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ライフサイエンス 2022.01.04

生き物が環境の変化を感じる不思議を追う

雪に触れると冷たく感じ、湯船に手を入れると温かく感じる、私たちは常に身の回りの環境の変化を感じとって、快適な環境を選びながら生活しています。その「感覚」の研究に、今年は注目が集まりました。
2021年のノーベル医学・生理学賞の受賞研究は、米カリフォルニア大サンフランシスコ校のデビッド・ジュリアス教授と、米スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン教授の「温度と触覚の受容体の発見」でした。
いま話題の分野である「感覚」について研究されている、自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門(生命創成探究センター 温度生物学研究グループ兼任) 曽我部 隆彰様にお話を伺いました。

 

生きるうえで「感じる」ことの大切さ

これまでのご研究内容について教えてください。

曽我部:2010年までは、マウスなどの哺乳類TRPチャネルの機能に関する研究が中心でした。2010年以降は、ショウジョウバエを使って環境刺激応答のメカニズムを解析しています。自分でも気づいていなかったんですが、振り返ると大学院生の頃からずっと感覚や刺激応答に関する分野で研究してきました。はじめに何らかの情報が外部から入ってきて、体の中がどう変わり、どう応答するかという生体システムの研究ですね。これまで多方面からアプローチしながら、行動につながる感覚受容にフォーカスして研究を進めてきました。

 

感覚に関する領域をご研究のテーマにされている理由は何ですか。

曽我部:刺激に対して体が正しく反応するということはとても大事なことだと考えているからです。逆に言うと、感じないということは、すごく危険なことなんです。有害なものであっても何も感じられないということですから。それでは生きていくことができません。感じるということは、生きることそのものだと思います。だから、環境刺激を最初に受け取る感覚機能に強い興味を持ちました。

感覚というのは生物のすごく根源的な機能で、単細胞生物でも感覚は必要ですし、生物が生きていく上で極めて大事です。感覚機能に関する研究は、日本ではあまり主流ではないかもしれませんが、生物が自分のまわりの世界をどうやって捉えているのかを明らかにするとても興味深い分野です。

 

研究を始めたばかりの若手の方々にぜひ知ってもらいたいことはありますか。

曽我部:自分自身が面白いと思えることを貪欲に見つけてもらいたいです。今、こんなものが流行っているから自分もやる、というのではなくて、自分が見聞きした研究から自分が面白いと感じた部分を抜き出す。それが積み重なっていって、自分のやりたいテーマになっていくんだと思います。何であれ、自分がピン!ときたもの、そういう直感はすごく大事にしてほしいです。

研究を行う上で大事になってくるのは、独自性とかユニークな考え方だと思います。人が全然やってない、あるいは気付いてない、それほど人がいないようなマイナーな研究にも面白いことはたくさん転がっているけれど、先行知見も人も少ない分野に足を踏み入れて行くのは怖いですよね。でも自分が面白いと感じたことなら踏ん張れるし、そこから独自の研究が生まれる。自分でいろいろ考えなきゃいけないけれど、その結果として見つかってくるものに研究の本当の面白味があるんじゃないかな、と思います。

 

刺激の伝達にはどんな分子が働いているのだろう

曽我部様の現在のご研究内容を教えていただけますか。

曽我部:ショウジョウバエをモデルに、環境温度の変化などの物理的な刺激に対する応答や、侵害的な刺激に対する応答の仕組みを調べています。

研究の始まりは、対象にしているモデル生物が周りの環境条件を変えたときにどのような応答を示すかという行動実験から入ります。その応答に関わる感覚入力の部分が研究の中心になっていて、どの神経が働いているか、さらにその中でどういう受容体や分子が働いているのか、そういう風にどんどん落とし込んでいきます。その分子の働きを観察するために、カルシウムイメージングを行っています。具体的には、ショウジョウバエの神経を摘出し、GCaMPでラベルされた神経に温度刺激を加えて応答を観察する、といったような実験をしています。

