夢の新材料セルロースナノファイバーと臨界点乾燥

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夢の新材料セルロースナノファイバーと臨界点乾燥

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日本発の新材料セルロースナノファイバー

ライカ臨界点乾燥装置 EM CPD300 を使用して、セルロースナノファイバーの研究をされている国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門 セルロース材料グループ 研究グループ長 遠藤貴士 様にお話を伺いました。 丈夫で軽い、植物由来の繊維材料であるセルロースナノファイバー。その優れた性質を活かして、さまざまな用途で実用化が始まっている日本発の新材料です。

臨界点乾燥は、含水試料を高度に構造維持しながら乾燥させる方法です。また、臨界点とは、気体と液体が相転移しうる温度・圧力の上限です。含水試料を自然に乾燥すると、水など液体のもつ表面張力により凝集するため、構造が著しく破壊されます。そこで、試料内の液体を臨界点以上にして液体とも気体ともない状態にし、この圧力と温度に保ったまま、瞬時に装置内の圧力を下げて試料を乾燥させるという手順をとります。これにより、表面張力による変形を限りなく防ぎながら試料を乾燥させることができ、走査電子顕微鏡観察に広く利用されている手法です。セルロースナノファイバー研究においては、比表面積測定の前処理としても用いられています。

セルロースナノファイバーって何ですか?

遠藤:シンプルな言い方をすると、植物の組織から取れる、ものすごく小さな繊維のことですね。「鋼鉄の5倍の強度」というキャッチフレーズが話題になって、最近すごく注目されています。

どのくらい小さな繊維なのですか?

遠藤:植物の中でセルロース分子が生合成されるときには、必ずミクロフィブリルというセルロース分子の集合体を形成するのですが、それがセルロースナノファイバーの本体です。だいたい3ナノメートル幅くらいの大きさですね。 この小さな繊維が集まって植物の組織を作っているわけですから、当然ながら、非常に強く結合されていて簡単にはほぐれない。セルロースミクロフィブリルをナノ分散させて、パルプからセルロースナノファイバーを取り出すための手法が、ある程度確立されてきたのが、今から、たった10年前くらいのことです。

少し調べてみると、日用品から化粧品、食品までさまざまな用途で急速に実用化されていますよね。

遠藤:そうですね。でも、ナノファイバーの「コストを下げる」という点においては、まだまだ発展途上です。身近な製品こそ、値段は重要なファクターになりますからね。

製造技術の研究開発において、難しいのはどういった点ですか?

遠藤:一番の問題は、ナノファイバーを作るときに大量の水を必要とする点です。90%以上が水。出来上がったナノファイバーは、必ず水浸しです。そのまま使うこともありますが、分析するとなると、乾燥サンプルがないと難しい。ナノファイバーの一本一本が、いったいどういった構造になっているのか、ということを理解するためには、乾燥しないといけないんです。ライカの臨界点乾燥装置を導入したのも、そのためです。

臨界点乾燥装置を導入する前はどうしていたんですか?

遠藤:最初は凍結乾燥をしていましたが、それでは全く不十分だったので、tert-ブチルアルコール凍結乾燥を 行うようになりました。tert-ブチルアルコール置換をしてから凍結乾燥であれば、ある程度の成果が期待できましたね。でも、私たちは様々な原料からセルロースナノファイバーを作っていますから、サンプルによっては、臨界点乾燥でなければ分析ができないというケースも多くあるんです。

どうして臨界点乾燥でなければならないのでしょうか?

遠藤:食品や化粧品に使用されるセルロースナノファイバーは、非常に細かくて、透明度も粘度も高いんですね。大量の水に分散したナノファイバーをそのまま凍結乾燥させてしまうと、ナノファイバーが強度に凝集してしまい、きれいな繊維状に乾燥することができません。中には、臨界点乾燥装置の効果が発揮されにくいサンプルもありますが、他の手法よりも凝集を抑制する効果が高く、観察や分析に適した乾燥ナノファイバーが得られやすいです。

原料によって、乾燥手法との相性があるということですか?

遠藤:うちでは、パルプの他、スギやもみがら、大豆の皮といった原材料も使用していますが、化学処理を併用してつくったナノファイバーは非常に細く、臨界点乾燥でなければ難しいですね。 河内晩柑の皮から、オーラプテンという物質を多く含んだナノファイバーを取り出すというプロジェクトも進めています。ポンジュースのえひめ飲料から、オーラプテンを多く含むジュースが機能性表示食品として商品化されています。 オーラプテンには、脳の炎症を抑制し記憶力の低下を防ぐ効果があるそうですよ。

さまざまな原材料から作られるセルロースナノファイバー
原材料の展示棚と、CPD300で臨界点乾燥したセルロースナノファイバー(瓶中)。

ジュースにナノファイバーを入れる目的はなんですか?

