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インダストリー 2020.11.09

X線マイクロトモグラフィをサポートする実体顕微鏡~試料の「顔」を見極める

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レントゲン撮影やCTスキャンは、健診や検査で誰しもが経験している身近な技術です。この「体を切らずに体内を見る技術」をミクロの世界に応用したら、何が見えるのでしょうか?
今回は、この課題に挑戦したX線イメージングのエキスパート、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室 イメージンググループリーダーの上杉健太朗様にお話を伺いました。

 

放射光とX線マイクロトモグラフィ

まず、上杉様の在籍されるJASRIと、大型放射光施設SPring-8について教えてください。

上杉:高輝度光科学研究センター(JASRI:Japan Synchrotron Radiation Research Institute)は、大型放射光施設SPring-8の利用支援を主な業務としています。
「放射光」とは、光速近くまで加速した電子の進行方向を、磁石によって曲げたときに発生する強力な電磁波のことです。電子をものすごい速度でぐるぐる回して強力な光線(ビームライン)を取り出す、とイメージしていただけばよいでしょうか。

SPring-8の放射光発生概念図(SPring-8のサイト「放射光の原理」より流用)

SPring-8(Super Photon ring-8 GeV:80億電子ボルト)は、世界最高性能の放射光を生み出せる大型施設です。

 

放射光とは、どんな特長を持つのでしょうか。

上杉:「極めて明るく、指向性が強く、広がりにくい」「赤外線からX線までの広い波長領域の光である」「偏光しており、短周期で明滅するパルス光である」などですね。私が利用しているのは、放射光から取り出したX線です。

SPring-8の放射光の波長領域

放射光から取り出したX線は、普通のX線と何が違うのでしょうか。

上杉:簡単に言えば、「ものすごく明るくて絞り込まれたX線」ということです。たとえば顕微鏡でも、倍率を50倍→100倍→200倍と上げていくと、視野内が徐々に暗くなり観察しにくくなるでしょう?これは、観察領域が小さくなるほど、当たる光の量が減ってくるためです。だから、試料に当てる光を明るくして絞り込めば、より微細なものを・より精密に観察できるのです。X線による観察も、まったく同じことです。

 

そのX線を活かした技術が、「X線マイクロトモグラフィ」ということですか。

上杉:皆さんが病院での検査などで受けられるCT(Computed Tomography)スキャンは、放射光ではなく、回転対陰極から発生したX線を使用したコンピュータ断層撮影法であり、人体の連続した断層像が得られます。このCTスキャンに、放射光から取り出した「ものすごく明るくて絞り込まれたX線」を使い、試料を高性能顕微鏡と同じくらい微細に(分解能:数百nm~数μm)、三次元で・非破壊で・内部まで観察できるようにしたものが「X線マイクロトモグラフィ」と考えていただけばよいでしょう。

 

ものすごく微細なものが観察できるCT、というイメージですね。どんな試料を分析なさっているのですか。

上杉:生体組織・金属・工業材料など幅広いですね。

 

X線マイクロトモグラフィの仕組み

SPring-8のX線マイクロトモグラフィは、上杉様のチームがほぼゼロから開発されたそうですが、仕組みを簡単に教えていただけませんか。

上杉:実際にはかなり複雑な装置なのですが、ごく簡単に表すと、この図のようになるでしょうか。放射光から取り出した強力X線を試料に当て、検出した信号をPCで再構成して3D画像にするわけですが、ここで注目していただきたいのは試料が回転していることです。

SPring-8のX線マイクロトモグラフィの仕組み

上杉:皆さんがご存じのCTは、患者(=試料)は横たわったまま、周囲のドーナツ状の装置でX線を360度から当てて断層像を取得しています。しかしX線マイクロトモグラフィでは、放射光から取り出したX線が一方向からしか当てられないので、代わりに試料のほうを回転させながら何百枚もの画像を取得しているわけです。
(※X線マイクロトモグラフィについての詳細は、こちらの動画でもご紹介しています。)

 

この図では、試料はピンのようなものの上に乗って回転しているようですが。

上杉:そうです、試料を細いピンの上に接着して回します。実はこの接着が、結構重要なんです。

 

実体顕微鏡での事前観察により、X線画像の品質が推測できる

なぜ、試料とピンの接着が重要なのですか。

上杉:まず、試料が極小ですから、接着の位置や方向が悪いと、X線マイクロトモグラフィでの撮影に悪影響が起こる可能性があります。また、ピンの位置によって試料の回転軸が決まりますから、位置が変われば取得できる画像も当然変わります。より良い情報を得られるような接着状態であることを確認する必要があるのです。