ショウジョウバエ中枢のTRPA1陽性神経細胞。GCaMPを発現させてリガンドで刺激を与えた。
上段;従来の蛍光画像、下段;THUNDER画像。左列;薬剤刺激前、右列;薬剤刺激後。

カルシウムイメージングでとらえたいイオンの変動はどのくらいでしょうか。

曽我部:カルシウムは変化量の多いダイナミックな変動をします。無刺激の生細胞内では低く抑えられているので、上がるときは1桁2桁ぐらい濃度が変わります。しかし、その変わり始めや局所的な変化を見ようとしたとき、データとして取れるか取れないかというのは、どんなイメージングシステムを使うかによるところが大きいです。カメラの感度が良ければ良いほど、フレームレートが速ければ速いほど、小さな変化から捉えることができますね。

 

モデル生物にショウジョウバエを選ぶのはどうしてでしょうか。

曽我部:行動実験を行ったときに、温度変化に対する好き嫌いといった応答が見やすいのです。モデル生物としてはマウスなどの齧歯類がよく用いられるのですが、自身の体温を持つ内温動物というのは、環境温度の変化に対する応答がとても複雑です。それに対して変温動物は、体温がほぼ環境温度と等しくなる、つまり体温が環境にすごく左右される生き物なので、ちょっとした温度変化にとても敏感なのです。その中でもショウジョウバエは研究の歴史の中で長く利用されてきたので、ノウハウが蓄積された非常に扱いやすいモデル生物の1つです。しかも哺乳類と同等の感覚機能を持っているので、研究成果がヒトにも適用できる可能性があります。

ショウジョウバエは人と同等の感覚機能を持ち、温度変化に対する行動を観察しやすい。
400系統以上のショウジョウバエがバイアルごとに分かれて飼育されている。

新しい顕微鏡に欲しかった条件

新しい顕微鏡の検討条件にはどのようなことがありましたか。

曽我部:まずは、明るい画像が撮れること、操作が簡単で安定したシステムであること、高速に経時変化を捉えられることなどを、条件として考えていました。明るい画像を撮るためには、対物レンズの性能やカメラの感度が条件を満たしているか、こういった点も検討しました。ソフトウェアについては、誰でも習得しやすく、かつ、丁度良い自由度のあるものを求めていました。

 

新しい顕微鏡を操作するソフトウェアには、どのようなことをお求めでしたか。

曽我部:なかなか説明が難しいところではあるのですが、自分の用途に適した設定ができるかということが大事でした。万人向けにはシンプルな方が良いですが、自分向けのマニアックな設定も必要です。かと言って、あまりにたくさんの機能があると操作の習得が難しくなり、ソフトウェアを十分にわかってないと使えないということになります。一概に自由度が高いことが良いとも言えないのが、難しいところでもあります。

ライカのLAS Xというソフトウェアは、バランスが良いなと思いました。インターフェースの自由度はそれほど高く無く、配置もある程度決まっていますね。一方で、突っ込んだことをしたい場合には、個人ではちょっと無理なレベルであっても、ライカのスタッフの方に「こういうことができないだろうか?」と相談すれば、高度な設定の裏側までしっかりわかってらっしゃる方が一緒になって問題解決に付き合ってくれます。必要なときに適切なフォローをしてもらうことで使いやすくなるんです。そこが良いなと感じています。

 

新しい顕微鏡の検討で、特にフォーカスしたポイントはありましたか。

曽我部:今回の検討機器は正立顕微鏡タイプでしたので、対物レンズによってステージ上のワーキングスペースに制限があります。その空間の確保が重要なポイントでした。我々の研究では温度刺激の応答を取りたいので、温度プローブなどをサンプルのすぐ近くに設置するわけですね。その場合、スペースはあった方が実験しやすいのでそこにも注目しました。

それと、もともと私が行ってきた研究では、それほど電動に馴染んでこなかったので、手動で良いと思っていました。故障のリスクを回避したいというのもありましたし、マニュアルの方が直感的に操作しやすい面も多かったので。手で動かしていた部分を電動化する必要性は、無さそうにも思っていました。一方で、電動の良い点は、ソフトウェアとの連動が自動で取れるということになりますね。どの選択肢が自分たちの実験に向いているのか、見極めはチームメンバーと意見交換しながら慎重に行いました。

