ます。また、膜の特性として、かなり分子量が高く、導電性が低くなっています。

図2: FIB加工のアーティファクトとダメージを防ぐためのカーボンコーティング (A) 膜厚35nmのアモルファスカーボン蒸着後の ACE600 試料ステージとサンプル (B) FIB薄片試料の全体像(HAADF-STEM) (C) カーボン保護膜の均一な厚さを示すための観察像(HAADF-STEM) (DおよびE)最表面とその下の層の優れた保存状態を示すサンプルの高倍率観察像(HAADF-STEM) (観察像提供:Ricardo Evoagil、Jo Verbeeck、アントワープ大学 EMAT、FIB試料の作製:Stijn Van den Broeck)

このような膜の代替としてアモルファスカーボンコーティングを保護膜として利用することができます。カーボンは様々な方法で成膜させる事ができますが、FIB加工の保護膜への応用は膜の品質に関していくつかの厳しい要求があり、カーボン膜は以下の条件を満たさなければなりません:(1) 均一な密度、(2) 導電性、 (3) 成膜の際にサンプルへの影響が小さいこと、および(4) 膜内に粒子状物質がないこと。 アダプティブカーボンスレッド蒸着は、サンプルへの影響を最小限にしながらアモルファスカーボンを堆積させる有効な方法です。カーボンスレッドは5つの電気端子に沿って配置されており、4つのカーボンスレッドのセグメントを完全に蒸発させることが可能になっています。アダプティブ蒸着のプロセスは各パルスの後に抵抗を測定し、それに従って次のパルス出力を調整することで一定の電力出力を保証しています。このプロセスは、残骸を発生させずに各スレッドのセグメントを完全に使用することができるだけでなく、粒子状の構造や密度変動のない優れたカーボン層の成膜に大きく貢献します。 このプロセスで生じる蒸発物は低エネルギーであるため、サンプルの表面層でアトミックミキシングが発生しません。図2Aは膜厚35nmのカーボンコーティングの後の ACE600 試料ステージ上のサンプル(SEMスタブに固定)を示しています。この後、サンプルはFIBに導入され、EBIDとIBIDによるPt保護膜が連続してデポジションされました。図2Bはオムニプローブのグリッド上にマウントされたTEM薄片試料を示しています。図2Cは均一な膜厚でカーボンの層が成膜されていることを示しています。SrTiO3基板とBiFeO3薄膜はカーボン膜とその上にデポジションされたEBIDとIBIDによるPt膜で保護されています。その結果、この表面の原子層はFIBによる薄片化加工のアーティファクトから保護されます。なお、アモルファスカーボン層はTEM/STEM観察におけるプローブ収差の微調整や分析TEMの参照層としても利用する事もできます。 拡散性で均一なコーティングが可能というアダプティブカーボンスレッドコーティングの優れたパフォーマンスを示すために、表面に不規則な凹凸を有するサンプルへの応用例を図3に示します。このようなサンプルでも均一な膜厚でのカーボン層が成膜でき、サンプル表面の完全な保護が原子スケールまで保証されています。観察像3Cにおいて、最表面の原子層の上部に見られるもやっとしたコントラストは、大気汚染によるものです。サンプル表面に更に大量の汚染のある場合は、FIBでの観察中にガスを放出する可能性があり、局所的にカーボンを泡立たせる原因となり得ます。そのような場合では、FIB処理の前に清浄化を実施する必要があり、グロー放電やプラズマクリーニングでクリーニングすることができます。 結論として、アダプティブカーボンスレッド蒸着は、FIB薄片化加工のダメージとアーティファクトの防止に対して極めて適したアモルファス保護層を成膜します。また、その低いスパッタレートによって、FIB加工の最中にサンプルを保護し、原子レベルに至るまで最表面と表面下の層を原子スケールに至るまで完璧に保護することができます。

図3: 表面に不規則な凹凸を有するサンプルへのアダプティブカーボンスレッドコーティング (A) 均一にコーティングされていること示す低倍観察像 (B) 画像Aの拡大像 (C) 表面近傍の原子分解能観察

画像はアントワープ大学EMATのRicardo Evoagil博士とJo Verbeeck博士から提供。 EMATはESTEEM2コンソーシアム(www.esteem2.eu)の一部です。

 

高真空スパッタ カーボンスレッド および電子ビームコーター
Leica EM ACE600

Leica EM ACE600はFE-SEMとTEMのアプリケーション向けに、各種金属やカーボンへの熱ダメージを最小限に抑えながら、非常に薄く均質で導電性のカーボン膜を成膜することが出来ます。ライカ EM VCT500 真空クライオ・トランスファーシステムと接続することで、クライオSEMをはじめとする真空系、また、大気非暴露の解析装置用に、コンタミ・フリーの理想的な前処理ソリューションを実現できます。

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