地球の歴史や生物の進化、身近な郷土の自然について、子どもから大人まで楽しみながら学ぶことができる豊橋市自然史博物館に今回お伺いしました。地球の成り立ちを解明するために重要となる地質系の分野で、偏光顕微鏡Leica DM750 Pをどのように活用されているのか、学芸員の丹羽 美春様にお話ししていただきました。
博物館業務と地質研究の両立
博物館の学芸員として地質系の研究を専門とされていますが、ずっとジオサイエンスの業界にいらっしゃるのですか?
丹羽:大学では地質系の研究室で学んでいました。大学卒業後、豊橋市役所では学芸員枠の採用がなかったため事務職に就きました。
父親がとても自然が好きだったので、小さい頃からここ、自然史博物館によく連れて行ってもらいました。博物館がある豊橋市役所に、事務職として入り、何か関わることができればと。配属先を選べないので、本庁で事務仕事をしていましたが、いつか異動できればと希望を持っていたところ、いろいろなタイミングが重なって自然史博物館に異動することができました。博物館では施設管理等、学芸業務以外の知識も必要なので、今までの経験はとても役に立っています。
博物館の仕事をされながら、学芸員としてはどのような仕事をされているのですか。
丹羽:学芸員の仕事は、博物館法という法律で定められていて、資料の収集・保管、展示・教育、そして調査・研究と、大きく3つに分けられます。法律制定から70年ほど経つので、近年の動きとしてデジタルアーカイブ化や地域の活性化、博物館連携も実施しましょうと少しずつ変わってきています。教育の一環としては、ワークショップや講演会、企画展などを開催しています。
地質といえば、過酷な場所での体力仕事のイメージがあります。実際に現場に行って調査・収集されることもあると思いますが、博物館がある地域がメインになるのですか。
丹羽:自然史博物館には、生物系5分野、地質系2分野の7分野の学芸員がいますが、それぞれの研究テーマに沿ったフィールドがあります。郷土の自然も大切ですが、研究したいテーマがあれば、どこへでも赴くことになります。私の場合、今は険しい場所などには行っていませんが、大学時代は山小屋に泊まって山頂の石を調査したこともありました。
大学の地質研究では、割とコアに顕微鏡を使用していただいている実績があります。偏光顕微鏡に触れられたのは、学部生の頃ですか。
丹羽:そうです。学部に配属されたときに研究室の顕微鏡を見て、石ってこんなにきれいなんだ、万華鏡みたい、と。世界が変わりました。
事務職のときは顕微鏡をほとんど使ってなかったのですが、博物館に勤務することになり学芸員に職種変更してから、また頻繁に使うようになりました。
信頼できるブランド力と明るくクリアで疲れないレンズ
ライカの偏光顕微鏡をご使用いただいた感想をお聞かせください。
丹羽:まず、ブランドというか、間違いがないという信頼があります。歴史があり、昔からずっと使われ続けていることもいいかなと思っていました。名古屋大学さんでもライカさんを使っているということを聞き、デモに来ていただいて実際に見させていただきました。
やはりレンズが違うのか、明るくて、見え方がクリアできれいなことが第一印象でした。色味や発色も違うかもしれませんが、見ていて疲れる顕微鏡がある中で、ライカさんの顕微鏡は見やすいため、疲れることなく観察することができます。気付くと1時間、2時間経っていたということは普通にありますね。
偏光顕微鏡だけでなく、最近は弊社の実体顕微鏡もご使用いただいているとお伺いしました。
丹羽:はい。昆虫担当の学芸員がライカさんの顕微鏡を使用しています。あとは、化石の分野でも、細かいものを見るときには実体顕微鏡で確認します。鉱物の観察でももちろん使用します。1ミリ以下の小さな鉱物を扱うときは、ルーペでは追いつかないので、実体顕微鏡の出番となります。
顕微鏡で何度も観察することで石を見定める
特にどのような目的のときに顕微鏡が必要になりますか。
丹羽:中央構造線という、関東から九州まで続いている日本一大きな断層があるのですが、その露頭を愛知県の東三河で見ることができます。私の場合、そこからサンプルを採取して、組織を観察するときに顕微鏡を使用します。組織を見ることで、もとがどんな岩石だったのか、岩石ができたときどんな温度・圧力条件だったのか、どちらの方向に動いたか、といったことを調査・研究しています。
組織の像を見ただけで鉱物の種類や運動の方向が分かるのはすごいですね。教科書や長年のノウハウがあるのですか。
丹羽:教科書はもちろんありますが、やはり、学部のときに指導教官に付いて一から学んだ経験が大きいです。今でも時々大学を訪問して、色々教えていただいています。
