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マルチウェルでもスライドでも、「時間」と「画質」のトレードオフをTHUNDERで解消
ライフサイエンス 2022.05.30

マルチウェルでもスライドでも、「時間」と「画質」のトレードオフをTHUNDERで解消

 

地球上のあらゆる生物の中で、最も脳が発達している「ヒト」。しかしその反面、ヒトはさまざまな脳神経疾患に苦しんでいます。

今回は、脳神経の機能を調節するタンパク質の同定と機能解析によって、脳神経疾患に対する創薬への応用を目指す、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 脳機能調節因子研究グループ 研究グループ長の波平 昌一様(写真左)、および同グループ 主任研究員の室冨 和俊様(写真右)にお話を伺いました。

 

脳の高次機能の解明と、創薬開発を目指す

最初に、研究の概要について教えてください。

波平:脳は、思考・意志・認知・知覚・記憶・学習・判断・言語などの高次機能を備えています。この高次機能を司るのが脳神経です。
我々の研究グループでは、脳神経の発生や機能発現に重要な役割を担っているタンパク質・シグナル分子・生理活性ペプチドなどの研究を行っています。さらに、その研究結果を活用して、脳神経疾患の治療のための創薬開発に貢献することを目指しています。

 

具体的には、どのような実験や解析をなさっているのでしょうか。

波平:一例では、脳神経系の細胞を作り出す神経幹細胞から神経細胞(ニューロン)への分化を誘導する薬剤を調べる、といった研究があります。この場合、薬剤の種類に加えて、濃度依存性という因子も重要ですから、どの濃度が分化に最も効果的であるかを調べる必要があります。
神経幹細胞に限らず、細胞死や、神経突起の伸長を促す薬剤についても、濃度依存性の研究は重要です。

 

「時間」と「画質」のトレードオフ

なるほど、さまざまな薬剤濃度で、細胞の反応を調べる必要があるのですね。

波平:はい、ですので、顕微鏡で観察すべきサンプル数が非常に多いのです。濃度依存性を調べるには時間と労力が必要、という状況を打開したいというのが、顕微鏡の選定を始めたきっかけでした。

 

具体的には、どのような課題をお持ちだったのでしょうか。

波平:従来の顕微鏡では、撮影の「時間」と「画質」がトレードオフの関係にあったんです。
早く撮影できる顕微鏡は、n数は増やせるが、画質が低くて論文で使えるレベルに達しない。共焦点レーザー顕微鏡なら画質はハイレベルですが、設定や撮影に時間がかかりすぎて、n数が増やせない。あと、マルチウェルプレートでの撮影がうまくできないというのがネックでした。

 

「n数を増やす」ことは、重要性が高いのですね。

波平:動物実験では、ノックアウトマウス(遺伝子操作により1つ以上の遺伝子を欠損させたマウス)と正常マウスの比較、薬剤を投与したマウスと未投与マウスの比較などを行っています。実験のn数を増やすために、1条件群あたり何匹ものマウスを対象としますから、撮影すべきサンプルも当然多くなります。

 

新しい顕微鏡には、どのような要件を求めていたのでしょうか。

波平:1つは「マルチウェルプレートでスピーディーに撮影したい」、もう1つは「組織切片の全体像を、高画質・短時間で撮影したい」です。

 

マルチウェルプレートでの撮影も、重要な要件なのですか。

室冨:マルチウェルプレートなら、さまざまな薬品濃度での培養が一度に行えるので、そのまま撮影できればn数が格段に上がり、効率的にデータを収集できます。
マルチウェルプレートでの撮影ができなかった頃は、35mmディッシュをいくつも用意し、それぞれ違う濃度で培養する、または文献で調べてある程度決め打ちした濃度で培養する、そして1枚1枚撮影する、といった手法しかありませんでしたから、本当に大変でした。

 

マルチウェルとスライド、両方のデモを見て即決

THUNDERが候補となったきっかけは何だったのでしょうか。

波平:「広域画像が迅速に綺麗に撮れて、Z軸方向も綺麗に撮れて、操作の簡単な顕微鏡」という点をポイントに機種を探したところ、THUNDERが候補に挙がりました。そこで、96穴のマルチウェルプレートのサンプルと、免疫染色した組織切片のスライドについて、ライカにデモをお願いしました。

 

デモをご覧になった感想は、いかがでしたか?

波平:マルチウェルプレートの自動撮影は、高速で、しかもステージの音が静かだったことが印象的でした。音は、使用感に大きく影響しますからね。
また、画像が非常に高精細で、後に続く定量的なデータ解析にも適していました。従来、定量解析にはとても時間がかかっていたのですが、それを短縮できれば効率が格段にアップします。

 

組織切片のスライドのほうは、いかがだったでしょう?

波平:組織切片は、画像取得がZ軸方向も含めて非常に迅速で、かつ画像のクオリティの高さに目を見張りました。
あと、操作が簡単で、すぐ覚えられるのが良かった。共焦点レーザー顕微鏡だと、レーザーの出力・検出器のゲイン・スキャンスピードなどを決めるのが結構大変ですが、THUNDERだとその作業がなくて楽です。

 

定量解析は、サンプルが切片の場合でも重要ですよね。

波平:はい、たとえばマウスに投与する薬剤の濃度と、脳内のグリア細胞の面積変化の関係などを調べることがあります。脳組織切片サンプルの画像を観察し、細胞の形態変化をトレースするのですが、THUNDERなら高精細の画像が得られるので、定量的なデータを高精度で出すことができます。データが示す意味に重みが増した、という印象ですね。

