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メディカル 2018.10.04

眼科手術顕微鏡に求められる条件とは?MIE 眼科四日市 大澤俊介先生の解説

眼科手術顕微鏡は特殊かつ特別な光学特性と機能を兼ね備えている必要がある

MIE 眼科四日市 大澤俊介, IOL&RS Vol.30 No.4 Dec 2016. 眼科手術顕微鏡は我々サージャンの身近なパートナーであり,手術を完遂する最大のポイントと言っても過言ではない「術野が良く見える」ことの最も重要な要素の1つである。また,眼科手術顕微鏡は非常に高度な光学組織である眼球の内部を観察するために,特殊かつ特別な光学特性と機能を兼ね備えている必要 があり,各社の努力により近年その特性をさらに進化させ続けている。本稿では Leica Microsystems(以下 Leica)社が送り出した最新の眼科手術顕微鏡である PROVEO 8の特性と機能について,これまでの主要モデルと比較しつつ,筆者の使用感も含めて述べる。

 

眼科手術顕微鏡に求められる条件

白内障手術時では顕微鏡照明での観察,硝子体手術 時では眼内照明を用いた眼球光学系越しの観察,と2つの観察特性には大きな違いがあるが,わが国では同じ顕微鏡を用いて白内障手術と網膜硝子体手術を単独もしくは同時に行うことも多いため,理想的にはどちらの特性も良いバランスで兼ね備えていなければならない。 まず顕微鏡照明を用いる白内障手術観察では同軸照明で良好な徹照を得て,斜照明のシャドーコントラストで立体視を得る必要があり,そのバランスの取り方が重要である。また眼球光学系越しに眼内を観察する硝子体手術では,非常に高度な光学組織である眼球の中を観察するため,何らかの前置レンズが必ず必要となる。すなわち手術顕微鏡,前置レンズ,眼球光学系(角膜・水晶体・眼内レンズ)の様々な収差を総合的にコントロールするシステム構築が不可欠である。

 

Leica 社の手術顕微鏡主要モデルの変遷

Leica 社のラインナップとしては,低照度でも効率良く光を取り入れ,高解像度な観察光を術者に届ける低照度コンセプトを追求したM844が2005年に登場し,長らく白内障手術・硝子体手術を含む全ての眼科 手術を行えるハイエンド機として臨床使用されており,加えて 2012 年に 0̊ 完全同軸照明を搭載し白内障手術に特化した M822 が登場した。そして本年(2016 年),M844 と M822 の特性を同時に兼ね備えるだけでなく,全く新しいコンセプトの光学系を搭載し,今後の拡張性にまで配慮した PROVEO 8 が登場した。

 

Leica 社の手術顕微鏡の基本性能と特徴

ステレオベース 顕微鏡本体のステレオベースが長いと前眼部観察時にシャドーコントラストが強調され立体感が得られやすい。反面,硝子体手術時の前置レンズ越しの観察では眼底像の融像がしにくくなる可能性がある。Leica 社は 24mm,Zeiss 社・Topcon 社は 22mm に設定され ており,Leica 社の顕微鏡は白内障手術時の立体視に 優れており,水晶体嚢の立体的位置が強調され,その観察に威力を発揮する特徴がある(図 2)。 術者観察系と助手観察系 眼科手術中に術者と助手が同軸で術野(眼底)を観察することは,助手との良好なコンビネーションで手術がスムーズに運ぶだけでなく,次世代のサージャン育成という教育の側面からも有用である。M844 及び PROVEO 8 は術者と助手の観察系が十字に配置され,観察用ズームレンズ系が連動して完全に同条件で観察可能な QuadZoomTM(図 3)を搭載している。 このシステムのもう 1 つの特徴として,通常の顕微鏡では術者 の観察光路からカメラ用に分光することが一般的であるが,QuadZoomTMでは助手の光路からカメラ用に分 光させても術者と同条件の画像が得られるため,M844 では 100% の観察光で手術が可能となり従来よりも低照度でクリアーな観察像を得ることに成功している。

手術顕微鏡におけるステレオベース

照明系(図 4) Leica 社の照明システムの特徴としては通常多くのメーカーの顕微鏡で採用されているファイバー照明システムではなく,ファイバーを用いないダイレクト照明システムを採用している点である。このため光のロスが少なく低照度でもクリアーな観察像が得やすいシステム構成となっている。 また照明軸の特徴として M844 では,大きな対物レンズ径を活かして術者の観察光路に接した位置に大きめの照明鏡が配置されており,かなり同軸照明に近い方向から斜照明方向まで幅広く照明できる設計となっており,0̊ 完全同軸照明ではないものの白内障手術時の良好な徹照と自然な立体感での観察が可能である。 M822 では,術者の観察光路から照明する 0̊ 完全同軸 照明と斜照明を併設するシステムが採用されており,非常に良好な徹照が得られるが,術者の観察光路に照明用のハーフミラーが設置されるために観察光のロスが生じる。 最新の PROVEO 8 では術者の観察光路と助手の観 察光路から照明する 4 光路の 0̊ 完全同軸照明を持つシステム(CoAx4)となっており,白内障手術の各局 面で安定した徹照が得られる上に助手にも徹照が見える現在唯一の照明システムであり,教育の面でも非常に有用である。 ライカ社主要モデルの照明系