 

準備作業として、実体顕微鏡による事前観察が欠かせないわけですね。

上杉:そうです、我々はよく「顔」と言うんですけど。実体顕微鏡で試料の「顔」を観察し、試料内に目的の物質がちゃんと存在しているかな、これは壊れやすいな、ここを狙ったらこういう情報が取れそうだな、等々をしっかり見極めて分析プランを立てる。不適切だと判断した試料は、作成し直すか、場合によっては撮影自体を取りやめる。そういう最初の作業によって、X線画像および最終的に得られる3D画像の品質が推測可能になるのです。

実体顕微鏡 ライカM205 Cによる観察の様子

探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」から持ち帰ったサンプルも、こちらで分析なさったとか。

上杉:「イトカワ」のサンプルは、約50μmと非常に小さいものでした。それを直径約5μmのガラスファイバーに樹脂で接着された試料が、SPring-8へ移送されてきたわけです。試料の開封時には私も立ち会っていましたが、それは緊張感あふれる瞬間でしたね。実体顕微鏡で確認して、移送中の破損や異常の発生がないことが分かったときは、ほっとしました。

 

何か、実際の試料の観察画像を拝見できませんでしょうか。

上杉:では、化石化したタイコケイソウ(珪藻の一種、小太鼓のような形状)の画像をご紹介しましょう。まずM205 Cで、全体の「顔」を観察しています。試料の直径が約50μmであること、試料の側面付近がガラスファイバーにしっかり接着されていること、等が分かります。この試料を分解能200nmくらいの条件でX線マイクロトモグラフィ撮影し、簡単な画像処理後に3D動画にしました。試料の厚みや表面の状態など、微細な部分までダイナミックにご覧いただけるかと思います。

タイコケイソウの画像。左)実体顕微鏡 ライカM205 Cによる画像。右)X線マイクロトモグラフィで撮影・解析した3D動画。

M205 Cなら、試料の全体像を立体的に把握できる

ライカの実体顕微鏡M205 Cをお選びいただいた理由は何でしょうか。

上杉:実体顕微鏡の導入時には、同じ試料で何社か比較したのですが、M205 Cの画像が一番きれいで、思わず「おお!」と感心するくらいでした。
そして何といっても、試料の全体像を立体的に捉えられることが最大のポイントでした。FusionOpticsのおかげで、何というか「両目をうまく使えている」感じを受ける。フォーカスをずらしながら試料の奥行きをちょっとずつ探っていく、みたいな時間のかかる作業が不要で、一発でパンッと立体視できるのがいいですね。「ぱっと見えるエリアが広い」ことが、全体像の掴みやすさにつながっていると思います。

 

弊社のFusionOpticsテクノロジーを評価いただいたということですね。ありがとうございます。

見えないと、何も始まらない

上杉様にとって、イメージングとは何でしょうか。

上杉:「あらゆる研究のベース」かな。見ることが最初にあり、見えた結果が、その先の拡張分析のクオリティや効率を左右する。「見えないと、何も始まらない」ということです。今後も、ライカの実体顕微鏡やSPring-8のX線マイクロトモグラフィを活用して、未知の世界をイメージングしていきたいですね。

 

未知の世界のイメージング、ワクワクします。

上杉:はい、2020年末に地球帰還予定の「はやぶさ2」が持ち帰る「リュウグウ」のサンプルも、この施設で分析することになると思います。今から楽しみですね。

 


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実体顕微鏡
Leica M205 C

ライカ M205 Cは、高解像と深い焦点深度を両立させる『FusionOptics™』搭載の、全く新しい実体顕微鏡です。20.5X ズームで、1×対物レンズを使用して7.8倍~160倍、2×対物レンズでは最大320倍までの観察が可能に。高倍率域においても、実体顕微鏡ならではの立体感あふれるイメージを実現します。広い作業スペースや堅牢性の高いシステムなど、安心・快適な作業環境を提供します。

実体顕微鏡 M205 C

高輝度光科学研究センター(JASRI)
上杉 健太朗 様

公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI)
放射光利用研究基盤センター 分光・イメージング推進室
主席研究員(イメージンググループグループリーダー)

※写真は上杉チームが開発した、X線マイクロトモグラフィ実験装置。

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