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植物細胞の小さなオルガネラを見る ~共焦点顕微鏡STELLARISと植物ミトコンドリア~
ライフサイエンス 2022.06.21

植物細胞の小さなオルガネラを見る ~共焦点顕微鏡STELLARISと植物ミトコンドリア~

植物ミトコンドリアをご研究のテーマにされている、東京大学大学院農学生命科学研究科 植物分子遺伝学研究室の准教授 有村 慎一様、同 助教 髙梨 秀樹様、同 修士課程2年(インタビュー当時) 綾部 弘基様にお話を伺いました。

 

これまでに使った共焦点顕微鏡

これまでお使いだった機種について教えていただけますか。

有村:当研究室では以前から共焦点レーザー顕微鏡を使って研究しており、12年前にも機材を更新しました。12年前の更新の際に選んだのは、スペクトルイメージングができるようになった最初の頃の機種でした。ただ、その頃のスペクトルイメージングはまだそれほど性能が良くなく、いろいろと工夫が必要で、結局あまり活用できませんでしたね。最終的には、一番良く使うGFPやクロロフィルに合わせて、自分の好きな組み合わせだけフィルターセットを完璧にカスタマイズして、我々の専用機という形で使っていました。

その状態で10年ほど快適に使っていたわけですが、2年前にその機種が壊れてしまい、その後は代替部品をつないで何とかしのぐという苦しい状況でした。そういった状況の中、最近になって幸運にもまとまった予算が取れたこともあり(他の予算との合算も行なってですが)、満を持して共焦点顕微鏡を更新することになりました。

 

機種選定のポイント

新しい共焦点顕微鏡の選定は、どのように進めたのですか。

有村:4機種を比較検討しました。まあ10年経つと流石に大分違うなと、楽しく比較させて頂きました。自分が観察しそうなサンプルを持ちこんで、それぞれ2回ずつは試させてもらいました。ライカさんに決めた理由としては、励起レーザー、検出器ともに非常に自由度が高かったことが大きいですね。

 

他のメーカーでも検出器に自由度のある機種がありますが、ライカにアドバンテージがあると判断なさった決め手はありますか。

有村:検出器を3つ、もしくは4つに増やして、かつ全ての波長を自由に選べるのは確かライカさんだけだったと記憶しています。

 

そのとおりです。どの検出器でもお好きな波長を選んでいただけるところを評価していただけたのですね。他にも何か気に入った点などありましたか。

有村:いいなと思ったのはローリングのタイリング(Navigator機能)ですね。ああいった普段の使い勝手を左右する機能があるかないかは、実際に使い出すとすごく響いてくるんですよね。

 

STELLARISの使用感

STELLARISの使用感はいかがでしょうか。

有村:STELLARISを選んだのは私なのですが、私自身、最近は顕微鏡を使用しない研究に注力していますので、使い勝手に関してはよく実機を使用している髙梨先生と綾部君の方から話してもらいますね。

 

髙梨先生、STELLARISをお使いいただいて、いかがでしょうか。

髙梨:私は、最近はGFPなどに限らず、いろいろな蛍光試薬を使って観察をしています。当然蛍光試薬ごとに励起と検出のための最適な波長が異なりますが、以前の機種では励起レーザーと検出器が固定でしたから、多くの場合、ベストではない組み合わせで観察せざるを得なかったわけです。それが今回のSTELLARISでは「今日はここに励起を持ってこよう」とか、「検出はこの範囲にしよう」とか、そういった調整が自由に、しかも一瞬でできるので大変助かっています。他にも、例えばサンプルが強く染まりすぎてレーザーパワーを最弱にしてもサチュレーションしてしまうようなことがあるのですが、そういうときには、検出範囲をあえて本来の蛍光ピークから少し離して設定することでサチュレーションを解消するなど、以前の機種では考えられないようなフレキシブルな対応ができるのはありがたいですね。

 

綾部様は、お使いいただいていかがでしょうか。

綾部:画像の抜け感というか、ブラックで何もないところと、光っているものとの対比がきれいに撮れるのはすごくいいなと思っています。おかげで以前は撮り切れなかったような弱いシグナルのサンプルでも撮影できています。