解像度と焦点深度(図 5) 解像度を高くすると逆に焦点深度は浅くなり,眼底観察に重要な色収差などの収差補正にもより複雑かつ高価なレンズ系が必要になる。つまり闇雲に対物レンズ口径を大きくし解像度を高くすれば良い訳ではなく,手術操作時にどういった見せ方をするか,各社の顕微鏡それぞれの味付けがあり特徴となっている。 筆者の使用した感覚では Zeiss 社・Leica 社は解像度を主 に重視しており,一方Topcon社は焦点深度を重視する傾向があるように以前から感じていたが,PROVEO 8は解像度と焦点深度を両立させる全く新しい光学システムを搭載しており,その詳細については後述する。

顕微鏡の解像度と焦点深度

拡張性 Leica 社のハイエンド機種である M844 では硝子体手術時の広角観察システムとして自社開発した手動の可変焦点機構とインバーターを内蔵したRUV800システムを装着でき,またもう1つの選択肢として OCULUS社とBIOM+SDIを電動制御する機能を共同開発し装着できる点やスリット照明装置を外付けできるなど,ある程度の拡張性は有していたが,今回登場した PROVEO 8 では従来の拡張性はそのままに当初から今後の拡張性としてサージカルガイダンスシス テムや術中 optical coherence tomography(OCT)*1 などのラインナップも予定されており,術者の好みに合わ せて各システムをアドオンしていくことで,今までにない豊富なバリエーション展開が期待される。 *1 Proveo8 にも対応済み

 

解像度と焦点深度の両立を目指した新しい光学システム

最新のPROVEO 8 には解像度と焦点深度という眼科手術顕微鏡の味付けに最も重要ながらトレードオフ の関係にあたる重要な 2 点の両立を目指した,Fusion optics という全く新しい光学システムが採用されている。この Fusion optics とは右眼・左眼という2 つの異なる光路の 1 つを焦点深度重視,もう 1 つを解像度重 視に振り,その両イメージを術者の脳で統合させるという理論で構築されたシステムである(図 6)。「術者の脳でイメージを統合する」という理論を持ったシステムである以上,本当に理論通りのメリットだけでなくデメリットも存在することを危惧して筆者も使用したが,実際の観察で違和感はなかった。BIOM+SDI で硝子体手術を行ったところ,広角観察時に以前のモデル では頻繁にフォーカスを合わせる必要があったが, PROVEO 8 では一度フォーカスを合わせるとその後ほとんどフットスイッチのフォーカス操作を必要としなかったことから,非常に快適に硝子体手術を完遂できた。 Fusion Optics

 

おわりに

Leica 社の最新鋭眼科手術顕微鏡 PROVEO 8 は従来のハイエンド機 M844,白内障手術に特化した M822 の特徴を高次元にバランスさせた上に,全く新しい光 学システム Fusion optics を搭載することで,これまで非常に困難と考えられていた解像度と焦点深度の両立をある程度達成した意欲作である。拡張性にも充分な配慮がされており,今後の進化・発展に非常に期待が持てる。 文献 1)野田 徹:網膜硝子体手術時における眼底観察法の進歩. あたらしい眼科,24: 37-46, 2007. 2)野田 徹:白内障手術と眼科手術顕微鏡の進歩.あたらし い眼科,26: 1047-1057, 2009. 3)喜多美穂里:広角観察システムの特徴.眼科手術,24: 430- 435, 2011. 4)野田 徹:前眼部手術顕微鏡 手術顕微鏡への付加機能― 各社モデルの機能・特殊機能―.IOL&RS,26: 153-160, 2012. 5)太田 一 郎:最近の眼科手術顕微鏡とその効果的な使い方 白内障手術.眼科手術,28: 164-169, 2015. 6)大 澤 俊 介:最近の眼科手術顕微鏡とその効果的な使い方 眼科手術顕微鏡の最前線―網膜硝子体手術編―.眼科手術, 29: 175-180, 2015.

眼科用手術顕微鏡
Proveo 8

前眼部・後眼部を問わず、手術の全過程にわたって安定したレッドリフレックスと鮮明な組織像を提供する「Proveo 8」。高解像度と深い焦点深度をあわせもつライカ独自の光学設計で、ディテールまで細やかに観察。必要に応じて360°全方向からセットすることができる、広角観察システム(OCULUS社 BIOM 5)を併用することで、硝子体手術中に非接触で眼底を広範囲に観察することも可能。新たに、BIOM 連動フォーカス機能が追加されたことにより、眼球と顕微鏡の距離を一定に維持することができるようになりました。手術を中断することなく眼底を観察できるので、ワークフローがより快適に。

眼科用手術顕微鏡 Proveo 8
MIE眼科四日市
大澤 俊介先生

MIE眼科四日市 大澤 俊介先生

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