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ライフサイエンス 2024.04.19

ミトコンドリアのダイナミクスを解析する~ライブセルイメージングを担う蛍光顕微鏡THUNDERイメージャー

 

生命維持に関わる重要な役割を持ち、ライフサイエンスでも注目されるミトコンドリア。しかしなぜミトコンドリアは融合・分裂するのか、その生理的意義はほとんど解明されていません。そんなミトコンドリアの形態制御に関する研究を行う、大阪大学 理学研究科 生物科学専攻 石原研究室 教授の石原 直忠さん(写真中央)、同専攻 大学院生 学振特別研究員の觀音 裕考さん(写真左)にお話を伺いました。

※写真は、データを提供してくださった大学院生の市川葵さん(写真右)と共に撮影。

 

面白くて役に立つ不思議なミトコンドリアの世界

ミトコンドリアは多機能な細胞小器官だと周知されているにも関わらず、その詳細は分かっていないことも多いと伺いました。ミトコンドリア研究の魅力はどのようなところですか。

石原:哺乳動物でミトコンドリアの研究をしていると、どんな結果が出ても健康や病気などの役に立つ情報につながりやすく、医療や創薬研究に関わる人が興味を持ってくれることが良いところです。
ミトコンドリアが多機能であることが周知されたのはおそらくこの10年、15年くらいで、分かっていないことも多くあります。エネルギーを作ることもするし、細胞を殺すこともします。それらと関係ないこともします。同じ場所で同時にいろんなことが起きているという意味で、不思議なことがたくさんあります。

觀音:僕は動くものが好きなので。ミトコンドリアの融合・分裂や、その中のミトコンドリアDNAが動くところが非常に面白いなと、動くということ自体が面白いなと思っています。
他にも動くものはありますけど、ミトコンドリアの動きを研究することで健康につなげることができるのなら、非常に素晴らしいことだと思って研究を進めています。

 

ライブ観察の精度を高めるTHUNDERイメージャーの導入

これまでご利用されてきた顕微鏡製品を教えてください。

石原:大きく分けると、共焦点顕微鏡、CCDカメラが付いている顕微鏡、オールインワンの顕微鏡の3種類を継続使用しています。既設の顕微鏡はそれぞれの特性があり、見え方や使い勝手も違うので、目的によって使い分けています。
単純に速い動きが撮れる顕微鏡もあれば、暗いけれど三次元的な構造がきれいに見えるもの、遅いけれどきれいに撮りたいときに使う顕微鏡もあります。たくさんのサンプルを次々見ていくようなことにも使っています。手軽さと見え方、生細胞観察をする時の時間、空間分解能。Z軸が特に大事になってくると思うのですが、それらを使い分けているのが現状です。

 

THUNDERイメージャーを知っていただけたきっかけは何ですか。

石原:顕微鏡に詳しい知人に、予算に収まる範囲で今おすすめの製品を聞いたところ、THUNDERを紹介されました。その頃、THUNDERを使ったことがあるという人が私の周りには誰もいなくて、あまり情報がなく、説明を聞いても分からないところがあったので、すぐにデモをしていただきました。

 

THUNDERイメージャーをご導入いただくにあたり、大きなポイントになったのはどのような点ですか。

石原:THUNDERはいろんな視点から私達の要望に良く合致していました。
まず、すごく簡単に明瞭な画像を得ることができます。またレーザーの蛍光が非常に明るいから見やすいです。高感度で撮影時間が速くできるため、より素早い動きを観察できます。フィルターの変換が素早いため、多重染色のタイムラプス観察にも向いています。さらにTHUNDER処理ができるので、Z軸のことをそれほど考えず精細な構造が撮れます。
自動ステージを使うと1つの大きいディッシュで多点ライブ観察ができるので、96-wellプレートを使った多数サンプルの観察においてもシステムとして自動化できてとても助かります。
ミトコンドリアなどの細胞内構造のライブセルイメージングをする上で、基本的にはすべてにおいてよくマッチしており、誰でも簡単に、また多くの目的に使うことができると思います。

