顕微鏡とは―簡単に言うと、裸視では「分解」できない試料の微小部分を、人の眼に認識できるようにするための道具です。ルーペを使うと、それまで切れ目のない面の連続に見えていた新聞の写真が、網点の連続に過ぎないことがわかります。顕微鏡もルーペに似た機能を持っており、微細な組織を拡大して、人の眼がその細部を分解して認識できるようにします。2点間の分解能(解像力)の限界は、約0.25μm(1μm = 1/1000mm)です。
顕微鏡の光学系
顕微鏡の光学的な構成は簡単です。ルーペと違うのは、2段階に結像するという点だけです。第1の段階では、染色組織切片のような試料が照明され、対物レンズがその試料の拡大像を、顕微鏡の鏡筒(チューブ)の中の一定の場所へ投影します。しかし、この像は、スクリーンの上に映写するわけではなく、顕微鏡の鏡筒の中で、現実に実在する蜃気楼のように浮いています(中間像 = 空間倒立像)。次に、接眼レンズが第2の結像段階で、この像をルーペの様に拡大し、眼の網膜へ投影して、観察できることになります。観察試料の大きさと、解像すべき組織構造の細かさに応じて、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率を適切に組み合わせます。
顕微鏡と照明
見るためには光が必要です。照明装置は、顕微鏡にとっても重要な要素です。光が透き通る標本(プレパラート)は、投影機のスライドのように、対物レンズに向かって照明されます。鉱物や金属切片のように光が透過しない試料は、落射光(反射光)で、観察者の側から照明します。落射光照明の光路は、対物レンズの上方にあるビーム・スプリッターで下へと曲げられ、対物レンズ内部を通って、試料上へ落とされます。
顕微鏡スタンド(鏡基)
サブミクロンの領域の組織を見るためには、対物レンズの付いている鏡基システム全体が、高い安全性を機械的に備えていることが基本条件ですが、加熱時にもこの安定性は保たれなければなりません。試料をXYZに走査する場合には、極めて安定した動きが必要ですし、完全な再現性も要求されます。精密工学のエキスパートの仕事です。 スタンドの上部には、双眼接眼レンズ鏡筒があり、接眼レンズを挿入します。中央には、異なる倍率の対物レンズを迅速に切り替えられる対物レンズ・レボルバー(回転円板)があり、その下には、標本をXYZ方向に精密に動かす試料ステージ(載物台)が付いています。焦点合わせ(フォーカス)機構も、標本が載ったステージを最適な焦点位置に動かす、重要な機械要素です。ステージがサブミクロンの精度で動くのに対して、焦点合わせ機構も同じ分解能の焦点精度を保証しなければなりません。オートフォーカスも、様々な使い方で広まっており、焦点精度は0.1μmに達しています。
積み木方式(モジュラー・システム)顕微鏡
上記で説明した顕微鏡の主要な基本構造は、用途に合わせていろいろな付属装置で拡張できます。最新の顕微鏡は、ユーザーが柔軟に多様な機能を使い分けて課題を解決できるよう、デザインを統一した組み合わせ式モジューラ―・システムを採用しています。使用目的に合わせて、光源・コンデンサー・ステージ・対物レンズレボルバー・落射光照明装置・フィルター・接眼鏡筒・接眼レンズに至るまで、任意に組み合わせられ、特定の光学条件を考えて設計された数多くの専用対物レンズを選べます。像に対して、光学的にコントラストをつけるための各種特殊モジュール、複数の人が同時に観察しながらディスカッションするための各種装置、写真や動画などの記録デバイス、画像を解析するための装置など、一大システムが形成されています。 現代の研究・検査が必要とする多様な応用範囲を1台でカバーすることができることは、モジュラー・システムの大きなメリットです。また、精密光学・光学・エレクトロニクスが多面的に関わる生産工程を画一的な設計原則で統合できるため、精度と均一性を極限まで徹底できるという点においても、モジュラー・システムは、優れたシステムです。