アレイトモグラフィ向け新型ウルトラミクロトームで連続切片を作成する様子を動画で見る
連続断層SEM像の3D再構築で注目を浴びるSEM連続断面法
近年、微小な生体組織を観察して得られた画像を3Dで再構築した情報から新しい知見が見出されています。平面画像を3Dに再構築する手法はいくつかありますが、その中でも特に注目されているのが、SEM連続断面法です。 従来は連続超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から3D構造を再構築していました。しかし、TEM連続切片法では、連続切片回収時のグリッド、切片操作に熟練を要するため切片を傷つけてしまったり、観察時には、切片が電子線によるダメージを受けやすいことから3D構造が正確に反映されないといった課題がありました。 一方、SEM連続断面法では、樹脂包埋した試料のブロック断面または平坦な基板上に貼り付けた連続切片の表面をSEMで観察します。そのため、TEM連続切片法のような難しい切片操作がなく、観察対象の連続断層像を安定して得ることができます。さらに、近年では、SEMと検出器の性能が向上し、TEMに近い像を取得することができるようになったため、SEM連続断面法は、微細構造の3D解析を必要とする多くの研究者にとって有用な技術であると言えます。 連続断層像から3D構造を再構築する手法は、主に下記の3種類に分類されます。いずれもSEM連続断面法ですが、連続断層像を得るまでのプロセスが異なります。
1.連続切片SEM法(Array Tomography法)
ウルトラミクロトームで作製したリボン状の連続切片を、シリコンウエハーなどの基板上に回収・貼りつけて、SEMで観察する方法です。切片作製、撮影ともに手作業でも実施することができるため、専用装置が不要で、他のSEM連続断面法に比べると導入が容易であることが特徴です。また、観察後も試料がそのまま残るため、繰り返し観察を行うことができます。連続切片SEM法の変法として、ウルトラミクロトームに取り付けた専用デバイスを用いてテープ上に切片を連続回収する、ATUM(Automatic Tape-collecting Ultra-Microtome)法があります。
2.SBF-SEM (Serial Block Face-Scanning Electron Microscope)
SEMのチャンバー内に設置したミクロトームのダイヤモンドナイフで、試料表面を連続的に切削してSEMで観察する方法です。連続切片SEM法(Array Tomography法)と異なり、試料を再度観察することはできませんが、連続断層像を自動で収集することが出来ます。
3.FIB/SEM Tomography (Focused Ion beam Scanning Electron Microscope Tomography 法)
SBF-SEMと同様に、SEMのチャンバー中で試料表面を切削しますが、これを収束イオンビームによって行います。ダイヤモンドナイフでは、安定して切削できる試料の厚みが20nm程度までに限られてしまうのに対し、収束イオンビームは、5nmほどの薄さにまで切削できることから高いZ分解能で3D化することができます。ただし、切削できる面積が他の方法に比べて小さいため、広範囲の連続断層像を得る場合には向いていません。
連続切片SEM法(Array Tomography法)の特徴
連続断層像を得る方法として、もっとも導入しやすいのが連続切片SEM法です。ここでは連続切片SEM法の特徴を紹介します。
試料の再観察が可能
連続切片SEM法の優れた点のひとつとして、連続切片を繰り返し観察できる、ということが挙げられます。試料を数nm〜50nm程度の範囲で切削するSBF-SEMやFIB/SEMは、高精細な3D構造を再構築することが出来るものの、試料を再観察することが出来ないという課題がありました。しかし、連続切片SEM法では、作製した連続切片を基板の上に貼りつけて回収するため、試料の再観察が可能です。
通常の樹脂包埋、染色法が適用できる
ブロック表面を観察する手法では、十分なコントラストを得るために特別な固定・染色方法を施す必要があります。一方、連続切片SEM法では、薄切後に切片染色することでコントラストを付与することが出来るため、定法通り樹脂包埋したブロックへの適応が可能です。また、同様に切片上で免疫標識もできるため、CLEM(Correlative microscopy of Light and Electron Microscopy)とも相性の良い手法です。
導入が比較的容易
ウルトラミクロトームとSEMがあれば、連続切片SEM法によって連続断層SEM像を得ることができます。また、連続切片を固いスライドガラスやシリコンウエハーに回収するため、染色や観察などの作業も安定して行えます。その他、連続切片SEM法の作業効率を上げるために自動観察を実現するソフトウェアソリューションが開発されているのも特徴です。
SEM連続切片用の高品質で均一な連続切片を迅速に作製する「ARTOS 3D」
リボン状の連続切片を手作業で作製・回収する場合には、手技の習熟と長時間の作業が必要なうえ、切片に傷がついたり、しわがよってしまうなどのトラブルが起こることもあります。そういった、試料の品質低下のリスクと作業者の負担を軽減し、切片作製・回収の再現性を向上するのが、新型ウルトラミクロトーム「ARTOS 3D」です。連続切片の作製を効率化することで、連続切片SEM法による3D再構築を利用した研究が加速することは間違いありません。 「ARTOS 3D」は、ブロック面サイズをミリオーダーからマイクロオーダーまでフレキシブルに設定することができ、事前にプログラムを組んでおけば数百の連続切片を自動で作製してくれます。自動切片作製機能と専用ナイフが、切片の操作、回収に必要な手作業を大幅に削減。切削安定性に優れているため、非常に正確に、均一な厚さの切片を作製できるのも大きな特徴です。また、「ARTOS 3D」にはリボン状切片の直接回収機能が組み込まれており、フロントバルブで水流を調整して専用ナイフの水を抜くだけで、しわなく複数のリボン状切片を回収することが出来ます。
まとめ より微小な世界へと研究の対象が変化するにつれて、それに見合ったイメージング手法や構造解析が必要になります。特に細胞などの微細構造を3Dに再構築し、可視化するSEM連続断面法は様々な研究への貢献が期待される観察手法のひとつです。 連続切片SEM法は、SEMとウルトラミクロトームだけで実施可能な、導入ハードルの低い手法で、TEM連続切片法が抱えていたいくつもの課題を解決します。また、試料を繰り返し観察できるというのも重要なポイントでしょう。 非常に有用な手法でありながら、切片作製作業の煩雑さが大きな課題となっていた連続切片SEM法。「ARTOS 3D」のような新しいソリューションの登場により、手作業で試料を扱う際のさまざまなリスクや、切片回収に時間がかかりすぎるといった課題が解消され、利便性だけでなく、再現性にも優れたイメージング手法として、今後ますます広がっていくことでしょう。