遠藤:100%ジュースは、動かさずに置いておくと沈殿物ができてしまいますよね。良く振ってから飲むということをすると思います。ナノファイバーは、分散剤として作用するので、ジュースに添加すると、沈殿を起こさないようにすることができます。野菜ジュースなんかにも応用できそうです。

使い方によってさまざまな効果を発揮するんですね

遠藤:化粧水に応用した際は、サラサラでベタつかないのに、とろっとしていて保湿性に優れた商品が出来ます。親油性、親水性どちらもあるので、ファンデーションなどの化粧品にも最適です。プラスチックやゴムの補強用フィラーとして使用されているケースもあります。タイヤやスポーツ・シューズの底といった製品ですね。セルロースナノファイバーは非常に軽くて、丈夫なので。また、従来のガラス系フィラーでは詰まってしまって成形が難しい、特殊な形の精密部品を射出成型するような場合にも、繊維の細かいセルロースナノファイバーが活躍します。

夢の材料と言われるだけあって、良いことだらけですね!

遠藤:「五感に響く技術開発」というのがしたいんですよね。ゴムや樹脂補強であれば、強度に優れているのは当然で、それ以上に、見た目がきれいとか触り心地が良いといったことを追求していきたい。お客さんが商品を選ぶ時っていうのは、最後にはそういうところでグッとくるものがあるかどうかが決め手になるでしょ。顔料、染料なんかも、ナノファイバーを入れると分散性が向上して、すごく色がきれいになるんです。そういうのをどんどんやっていきたい。

これからがとても楽しみですね

遠藤:本当に幅広く、いろんなことをさせてもらえていると思います。企業との共同研究もたくさん始まってます。「セルロースナノファイバー」っていうキーワードでいろんな業種の人と交流できるんです。話しているうちにアイディアがたくさん出てきて、いやあ楽しい!


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臨界点乾燥装置
Leica EM CPD300

花粉、組織、植物、昆虫などの生物試料、工業材料では、MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) のSEM分析の前処理等に最適な臨界点乾燥装置。低CO2 消費量、かつ短い処理時間に有効な新型フィラーコンセプトを開発しました。ソフトウェアによる各種停止機能と廃液分離装置内蔵で安全。様々な試料サイズに対応する、多種類の試料ホルダーをご用意しています。EM CPD300 の製品ページはこちら

臨界点乾燥装置 Leica EM CPD300

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門 セルロース材料グループ 研究グループ長
遠藤貴士さま

植物系バイオマスの主要成分であるセルロースを、物理的・化学的手法により部素材として高度利用するための基盤技術開発を行っている、産総研 中国センターのグループ長。

◆略歴 1992年 (平成4年) 広島大学大学院理学研究科博士課程修了[博士(理学)] 1992年 (平成4年) 通商産業省工業技術院四国工業技術試験所(香川県高松市)入所 2001年 (平成13年)組織改革により独立行政法人産業技術研究所 主任研究員 2005年 (平成17年)同所 バイオマス研究センター(広島県呉市) 水熱・成分分離チーム 研究チーム長 2012年 (平成24年)同所 バイオマスリファイナリー研究センター(広島県東広島市) セルロース利用チーム 研究チーム長 2015年 (平成27年)組織改編により 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 機能化学研究部門 セルロース材料グループ 研究グループ長 同志社大学大学院 客員教授 広島大学大学院 客員教授 現在に至る。

◆専門分野 セルロース化学,高分子化学,天然物有機化学,木材化学

◆研究テーマ ・セルロース等バイオマスの微粒子化技術 ・木質バイオマス系プラスチック複合成形材料 ・バイオエタノール製造のための酵素糖化前処理技術 ・セルロースナノファイバー製造・利活用技術

◆受賞歴等 2000年(平成12年) 科学技術庁第59回注目発明選定 2001年(平成13年) セルロース学会奨励賞 2014年(平成26年) セルロース学会賞

◆学会活動等 ナノセルロースフォーラム副会長,セルロース学会理事・関西支部長, 高分子学会中国四国支部幹事(~2015),木材学会中国四国支部理事, 紙パルプ技術協会木材科学委員,日本木材加工技術協会木材・プラスチック複合材部会研究企画委員

産業技術総合研究所 機能化学研究部門 セルロース材料グループ 研究グループ長 遠藤貴士
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