 

zスタックでも、ボケのない、鮮明な画像が取得できる

厚みのあるサンプルの撮影について、お聞かせください。

波平:では、海馬の話をしましょう。我々は、海馬で行われる神経新生についても研究しています。この研究では、海馬を手前から奥まで何枚もの切片に分けて観察し、神経新生の担い手である神経幹細胞の海馬全体のなかでの総数や、新生された神経細胞の形態を把握することによって、はじめて一個体当たりのデータとして成立するのです。

しかし、切片といえども「厚み」はあります。手前の細胞は染まっているのが綺麗に見えるけど、奥の方で本当は染まっている細胞があっても、それに焦点が合わなくてよく見えない、というのは困ります。こういった厚みの問題をカバーしつつ、広い視野で、かつ連続切片で観察したい、と常々思っていました。
THUNDERは、XYの平面だけではなくZの深さ方向の画像も撮れるので、この問題をクリアできました。

 

実際のサンプルの画像をご紹介いただけますか。

波平:胎生17日目のマウス終脳を、蛍光染色した画像をご紹介します。切片の厚さは30um、20枚のzスタックをとり、重ね合わせた画像となっています。
使用している蛍光染色と、ターゲットのタンパク質の関係は、以下のとおりです。

どれも、左が従来の顕微鏡の画像、右がTHUNDERの「Computational Clearing」処理後の画像ですね。

波平:はい、右の画像ではボケが取り除かれているのがわかります。

波平:最後にご紹介するのが、上記4枚の画像をマージしたものです。右のTHUNDER画像では、各タンパク質の分布が鮮明に表れているのがわかります。

(右)画像の一番下に表示されているのは、100μmのスケール。

なるほど、マージした画像だと、THUNDERのボケ除去効果がより明確になりますね。

 

研究ペースの変化・コロナ禍で思うこと

THUNDERの使用時に気を付けていることや、今後の課題として考えていることはありますか。

波平:質の高いデータを取得するために、褪色には極力配慮しています。サンプルにうっかり照明を当てっぱなしにして褪色させてしまう、といった失敗は避けたいですね。

室冨:今後の課題として考えているのが、解析に使用するPCのスペック向上です。スペックを上げれば、さらに挙動がスムーズになり、時間も節約できると思っています。

 

THUNDERの導入によって、研究のペースなどの変化はありましたか。

波平:効率化が進んだことで、これまで何ヶ月もかかっていた実験の時間が短縮でき、研究成果を得るスピードが速くなりました。その結果、次の実験やステップに早く取り掛かれるようになりました。導入により時間が生まれた、とも言えますね。

 

コロナ禍のこの時代、研究者を取り巻く環境に変化はありますか。

波平:実は、研究者に求められる成果は、コロナ前とほとんど変わらないのです。これが厳しいところですね。論文の発表数は研究者の評価対象の1つですから、コロナ禍であっても成果を出していかなければならない。しかし研究はチームワークなので、出勤制限などがあると、一人が担うべきタスクが増えてしまいます。
だからこそ顕微鏡についても、クオリティの高いデータを効率的に得られる、誰でも簡単に操作できて、同じレベルのデータを得られるなど、研究者一人一人の負荷を軽減してくれる機能が重視されるのではないでしょうか。

 

脳の研究は魅力的!研究を楽しみ、異分野の仲間を作ろう

脳の研究の魅力や、今後の展望についてお聞かせください。

波平:私自身は、人間の脳がなぜこのように進化してきたのか、どうしたら脳を最大限活用することができるのか、を考えることに魅力を感じています。
我々のような解剖学的側面からのアプローチだけでなく、電気生理学的や機能的な側面からアプローチしている研究者もいます。こういった方々との共同研究により、今後もより理解を深めていきたいと思っています。

室冨:私は、脳の病気にも興味があります。人の寿命が延びている反面、認知症など脳の病気が増えているのも事実です。神経や神経幹細胞のキャラクターの研究から、病気の原因となるメカニズムを見つけ出すことに、大きな魅力や意義を感じています。

波平:脳細胞も、ときに意外な柔軟性を見せます。脳細胞がダメージを受けて機能を失ってしまっても、リハビリによって機能が再生する、または他の細胞がその機能をサポートする、といった事象が認められたりします。
この柔軟性がどうやって発揮されているのかを調べることにより、細胞が持っている潜在的な力を引き出すことができないか、とも考えています。

 

最後に、若手研究者の方々へのメッセージをいただけませんか。

波平:研究を楽しんでください!年齢を重ねると、研究以外の仕事によって時間が制限されてしまうんです。研究活動は辛く苦しい面もありますが、研究に存分な時間を費やせる若手の時期にめいっぱい楽しんで、経験値を積むことが、研究人生の糧になります。損得勘定抜きで、楽しむことに全力を尽くしてください。

室冨:周囲の空気に左右されずに、自分自身が研究を楽しむこと。そのうえで、仲間や横のつながりを作りながら、自分の研究を大きくしていくことが大事だと思います。

波平:そう、違う分野の人たちともつながることも大事。異分野の研究をしている仲間をたくさん作ると、ピュアな話ができる機会も増えますし、それが将来の共同研究につながる可能性もあります。異分野の人たちと多くのコミュニケーションを持てるのは、若い世代の特権ですから、その特権をぜひ生かしてください。

 

ありがとうございました。

 

産業技術総合研究所
波平 昌一 様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
バイオメディカル研究部門
脳機能調節因子研究グループ 研究グループ長
※研究内容の詳細はこちら

 

産業技術総合研究所
室冨 和俊 様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
バイオメディカル研究部門
脳機能調節因子研究グループ 主任研究員
※研究内容の詳細はこちら

 

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