 

ありがとうございます。STELLARISのHyD Sという検出器は、シグナルがないところが完全に黒になるという特長があります。ちょっとでもバックがあれば「サンプル由来のシグナルですよ」っていうのが言い切れる検出器なんです。これは他社にはない、ライカだけの機能になります。

 

使いやすさを実感する場面

撮影をされるときに、便利だなと感じるところはありますか。

綾部:実験ごとに撮り方を切り替えながら効率的に撮影できるところがいいですね。1枚を撮るスピードが速いのもそうですが、操作性がいいので短時間でたくさん撮影できるという効率の良さがいいですね。

髙梨:「これは昔の機種だったら大変だな」と思うのは、XYZ座標を指定して経時的に撮影するような場面ですね。この前、パーティクルガンを使ったGFPの一過的発現を観察したのですが、手法的にGFPが発現する細胞はかなりバラついて点在しているわけです。こういった点在している数十か所の細胞に対して、Navigator上で座標を選んでそれぞれZスタックの設定をして、かつ1時間おきに撮影する、などという設定が簡単にできることにはかなり驚きました。

 

以前はどういうふうにされていたんですか。

髙梨:それほどたくさんはできませんが、気合で張りついてマニュアルで撮り続ける、とか…

有村:というよりそれができないから、前の顕微鏡だとそもそもそういう撮影を諦めていたところはありました。以前の機種はXY座標を設定できるような電動ステージになっていなかったんですよね。私がやったときは細胞の形などの特徴で対象を憶えていました。それで分ごとに巡回して撮影したりして。

 

その場所に手で位置合わせして、タイムラプスを繰り返し撮影されていたのですか。

有村:そうですね。もちろん視野は完全には合いませんが、ちょっと画角を大きめに撮っておいて、あとでクロップして合わせて、という感じでやっていました。

 

それは、素晴らしい職人技だと思います。

有村:なかなか辛い作業なので、全員にそれをやれとはとても言えないですからね。STELLARISのおかげで、誰でも簡単に多点タイムラプス撮影ができるようになったのは何よりでした。

 

植物を相手にすることの難しさ

髙梨:ただ、植物の組織を観察するというのは、カバーガラスに張り付いているような培養細胞にはない難しさがありますね。XYZ座標を指定してAFC(アダプティブフォーカスコントロール)でフォーカスを合わせて自動で撮影する設定にしても、長時間撮影を続けているとサンプルの方が動いてしまってピントが合わなくなってくることがあります。一晩撮影して翌朝動画にして見てみると、だんだんピントがずれて最終的に撮影対象がいなくなってしまうという感じです。

 

AFCはカバーガラスからの距離を見るので、カバーガラスからのサンプルの位置が変わると、確かにずれてしまいます。

髙梨:乾燥対策もそうですが、サンプルを上から優しくカバーガラスに押し付け続けるとか、何か工夫しないといけないですね。それが無理なら…徹夜してマニュアルでZ軸を調整し続けるとか。

 

大変ですね…。厚めにZスタックを撮っておくにしても、露光が多くなりすぎたり、容量が増えたりしますしね。

有村:この辺り、植物を扱うことによる難しさがありますね。当研究室でよく使っているのはシロイヌナズナという植物なのですが、比較的観察しやすいのは双葉で、1つが2~3ミリメートルくらいかな。例えばそれをスライドガラスとカバーガラスの間に挟んで、間を水で満たして観察するんですね。

カバーガラスに対象細胞をなるべく寄せて、押さえるように、ただし潰さないようにさっとスライドを作ります。これがパーティクルガンで使うような本葉だと、葉の表面にとげ(トライコーム)が生えていたり、表面がデコボコしていたりするんです。このとげは巨大でしかもタフな細胞で、こういうものがカバーガラスを支えてしまうと、観察したい細胞とカバーガラスの距離というか、対物レンズとの距離がどうしても遠くなってしまいます。しかも葉には弾力性があってもとの形に戻ろうとしますし、水分条件によっても形が変わっていくわけです。観察しているうちに対象細胞の位置が1ミリくらい大きくずれることもあります。