 

96-wellプレートの多点観察した画像観察の一例(THUNDER処理を行った像)。HeLa細胞に、ミトコンドリアの形態制御に関わる遺伝子のsiRNAを処理した後に、蛍光タンパク質を用いてミトコンドリアを可視化し、THUNDERイメージャーを用いて対物40倍レンズを用いて観察した。各サンプルに対して画像を4枚ずつ撮影したのちに、タイリング機能を用いて一つの画像に統合した(左図)。 右図は、この画像の一部を拡大表示し、個々の細胞内のミトコンドリアの形態を観察しやすくしたもの。

タイムインターバルを短縮し、見える条件をフィックスする

ライブセルでミトコンドリアを観察されるときに、ミトコンドリアDNAや退色しやすいサンプルを低ダメージで撮りたいというご要望を伺っています。

石原:ミトコンドリアの構造のダイナミクスの研究が世界中で活発に行われており、そこでは顕微鏡を使用する状況ですが、ミトコンドリアの中のDNAを生きたまま観察するというのは、まだそれほど一般的に行っているわけではありません。
ミトコンドリアの中の酸素呼吸を行うために必須なミトコンドリアDNAを、顕微鏡で生きたまま見てやろう、というプロジェクトを研究室で觀音君が中心メンバーとなり進めています。
ミトコンドリアは、各社から良い蛍光プローブが出ているので、シンプルなものでも蛍光顕微鏡があればきれいに見えます。ミトコンドリアDNAは、良い染色試薬、良いプローブがないという技術的な問題があります。そんな悪い染色状況でも何とか見えるように、しかも生きたまま細かく高精細に、長時間見えるように、觀音君が顕微鏡で条件を決めてくれています。

 

実際にそのミトコンドリアDNAをTHUNDERイメージャーでご覧になったときは、いかがでしたか。

觀音:非常にきれいに、かつ速く見えます。今まで使っていた顕微鏡に比べても、タイムインターバルがかなり短くできたこと、かつ長時間の観察ができていることが、THUNDERの最大の利点かなと思います。
先ほど石原先生がおっしゃっていたように、ミトコンドリアDNAを見る染色試薬にはあまり良いものがなく、かなり激しく褪色します。今までは数分見ていたら何も見えなくなるような状態でしたが、THUNDERの顕微鏡では10分程度の生細胞観察を続けても十分に解析を行うことができます。かなりの長期間において、素早いミトコンドリアDNAの動きを十分きれいに観察できるようになりました。
核酸を蛍光で染色する一般的な試薬(SYBR Green I)を使用していますが、ミトコンドリアDNAをきれいに、また特異的に見ることができるような染色・観察条件を検討しています。ただ、どうしてもシグナルが弱かったり、褪色しやすかったりという難しさがまだある状態で、改良を続けています。

 

染め分けができているというイメージですね。このとき、蛍光は何色で見られますか。

觀音:ミトコンドリアとミトコンドリアDNAの2色で見ることが多いです。

 

HeLa細胞のミトコンドリアをMitoTracker Redで、ミトコンドリアDNAをSYBR Green Iで2重染色した後に、THUNDERイメージャーで10秒ごとに10分間の生細胞観察を行った。 この図には観察開始時、300秒(5分)後、600秒(10分)後の撮影像を示している。 左が撮影のRawデータで、右がTHUNDER処理を行った像。ミトコンドリアDNAの比較的弱いシグナルでも精細な核様体構造が観察できている。 

タイムインターバルを短く、かつ長く見られているということは、撮影枚数的にかなり多くなるのでは。

觀音:10秒間隔10分間の撮影でZスタックを含め撮影枚数は300枚くらい。ミトコンドリアとミトコンドリアDNAの2色を見ているので撮影枚数はその倍という形になります。

