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ライフサイエンス 2021.12.14

ウイルスのシンプルで洗練された生き様に魅せられて

 

コロナ禍にあって「ウイルス」という言葉を聞かない日はありませんが、植物に感染するウイルスへの注目は足りていないかもしれません。植物ウイルスの、シンプルだけれども驚くほど高機能なしくみを研究されている、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 上級研究員の石橋 和大様にお話を伺いました。

 

植物ウイルス研究の魅力

植物ウイルス研究のここが面白い、興味深いと、感じておられるところを教えてください。

石橋:ウイルスは、生物というには単純なものですけれど、自分の子孫を残すことに機能を特化し、その部分がすごく洗練されています。小さいゲノムの中に、いろんな情報をギュッと詰め込んで、とても多くのことをしてるのです。

ヒトのゲノムは2000年を少し過ぎたくらいにやっと解読されましたが、植物ウイルスのゲノムは1980年代前半より次々に解読されていました。植物ウイルスの遺伝子を思うように操作することも、1980年代半ばぐらいから可能でした。そういう意味で、植物ウイルスの研究は、生物学の先端に位置しています。ただ、ゲノムが解読され、操作できるようになって40年近く経ちますが、まだまだわからないことがたくさんあります。

私の研究している植物ウイルスは、ゲノムが小さく6キロベースぐらいしかないウイルスです。その小さいゲノムでは、同じ部分がRNA翻訳と複製など複数の役割を担っていることがあります。この部分はこれ、この部分はこれ、と1対1で対応してないんですね。たとえば、1本のmRNAがまず翻訳されてタンパク質ができて、そのタンパク質が自身を作り出したmRNAの翻訳に重要な領域にくっつくことによって新たな翻訳が阻害され、今度は同じRNAが複製の鋳型として働くようになるという一連の流れがあります。マシンとして、すごくよくできていますね。

 

すごいですね。1つのmRNAがいろいろな役割を果たすのですね。

石橋:そうですね。粘土のように可塑性があるというか、自分の形を表現するのです。ウイルスがコードするタンパク質も複数の機能を持っていることがよくあります。ある機能で働くときはこういう構造をとっているんだけども、構造変化が起こり、同じアミノ酸配列のまま別の役割で働くというようにです。

 

植物ウイルスについて、生物学を勉強する大学生や高校生にぜひ知ってもらいたいことはありますか?

石橋:植物ウイルスのことをあまり聞いたことがない人もいるかもしれません。実は1番最初に発見されたウイルスは、植物のウイルスなんです。19世紀の終わりぐらいに、タバコに感染するウイルスが発見されたのが最初です。

健康なタバコの葉(左)とウイルスに感染したタバコの葉(右)。

もっと遡ると、万葉集に植物のウイルス病についての記述があるという話があります。夏なのに葉っぱが黄色くなっているよ、という歌が万葉集の中にあるんですね。これはウイルスに感染して葉が黄色くなってしまった様子を観察したんじゃないかと言われています。もちろん当時の人はそんなことを知らないで詩を詠んでるのですけれども、実は昔から植物のウイルス病というのは身近なところにあったのです。

 

若手の研究者の皆さんに向けて、植物ウイルス研究の魅力を教えてください。

石橋:現在、塩基配列や代謝産物などの大規模解析など、複雑系というか、大量にデータを取って、全体としての動きやネットワークなどを研究するのが盛んだと感じています。このような研究もすごくいいものだと思いますが、私は1つ1つのものがどう動いているのかをじっくり見ることに興味があります。植物ウイルスを研究する理由のひとつはそこにあります。

ヒトの遺伝子は3万個ほどありますが、植物ウイルスの遺伝子は数個程度です。それでもまだまだわからないことがたくさんありますが、がんばれば手が届きそうなところがウイルス研究の魅力です。

生命のすべてを理解することは難しいかもしれないけれど、格段にシンプルなウイルスだったら、あるいは可能かもしれません。シンプルだからこそ洗練されたシステムに驚かされることもあります。そこに楽しさや興味深さを感じます。

 

植物の中でウイルスはどうやって増えているのだろう?