左:実験に良く使うモデル植物・シロイヌナズナ。上段は発芽後5日の幼植物体、下段は生殖成長期に入った植物体。
右:STELLARISを用いて撮影したシロイヌナズナの本葉表皮細胞におけるミトコンドリア(マゼンタ)とアクチン繊維(緑)の様子。

そもそも、パーティクルガン法というのはランダムに当たりが出るような手法なので、例えば1,000細胞中で1個くらいしか形質転換されていないような細胞が、デコボコした葉の中でたまたまカバーガラスに接するベストな位置にある確率は…と考えると、まあかなり低いですよね。

 

もともと低い確率でしか観察できない細胞が、時間経過とともに、ずれていってしまうのですね。

有村:器官としては巨大で、良く見ると表面がデコボコしている植物相手にもかかわらず、我々はオルガネラの研究をしていて、その中でも小さいほうのミトコンドリアを研究対象にしているわけです。葉緑体は巨大(ミトコンドリアの10倍くらい)なのでまだ観察しやすいのですが、ミトコンドリアは1マイクロメートルくらいと小さな構造なので、観察対象の細胞が相当カバ―ガラスの近くにいないと良い絵が撮れないのです。

そのうえ、植物のミトコンドリアは細胞内でビュンビュン動いており、そのスピードは動物のミトコンドリアの10倍程度とかなり高速なんですよ。ピントを合わせて、かつ、ぶれないように撮影するためには、やはり検出感度が高くないとだめなんです。ゆっくりスキャンしてはいられないものですから。

 

早いスキャンと検出感度が、ご研究のためには必要不可欠ということですね。

 

STELLARISのここがおすすめ

ほかの研究者の方とSTELLARISについて話すことはありますか。

有村:植物のカルシウムセンサーを使って速い反応を観察している研究者が、ミリ秒でかつ綺麗な立体像を撮りたいということで、いろいろ話をしたことがあります。速いものを撮るというところで、ライカさんともう1社が残って、でも最終的にやっぱりSTELLARISがいいかなという感じになっていきましたね。

 

髙梨先生、ほかのご研究者の方におすすめいただけそうでしょうか。

髙梨:はい、予算次第ですが、もちろんおすすめすると思います。

 

綾部様はいかがでしょうか。

綾部:やはり綺麗な画像が撮れるというのは、誰にでも受ける気がします。専門外の人にも面白いと思ってもらえるような画像が撮れるのは大きなメリットなので、おすすめですね。

 

ありがとうございます。STELLARISは、感度や抜けの良さだけでなく、SN比が高いことも魅力なんです。ノイズがすごく少ないので、シグナルがあるところだけが際立って見えて、シグナルが微弱でも見やすく、きれいな画像が撮れるのが自慢です。

有村:僕が欲しかった機能はあの「くるくる」ですね、コントロールパネル。あれに自分の好きな機能を割り振って使えるというのは、いつか欲しいなと思っていたんです。実際に使ってみてどうですか、綾部君。

綾部:私は画角のアングルと、あとはZポジションの2つを割り当てて使っています。直感的に操作がしやすくなるので、すごく助かっています。

 

実際にお使いいただいている先生方から、STELLARISがご研究のお役に立てているんだということを直接お伺いすることができ、とても嬉しく思います。ありがとうございました。

 

東京大学大学院農学生命科学研究科
有村 慎一 様

東京大学大学院農学生命科学研究科
植物分子遺伝学研究室
准教授

 

東京大学大学院農学生命科学研究科
髙梨 秀樹 様

東京大学大学院農学生命科学研究科
植物分子遺伝学研究室
助教

 

東京大学大学院農学生命科学研究科
綾部 弘基 様

東京大学大学院農学生命科学研究科
植物分子遺伝学研究室
修士課程2年(インタビュー当時)

 

共焦点顕微鏡
STELLARIS

これまでの限界を超え、これまで見えていなかったものを明らかにする共焦点顕微鏡プラットフォームSTELLARIS
Power HyD検出器と白色光レーザーの相乗効果による高い「能力」、独自のイメージングツールTauSenseにより新次元の情報を探索する「可能性」、スマートなインターフェースImageCompassがもたらす「生産性」を兼ね備えています。

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