 

問題を克服し、イメージングを成功に導く

THUNDERイメージャーを使ってそのイメージングを成功されるまでの間に、ご苦労されたところはありますか。

觀音:やはり褪色の部分です。今までの顕微鏡でも、シャッタースピードなどの問題で設定したよりも光が当たることがあります。おそらくその影響もあって長時間の観察はできなかったのではと考えていますが、そこの問題を克服するのが大変でした。THUNDERではこの問題を克服できたということが、イメージング成功の大きなポイントかと思います。

石原:今まで使っていた顕微鏡は一応全自動でしたが、THUNDERは、さまざまな良いシステムを組んだフルセットの高速フィルターホイールの形で入れていただいたため、狙ったときだけ最低限度の照射で観察が可能となっています。

 

さまざまな機能を存分に活用いただき、問題を克服されたことが何よりもすごいことだと思います。

 

スクリーニングと定量化への取り組み

今後の研究課題についてお聞かせください。

石原:スクリーニングと定量化の問題があります。ミトコンドリアの形は1個1個が大きく異なるので、写真できれいに撮ることはできても違いを数値化することが難しく、これまでもさまざまな方法が取られてきました。
客観的、定量的な、また特に自分たちのこれまでの研究とよく合致した定量化ができるように、THUNDERで撮影した細胞内のさまざまな構造を自動で解析して、さまざまなパラメータを自動で出してくれるようなシステムにしたいと思っています。THUNDERであれば、誰が撮ってもある程度客観的な数値化ができるようになることを目指しています。

 

まずはサンプルにマッチしたパラメータで、将来的には皆さんで同じ質の解析ができるよう自動化することを目指している、ということですね。

石原:ユニバーサルにできればいいのですが、やはり顕微鏡によって違うし、対物レンズによっても見え方が変わってしまいます。だからこの顕微鏡のこの対物レンズで見たときに、というレベルでの定量化をしようと思っています。
それともう一つ、多点観察やスクリーニングについても準備を進めています。自動撮影と定量化によって、より簡単に遺伝子や化合物のスクリーニングできるようになることを期待しています。96-wellプレートで自動撮影はできるため、まもなく実現できるというところに来ています。

 

觀音:通常は基本的には元のRAWデータを見ないで、THUNDER処理をした画面だけ出てくるような設定にしています。両方とも保存されていて一応、僕は両方見るようにしていますが、多くの人は多分THUNDERでしか見ていないように思います。

石原:まず目で見る、次にRAWで撮ったものを見たうえで、THUNDER処理をしたものが目で見たものと同じように見える。その3点をちゃんと確認するように、若い使い始めの人たちには言わないといけないですね。

 

大阪大学 石原研究室
石原 直忠 様

理学研究科 生物科学専攻
教授
※研究内容の詳細はこちら

 

大阪大学 石原研究室
觀音 裕考 様

理学研究科 生物科学専攻
大学院生 学振特別研究員

 

大阪大学 理学研究科 生物科学専攻 石原研究室

オルガネラ膜のダイナミクス、特にミトコンドリアの形態制御の分子機構と生理機能の解析から生命の本質に迫る研究を行う。
https://mitochondria.jp/

 

 

蛍光顕微鏡のニューノーマル
THUNDERイメージャー

蛍光顕微鏡で画像を取得する際に発生してしまう、蛍光「ボケ」を徹底的に取り除き、驚くほどシャープでクリアな画像を得ることができる最新鋭の蛍光イメージングシステムTHUNDERイメージャー。複雑な挙動を示す生体サンプルの蛍光ボケさえも、リアルタイムに分離・除去します。培養細胞からモデル生物まで、幅広いサンプルを「超」高精細に観察することができ、これまでのソフトウェアやハードウェアよりもアーティファクトの無い画像を素早く、簡単に取得できるのが特徴です。

蛍光顕微鏡のニューノーマル THUNDERイメージャー

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