見ただけでは分からない情報も、いろいろな機械による分析値を組み合わせることで、分かることがあります。でも、岩石学、鉱物学というのは、目の前にある石を、このような薄片にして何回も顕微鏡で見て、この石が何なのかということを見定めることから始まるんじゃないかなと思います。
石は硬くて重たいので、採取も加工も大変そうです。
丹羽:そうですね。本来なら、薄片にしなくても石を置いたら中の鉱物や組織が分かるとよいですね。石を切って、磨いて、スライドガラスに付けて、また磨いて、最終的に0.03ミリにすると薄片の完成です。私は薄片を作るのが好きで。作っていると、時間があっという間に過ぎてしまいます。私にとって薄片を作成する間や顕微鏡で観察している間は、時間の流れが違うのでしょうね。
今後、ライカの顕微鏡に期待することはありますか。トレンド的には画像解析にAIテクノロジーを用いるというのがありますが。
丹羽:今でも、顕微鏡に付随して元素分析できたりレーザーを当てたりなど、いろいろできますが、もう少しコンパクトに使いやすくなればいいのかなと思います。
地質学の分野だと、元素分析や結晶方位の測定がありますが、私の場合は顕微鏡の見え方に満足しているので、ずっとこのまま使い続けたいなと思っています。強いて言えば、AIを使った薄片の画像解析でしょうか。オープンとクロスの色の変化や屈折率から、鉱物鑑定ができたらと思うことはあります。あとは、鉱物の数のカウント、粒径などを解析するニーズがあるかと思いますが、「より解像度良く」ということが結局求められるような気はします。
今はさまざまな分析装置や解析ツールがありますが、外観観察、拡大観察が一番基本というのは原理原則なんですね。
子どもたちに自然科学を好きになってもらいたい
博物館業務ということで、結構な頻度でイベントを開催されているようですが。
丹羽:恐竜関係、自然関係が多いですが、博物館に来る子どもたちに自然科学を好きになってもらえるような番組を大型映像で上映したり、毎年異なる分野のテーマで特別企画展を開催したりしています。
理科離れなども言われていますが、今まで図鑑だけの知識だったのが、ネットなどいろいろなところから情報を集めることができるようになり、興味のある子は本当に詳しいです。いろいろな鉱物や宝石のことを話してくれたり、「これは何々だよ」って持ってきて教えてくれたりします。
お子さんの反応を見るのも楽しいですね。
丹羽:はい。すごく素直に反応してくれます。ライカさんの偏光顕微鏡で薄片をモニターに映すと、子どもたちは必ず見にきてくれます。オープンとクロスを変えるだけでもすごくびっくりしてくれます。そこからいろいろ説明するのですが、「まずこれが石なんだよ、石も光が通るんだよ」っていう話をしています。展示を見て喜んでくれたときが一番嬉しいですね。
日本では地質学を専攻できる大学自体が少ないですが、とても重要な研究分野だと思います。ここに来られた子どもたちが、将来的に地質や石のことを好きになってくれると嬉しいですね。
丹羽:はい。なってくれると嬉しいです。地球自体が石でできているので、日本の成り立ちや地球の成り立ちだけではなく、その上部にある生物圏にもつながりますので、基本のところを知ることができるのは地質学かなと思います。
マテリアルサイエンス系で顕微鏡をメインに使う地質学は、我々にとっても今後関わっていきたい分野です。ありがとうございました。
- 豊橋市自然史博物館
- 丹羽 美春 様
学芸員(専門分野:鉱物学、岩石学)
- 豊橋総合動植物公園 豊橋市自然史博物館
1988年5月1日、県内初の本格的な「自然史博物館」として開館。
1992年4月29日、自然史博物館、動物園、植物園、遊園地の敷地・設備が整備され、豊橋総合動植物公園となる。
自然史博物館は、生涯学習の場として子どもから大人にいたるまで、地球の歴史と自然のしくみについて学ぶとともに、自然に親しみ大切にする心を養うことを目的としている。
豊橋総合動植物公園WEBサイト
https://www.nonhoi.jp/museum/
豊橋市自然史博物館公式WEBサイト
https://www.toyohaku.gr.jp/sizensi/index.htm
- 偏光顕微鏡
- Leica DM750 P
178mmの広い回転ステージや、センタリング式4穴対物レボルバ、高輝度かつ長寿命・省電力のLED照明など、エントリーモデルながら高い光学性能を提供し、本格的な偏光観察が可能です。岩石・鉱物はもちろん、ガラス、プラスチック、ポリマー、医薬品やその原材料、織物および繊維などの観察・分析に最適です。