石橋様のご研究内容を具体的に教えていただけますか。

石橋:植物の中でウイルスがどうやって増えているのか、一方植物はウイルスの感染をどのように防ごうとしているのか知りたいと考えています。また、ウイルスを遺伝子発現ベクターとして利用する研究も行っています。

葉組織の中でウイルスは最初に1つの細胞に感染し、その中で増えて隣の細胞に移る、その連鎖でワッと広がっていく様子を、蛍光タンパク質を使って観察することができます。このようにして簡便にウイルス感染細胞を可視化することができると、ウイルス感染過程の時空間的な解析が可能になります。また、ウイルスが宿主細胞を乗っ取ってどのように増殖しているのか、ウイルスタンパク質の細胞内局在解析なども行っています。

左から右へ、ウイルス感染細胞が広がる様子。蛍光タンパク質の発現により観察。

導入のきっかけ

THUNDERイメージャーを導入される前は、弊社の共焦点顕微鏡 TCS SP5をご利用いただいていました。どのような懸念事項があったでしょうか。

石橋:共焦点顕微鏡の使用期間が長くなっていたということもありますが、サンプルを観察する中で懸念事項が出ていました。多検体を観察するときに、共焦点顕微鏡は所要時間が長くなってしまうことがひとつです。実際には共焦点クラスの解像度は不要だったため、気になっていました。また、葉組織の観察ではZスタック画像を取得することが多いため、ポイントスキャンで、こちらも時間がかかることが問題でした。葉組織の厚みによる複雑な形状が理由で蛍光ムラが出やすいことや、均質なデータが得られにくいことなども改善したいと考えていました。

 

新しい顕微鏡の検討条件にはどのようなことがありましたか。

石橋:まずは、購入価格ですね。それから操作が簡単であることは大事です。さらに画像解析を可能とするような明るい画像が得られることも重要だと考えていました。

 

新しい顕微鏡の候補には、共焦点顕微鏡もあったでしょうか。

石橋:共焦点顕微鏡も候補にありましたが、やはり購入価格の面でTHUNDERイメージャーに軍配が上がりました。画像解析に回すときのデータの定量性という点では魅力があったのですが。THUNDERイメージャーにも定量解析はありますね。ただ、今のところ定量解析までは行っていないです。

 

THUNDERイメージャーのカタログをご覧になって、どのような印象を持ちましたか。

石橋:正直、最初は「本当?」みたいな気持ちがありました。すごくきれいな写真が掲載されているので、「きれいすぎやしないか?」と思いました。職人技でうまく撮れているだけではないかと。でも、「本当にこうなるならすごくいいね」と、研究室の中で話していました。

 

THUNDERイメージャーの使用感

THUNDERイメージャーを導入していただき、使ってみていかがでしたか。

石橋:葉組織の観察が楽になりました。Zスタックであっても、THUNDERイメージャーであれば面で撮ってくるだけで完結します。Computational Clearingがほぼリアルタイムで出ているので、時間短縮につながっていますね。それだけでなく、はっきりとデータの質が上がったと感じています。

 

使い始めは不安を感じていらっしゃいましたか。

石橋:最初に感じていた不安は、自分1人で何回か観察をして、思ったような観察ができるようになったときに払拭しました。操作に慣れてきてルーチンができてくると大丈夫ですね。

 

THUNDERイメージャーで気に入っていただいた部分はどんなところですか。

石橋:単純にきれいな画像が得られるというのが、それだけでうれしいことだなと思いますね。今まで不鮮明だったタンパク質の局在が明らかになることもありました。見違えるほどきれいになります。

論文に画像を載せるのに、きれいな画像が得られるとうれしいです。データがきれいだと説得力も変わってくるし、何より自信をもって公表できるようになるので。

 

農業・食品産業技術総合研究機構
石橋 和大 様

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
生物機能利用研究部門
上級研究員

※上記はインタビュー時のご所属・お役職です

 

蛍光顕微鏡のニューノーマル
THUNDERイメージャー

蛍光顕微鏡で画像を取得する際に発生してしまう、蛍光「ボケ」を徹底的に取り除き、驚くほどシャープでクリアな画像を得ることができる最新鋭の蛍光イメージングシステムTHUNDERイメージャー。複雑な挙動を示す生体サンプルの蛍光ボケさえも、リアルタイムに分離・除去します。培養細胞からモデル生物まで、幅広いサンプルを「超」高精細に観察することができ、これまでのソフトウェアやハードウェアよりもアーティファクトの無い画像を素早く、簡単に取得できるのが特徴です。

蛍光顕微鏡のニューノーマル THUNDERイメージャー

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