 

新しい顕微鏡の購入にあたって、価格についてはどう思われましたか。

曽我部:ライカは高いイメージです。高いけど、製品をいろいろ見ていると、「面白いな」「ユニークだな」と思うものが多いですね。機能的にライカじゃないとできないことが多いので、価格のことがあっても気になります。

 

新しい顕微鏡を検討する中で、最も効率の良かった情報収集方法は何ですか。

曽我部:顕微鏡にはいろいろ高度な機能がありますが、それが我々に本当に合っているかという総合的な判断は、実際に試してみながらメーカーの方とお話ししないとわからないですね。どんなにスペックが良かったとしても、我々が撮りたいものが撮れるかどうかは、話を直接聞かないと判断できません。そんな中で、デモンストレーションしていただいたときの話は、とても価値の高い情報でした。デモ後も、我々の要望に顕微鏡がどの程度応えられるか、数字を使って示してもらえました。判断材料というのは、圧倒的に実際のコミュニケーションの中にあると感じます。

 

THUNDERを選んだ理由

THUNDERが候補に挙がったきっかけを教えてください。

曽我部:はじめは、もう少しベーシックな顕微鏡を求めていたんです。でも、デモンストレーションで実際に我々のサンプルをTHUNDERで見たときに、「これは面白いね」ということになりました。

 

THUNDERをご覧になって、特に評価できた部分はどこですか。

曽我部:厚みのあるサンプルなどで共焦点顕微鏡に近い画像が撮れることや、ワンクリックするだけで画像からバックグラウンドを引いたカルシウムシグナルを見ることができる点が、実用性が高いと思いました。タイムラプスイメージングをしている我々にとって、定量性というのがすごく大事なのですが、うまいこと定量性を失わずにバックグラウンドを引いているということもわかりました。

 

THUNDERの使用感

THUNDERを導入していただき、使ってみていかがでしたか。

曽我部:既存の顕微鏡では、厚みのあるサンプルの強い自家蛍光に紛れて、カルシウムイオンの濃度変化のデータが十分に取りきれないということがあったのですが、その点がかなり改善されたと感じています。それから、以前は温度刺激をするとガラスが歪んでZ方向にずれてしまうことがよくあったのですが、オートフォーカス機能でZ方向のズレに追随することができるので、刺激中も焦点面を見失わずに定量化が可能になりました。ここは電動化の恩恵を感じています。

何より、めちゃくちゃ簡単なんだなっていうのがありますね。複雑なパラメータを設定する必要なく、ワンクリックで定量性を保ったきれいな画像を出力してくれますから。共焦点顕微鏡を購入するより低予算で、かつワイドフィールドで共焦点顕微鏡に近い画像やZスタックを撮れるところがいいですね。ライカにしかないユニークな機能です。

それに、システム全体として開発されているところが安心です。エラーがたとえ出たとしても、スタッフの方に聞くと答えが明解で原因がわかりやすいです。心理的な安心感があるのと、いざというときの対応が早くてとても助かっています。

 

自然科学研究機構 生理学研究所
曽我部 隆彰 様

自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門
(生命創成探究センター 温度生物学研究グループ兼任)
准教授

※上記はインタビュー時のご所属・お役職です

 

蛍光顕微鏡のニューノーマル
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蛍光顕微鏡で画像を取得する際に発生してしまう、蛍光「ボケ」を徹底的に取り除き、驚くほどシャープでクリアな画像を得ることができる最新鋭の蛍光イメージングシステムTHUNDERイメージャー。複雑な挙動を示す生体サンプルの蛍光ボケさえも、リアルタイムに分離・除去します。培養細胞からモデル生物まで、幅広いサンプルを「超」高精細に観察することができ、これまでのソフトウェアやハードウェアよりもアーティファクトの無い画像を素早く、簡単に取得できるのが特徴です。

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